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高齢化社会が進む中、老人ホームの選択は多くの方にとって重要な決断となっています。その際、見落としがちなのが契約形態の違いです。老人ホームには主に「利用権方式」と「建物賃貸借方式」という2つの契約形態がありますが、これらの違いは、将来の生活設計や資産管理に大きな影響を与える可能性があります。
本記事では、とくに「利用権方式」に焦点を当て、その特徴やメリット・デメリットを詳しく解説します。また、建物賃貸借方式との比較を通じて、どちらの契約形態が自分や家族に適しているのかを判断する際の参考としていただけるでしょう。
利用権方式とは、入居者が施設に一定の金額(入居一時金など)を支払うことで、終身または一定期間、その施設を利用する権利を得る契約形態です。
この方式では、入居者は施設の一部を「所有」するわけではなく、あくまでも「利用する権利」を購入するという考え方になります。費用は居住費やサービス費が含まれたパッケージ化されたものとなっています。
なお、終身契約の場合は入居者の死亡まで契約が継続しますが、要介護度が上がるなど、入居中に入居者の身体状況が変化することで退去しなければならないケースがあります。契約時によく確認しておきましょう。
建物賃貸借方式とは、老人ホームの契約方式の一つで、一般のアパートやマンションを借りるようなイメージに近い契約形態です。
毎月一定の家賃を支払うことで、部屋を借りられます。一般的な賃貸住宅と同様に、入居時に敷金や礼金が必要となることが多いでしょう。
利用権方式は入居一時金が高額である一方、月々の費用は比較的低めに設定されています。対して、建物賃貸借方式は入居時の費用は低めですが、月々の家賃が発生します。
老人福祉法に基づく有料老人ホームでは利用権方式が主流となっており、一方で建物賃貸借方式は、高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)に基づくサービス付き高齢者向け住宅で多く採用されています。これらの違いを理解することで、自身のニーズに合った選択ができるでしょう。
国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅について-高齢者の住まいについて-」
終身建物賃貸借方式は、通常の建物賃貸借方式の特徴を持ちながら、入居者の終身にわたる居住を保障する契約形態です。
この方式と利用権方式には、重要な違いがあります。
建物賃貸借方式は、借地借家法という法律によって整備されている施設の契約方式です。契約期間に関しては、終身建物賃貸借方式は文字通り入居者の終身にわたる契約(賃借人の死亡に至るまで)です。この方式では、賃借人の権利が法律によって強く保護されており、正当な理由がない限り、貸主側から契約を解除することはできません。
一方、利用権方式は法律に基づく契約形態ではないため、施設側の経営状況などに影響を受けやすい面があります。
なお終身建物賃貸借契約は、賃借権が相続されない契約です。ただし、夫婦で入居している場合は、契約者が亡くなったときに、配偶者は1カ月以内に申し出ればそのまま住み続けることができます。
※出典:国土交通省「終身建物賃貸借契約の手引き」
利用権方式の支払いシステムには以下の3つが挙げられます。
前払い式は、入居時に将来の利用料を前もって支払う方式です(別途、食費などは月々の支払いとして発生します)。
1カ月にかかる費用(家賃や管理費、介護費など)を計算し、平均寿命から割り出される想定入居期間分の費用を、一括で支払います。前払い金は通常、入居期間に応じて償却されていきます。この方式では、入居時に高額の一時金を支払うことで、月々の支払いを光熱費や食費などの実費のみに抑えられるのが特徴です。
前払い式のメリットは、将来の費用増加リスクを軽減でき、月々の支払いが少額で済むため年金生活者にとって家計管理がしやすくなる点です。また、相続税対策として活用できる可能性もあります。
一方で、入居時に高額の資金が必要となることや短期間で退去する場合に費用対効果が低くなる可能性、さらに施設の経営破綻時に前払い金の返還が困難になるリスクなどがデメリットとして挙げられます。
月払い式は、入居時の一時金をなくし、すべての費用を月々の支払いで賄う方式です。
この方式では、入居時の一時金がないか、あっても少額で済みます。毎月の支払い額には、居室利用料、サービス利用料、食費、光熱費などすべての費用が含まれます。
月払い式のメリットは、入居時の資金負担が少なくて済み、資金を他の用途に活用できる自由度が高くなる点です。また、短期間の利用でも費用対効果が見合いやすくなります。
しかし、毎月の支払い額が高くなることや、将来的な費用増加のリスクがあること、さらに年金だけでは支払いが難しい場合があることなどもデメリットとして考えられます。
入居一時金式は、前払い式と月払い式の中間的な性質を持つ方式です。
この方式では、入居時に一定額の一時金を支払い、それに加えて月々の利用料も支払います。一時金の額と月々の支払い額のバランスは、施設によってさまざまです。
入居一時金式のメリットは、前払い式ほど高額の初期費用は必要ないものの、月々の支払いを抑えることができる点です。また、一時金と月々の支払いのバランスを、ある程度自分の経済状況に合わせて選択できる柔軟性があります。さらに、一時金の一部が返還される契約も多く、中途退去時のリスクを軽減できます。
ただし、ある程度まとまった初期費用が必要であることや契約内容が複雑になりやすく理解が難しい場合があること、一時金の返還条件や償却方法を十分に確認する必要があることなどがデメリットとして挙げられるでしょう。
利用権方式には、高齢者やその家族にとって魅力的なメリットがいくつか存在します。以下に主なメリットを詳しく解説します。
利用権方式では、入居一時金の設定に一定の柔軟性があります。施設によっては、一括払いだけでなく分割払いのオプションを用意しているところもあります。こういったところを選べば、まとまった資金がない場合でも入居の機会を得やすいでしょう。
入居一時金を前払いすることで、その後の費用負担を抑えられます。これにより、長期的な視点で見た場合の費用負担を安定させられます。将来の介護費用の上昇リスクを軽減し、安定した老後の生活設計を立てやすくなる点も大きなメリットといえるでしょう。
利用権方式にはメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。以下に主なデメリットを詳しく解説します。
利用権方式のデメリットの一つは、高額な入居一時金が必要となるケースが多いことです。とくに全額前払いをする場合、数千万円規模の資金が必要となる場合も多く、高齢者やその家族にとって大きな経済的負担となります。
また、入居一時金を工面するために自宅を売却したり、貯蓄を大きく取り崩したりする必要がある場合、将来の経済的選択肢を狭めてしまう可能性もあるでしょう。とくに、予期せぬ事態や急な出費に対応する柔軟性が低下するリスクがあります。
利用権方式では、高額な費用を前払いすることが多いため、もし「施設が合わない」と思っても、施設を移るのは難しいでしょう。また、一度入居すると、介護度が変化しても同じ施設内でのケアを継続することが前提となる施設が多いため、状況に応じて柔軟に住まいを変更することが難しくなります。これは、将来的なケアの選択肢を制限することにもつながります。
さらに、入居者の生活の質が施設の経営状態に大きく依存する点もデメリットです。施設の経営が悪化した場合、サービスの質の低下や契約条件の変更、最悪の場合は施設の閉鎖により退去を余儀なくされるリスクがあります。
老人ホームの利用権方式契約を結ぶ前の注意点をご紹介します。
契約書は複雑で長文になりがちですが、その全容を理解することが極めて重要です。とくに入居一時金の取り扱い、月々の費用の内訳、サービス内容、契約期間、解約条件などの主要な項目については、細部まで把握しておく必要があります。不明な点があれば、施設側に質問し、納得のいく説明を受けるまで確認を続けることが大切です。
専門用語や法律用語が多用されている場合は、その意味を正確に理解することも重要です。
重要事項説明書についても理解しておきましょう。重要事項説明書は、老人ホームなどの高齢者向け住宅やサービスを利用する際に、事業者が入居希望者や利用者に対して提供する重要な文書です。その主な目的は、入居希望者や利用者が施設やサービスを選択する際に必要な情報を提供し、契約内容を理解しやすくすることにあります。
入居者の権利を保護し、事業者との間で生じる可能性のあるトラブルを未然に防ぐ役割を果たしています。
入居時の費用だけでなく、将来的な費用の変動可能性についても十分に確認する必要があります。とくに、介護度が上がった場合の追加費用、物価上昇に伴う利用料の値上げ、新たなサービスの追加に伴う費用増加などについて、具体的にどのような条件で、どの程度の費用増加が見込まれるのかを確認しておくことが重要です。これにより、長期的な生活設計を立てる際の不確定要素を減らせるでしょう。
入居一時金の返還条件は、施設によって大きく異なります。退去時にどの程度の金額が返還されるのか、どのような条件で返還額が決まるのかを詳細に確認する必要があります。とくに、入居期間による償却の仕組みや、中途解約時の取り扱いについては、具体的な数字を用いて説明を受けることが望ましいでしょう。また、施設の経営破綻時における入居一時金の保全措置についても確認しておくべきです。
提供されるサービスの具体的な内容と、その利用条件を詳細に確認することが重要です。食事、清掃、洗濯などの基本的なサービスから、介護サービス、医療サービスまで、どのようなサービスがどの程度提供されるのかを明確にしておきましょう。また、これらのサービスが月々の基本料金に含まれているのか、それとも別途費用が発生するのかについても確認が必要です。
将来的に契約を解約する可能性も考慮に入れ、解約条件と手続きについて事前に確認しておくことが重要です。とくに、入居者側からの解約と施設側からの解約では条件が異なる場合があるため、両方のケースについて十分に確認しましょう。また、解約に伴う精算方法や退去までの期間、荷物の搬出期限なども確認しておくべき重要な点です。
契約を結ぶ施設の経営状況や将来性について、可能な限り調査することが望ましいでしょう。施設の運営実績、企業としての財務状況、将来の事業計画などを確認することで、長期的に安定したサービスを受けられる可能性を判断できます。また、同業他社との比較や第三者機関による評価なども参考になるでしょう。
契約内容について、家族や専門家(弁護士、ファイナンシャルプランナーなど)と相談することも重要です。とくに高額の契約となる場合は、法律面や資金面での専門的なアドバイスを受けることで、より適切な判断ができる可能性があります。また、家族間で十分に話し合うことで、将来的なトラブルを防げるでしょう。
老人ホームの契約形態選択は、単に費用面だけでなく、生活の質や将来の安心感にも大きく関わる重要な決断です。利用権方式と建物賃貸借方式、そして終身建物賃貸借方式のそれぞれの特徴を理解し、自身や家族の状況、希望するライフスタイルに合わせて選択することが大切です。
また、契約内容を十分に理解し、疑問点はその場で解消することも重要になります。必要に応じて、法律の専門家や福祉の専門家にアドバイスを求めることも検討しましょう。
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