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皆さんは、日常生活においてたくさんの契約を交わしています。例えば、お店で物を買うときは、店員との間で売買契約を交わしていることになります。
では、買物のたびに契約書を交わしているかといえば、必ずしもそうではありません。むしろ、日常生活においては、買物の際に契約書を交わすことはほとんどないでしょう。
しかし、ビジネスの世界では、契約書の作成を避けて通ることはできません。本稿では、契約書作成の意義、作成までの流れ、主な契約条項、形式のほか、知っておくべきマナーなどについて解説していきます。
日常生活に最も身近な法律は民法です。民法は、契約に関する一般法でもあり、売買、賃貸借、消費貸借など13種類の典型的な契約について成立要件などの規定を置いています。
契約は、「申込み」と「承諾」によって成立するという伝統的な見解がありましたが、2020年4月、120年ぶりの民法改正によってようやくこれが明文化されました(民法第522条第1項)。
改正法では、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないとしています(民法第522条第2項)。
つまり、契約は当事者双方の合意があれば、口頭でも成立し、形式としての契約書は必ずしも作成しなくてよいのです。
では、なぜビジネスの現場では契約書を作成するのでしょうか。
ビジネス上の取引では、取引金額が高額になる上、契約内容が複雑であり、当事者双方が書面で確認することが重要になってきます。万が一、トラブルになり、裁判で争うことになった場合、証拠として書面が必要です。契約書には、こうしたトラブル回避や裁判上の証拠といった重要な役割があるのです。
なお、民法上の契約のほとんどは契約書を不要とする不要式契約ですが、保証契約については、書面で締結しなければ効力が生じないとされています(民法第446条第2項)。
ところで、契約書と紛らわしい文書に「覚書」「誓約書」がありますが、契約書とはどこが違うのでしょうか。
まず、覚書は、契約書を作成する際、その前段階で合意した内容を文書にしたり、契約書の作成後に変更内容を追加したりする場合に作成されます。契約書を補完するものといえるでしょう。法的には、契約書と同等の効力を持っています。
次に、誓約書ですが、「念書」と呼ばれることもあります。これは、当事者の一方が相手方に対して約束した内容を書面に明記し、約束した旨を証明する目的で作成されます。
誓約書は、当事者の一方の意思表示だけが書面に記載されているため、双方が合意している契約書や覚書と同様の法的効力があるとはいえません。ただし、裁判の際の証拠資料としては一定の効力があります。
では、契約書はどのような流れで作成していくのか見ていきましょう。
一般的には、
という手順になります。
契約書は、当事者双方が合意したことを文書にするものであり、契約書を作成する前に合意内容を明確にしておくことが重要です。
具体的には、契約書に契約条項として盛り込む事項(契約の目的、金額、条件など)について、当事者間で入念に確認しておく必要があります。
契約内容の確認後、契約書のドラフト(下書き)を案として作成します。契約書のテンプレートをお持ちであれば、具体的な契約内容を落とし込んでいけばよいでしょう。
当事者の一方がドラフトを作成し、出来上がったものを両者で確認しながら、必要に応じて加筆・修正することになります。
契約書のドラフトが確定したら、次は製本作業になります。一般的に契約書は、当事者が2名の場合は原本を2部作成します。ほかにも当事者がいれば、その人数分を作成することになります。
株式会社であれば、通常、代表取締役が自署の上、会社印を押印します。個人の場合は、印鑑登録済みの実印や相手が認めたハンコもしくは署名を使用することになるでしょう。
最後に、一方が署名・押印した契約書2部を相手方に郵送します。契約書を受け取った当事者は、同様に署名・押印し、契約書の1部を相手方に返送します。双方で取り交わされた契約書は、その後、互いに大切に保管します。
契約書作成の流れを確認したところで、次に、契約書の体裁について説明していきましょう。
契約書には、一般的に次のような事項が盛り込まれています。
契約書が複数ページにわたる場合、ホチキスなどで留めるだけでなく、製本する慣例があります。この場合の製本とは、書類の複数のページの片側をのり付け、またはホチキスなどでしっかりと留めて本のような状態にし、留めた側を製本テープなどで固定する方法を指します。
なお、必ずしも製本テープを使う必要はなく、製本テープ以外の用紙を、短冊状に切って使用しても問題ありません。こうした綴じ方は「紙とじ(紙綴じ)」とも呼ばれます。
何のための契約なのか、「売買契約書」「業務委託契約書」など、契約書の冒頭に表題を記載します。
契約の要旨とともに、契約書で繰り返し表記される当事者の会社名などは、略称(甲、乙など)を決めておき、前文で示しておきます。
以下、各条項ではその略称で表記します。
例えば、「株式会社〇〇(以下、甲とする。)と、株式会社〇〇(以下、乙とする。)は、〇〇に関して業務委託契約を締結する」のように記載します。
契約の合意事項を契約条項として記載します。当事者双方に生じる権利・義務だけでなく、リスクについても想定しておく必要があります。
ここでは、最低限、記載すべき基本的な条項を挙げておきます。
例えば、売買契約においては対象となる商品や物件、業務委託契約においては委託する業務の範囲などを正確に特定しておきます。
支払価格については、税込みであるか否かを明確にします。支払方法は、一括払いでなく分割払いとする場合には、その点も明記します。また、振り込みであれば、振込手数料をどちらが負担するかについても記載します。
また、一括払い、分割払いのいずれの場合も支払期間を明らかにします。
売買契約の場合、上記の金銭の支払関係と、対象となる物件の引き渡し関係が契約条項の主な内容となります。
引き渡しの期限と方法を明記します。不動産売買契約の場合、対抗要件となる登記の手続きについても記載することになります。
業務委託契約など、契約の性質上、期間を定めておく必要がある場合は、契約の有効期間を定めます。
当事者の一方に契約上の債務不履行などがあった場合を想定し、契約解除事由と方法を記載します。
また、解除に際して、事前の催告を必要とする場合、無催告解除ができる場合についても条項を設けておきます。
債務不履行によって損害が生じた場合、相手方に損害賠償を請求することができます。損害賠償請求は、民法において権利として規定されているため、本来は契約条項に定める必要はありません。
しかし、実際に発生した損害額を主張・立証することが難しい場合が多いため、契約書に損害賠償額を予定する特約条項を入れるケースも少なくありません。
売買契約などにおいて、両当事者の責任なく債務を履行できなくなった場合に、 他方の債務をどちらが負担するのかが危険負担の問題です。基本的には、引き渡しをもって危険が移転するというルールを盛り込むのがよいでしょう。
つまり、納品前に生じた滅失、毀損その他の危険は、その危険が買主の責めに帰すべき事由がある場合を除いて売主の負担とし、一方、納品後に生じたものは、売主の責めに帰すべき事由がある場合を除いて買主の負担とする、という内容を盛り込むことになります。
民法改正によって、従来の売主の瑕疵担保責任の仕組みが廃止され、従来の債務不履行責任の特則であった契約不適合責任についての規定が新設されました。
売買などで、物品の種類・品質・数量について契約内容に適合しない場合、契約解除権、損害賠償請求権以外に追完請求権、代金減額請求権が生じます。これらについても契約条項に記載します。
契約内容によっては、取引を通じて相手企業の経営上の戦略や顧客情報などの秘密情報を取り扱うことがあります。
そのため、一方が知り得た情報を第三者に漏洩することを禁止する条項を設ける必要があります。
契約に関してトラブルが生じた場合、訴訟に発展することも想定されます。提訴する裁判所を双方の合意によってあらかじめ決めておきます。
裁判は相手方が提訴した裁判所で行われることになるため、遠方で裁判を起こされると交通費などの移動費用がかかってしまいます。
この点を踏まえて管轄について合意しておきましょう。
契約締結後に想定外の事態が生じることも考えられます。こうした場合、改めて当事者間で協議して解決する必要があります。そこで、契約書にそのような協議を行う旨を明記します。
主な契約条項を挙げましたが、これ以外にも当事者が合意した事項を記載することは可能です。ただし、強行規定、公序良俗に反する契約、不法行為を契約内容とする契約、個人の権利や自由を著しく不当に制限する契約は無効となります。不安がある場合は弁護士や社内法務担当によるリーガルチェックを受けましょう。
後文とは、契約書の内容を締めくくるものであり、当事者間で契約が成立したこと、契約書の保管などについて記載されます。
例えば、「本契約成立の証として、契約書2通を作成し、甲乙それぞれ署名・押印の上、各1通を保管する」と記載します。
契約がいつから有効となるのかを明らかにするため、契約締結日を記載します。和暦・西暦のどちらでも構いません。
契約書の最後に、契約当事者全員が署名・記名押印します。
契約書作成の流れの中で、製本、署名・記名押印などについても触れました。ここでは、若干、説明を補足しておきます。
一般的に、契約書は横書きで複数ページにわたります。製本はホチキス止めで構いません。通常、契約書の左側2カ所をホチキス止めします。
ホチキス止めした後、契約書の縦の長さに合わせて細長く切った紙を縦折りにして契約書の背に糊付けしておくと、補強できるだけでなく、体裁も整います。また、紙ではなく製本テープを使う方法もあります。
署名は、自署以外にゴム印などによる「記名」と代表印や実印などの「押印」を組み合わせることで代用することできます。
契約書が1枚で、原本と写しなど2部以上作成した場合は、関連性・同一性を示すため、作成した契約書の1部を重ねて割印を押します。
印紙税法上、課税文書とされる契約書には、収入印紙を貼付しなければなりません。課税文書に該当するかどうかは、「印紙税法 別表第一 課税物件表」で判断します。
また、印紙税額は「印紙税額一覧表」で確認できます。
【参照】国税庁「印紙税額一覧表」
契約書作成までの主な流れと契約条項などについて解説してきました。ここでは、契約書を作成する際の全般的なルールとマナーを確認しておきましょう。
まず、契約書に記載された事項について、当事者双方の解釈に齟齬があってはいけません。解釈が分かれるような表現は避けることが大切です。
物品の数量などに限らず、数値化できるものは可能な限り、明確化するようにします。少しでも不明な点があれば、契約書作成時に当事者間で話し合って認識にズレがないようにしておく必要があります。
なお、契約書は2部作成し、まず当事者の一方が署名・押印の上、2部とも相手方に送付します。その際、送付状と返信用封筒を同封し、「特定記録郵便」「簡易書留」「レターパック」のいずれかで送付するのがよいでしょう。いずれも配達状況や配達の記録をインターネットで確認することができます。
最近は、紙の契約書に代わって電子契約を活用するケースが増えてきました。電子契約とは、電子文書に電子署名をして締結する契約のことです。電子契約には、以下のようなメリットがあります。
契約書の作成・送付・保管などの業務が全てオンラインで可能です。
電子契約では、電子証明書を用いた電子署名やタイムスタンプが付与されます。これらは最新技術によって契約書の偽造を防ぐ仕組みであり、文書が改ざんされていないを担保することができます。
前述のように、紙の契約書には印紙税がかかります。電子契約は紙の契約書ではないため、印紙税はかかりません。さらに郵便代金もかからないため、コスト面でも大きなメリットがあります。
電子契約は、クラウド上で保管できるため、紙の場合に必要だった保管にかかる費用も削減できるでしょう。さらに、電子契約は印紙税の課税対象文書にはあたらないため、印紙を貼る必要がないのも大きなメリットです。詳しくは、電子契約書を導入するメリットでもご紹介していますのでご参照ください。
契約書の作成は、ビジネスにおける取引では避けて通ることができません。トラブルを回避するには、当事者間の合意事項が間違いなく記載されているだけでなく、双方の解釈に齟齬がないことが重要です。
契約書作成までの主な流れと契約条項についてよく理解しておきましょう。
とはいえ、契約書の製本は改ざん防止のために必要とはいえ袋とじや契印の手間がかかります。しかし、電子契約であれば、製本も押印も必要ないばかりか、印刷や郵送といった面倒な作業がすべてなくなります。
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