2022年に施行された改正電子帳簿保存法は、2023年12月31日までの猶予期間を経て、2024年1月から電子データによる領収書などの保存が義務化されました。電子データの保存方法については、電子帳簿保存法で定められていますが、電子データの改ざん防止を目的として、規定が設けられています。
規定の一つが事務処理規定です。事務処理規定の作成運用により、タイムスタンプによる日付の記入など、システムを導入しなければならない状況を回避することができます。
電子帳簿保存法まるわかりガイド
電子帳簿保存法について詳しく知りたい方におすすめ!
目次
電子データの取引に関する保存要件
保存要件とは、電子データの保存の際に、改ざんや抹消などを防ぐために設けられた要件です。税務署は企業が提出する確定申告書を精査する場合、電子データが確実に添付されているかを確認します。要件を満たすことで税務職員が、企業の電子帳簿や電子データを確認する作業をスムーズに行えるようになります。
電子取引における電子データ保存には、可視性および真実性の確保が要件として求められています。可視性の確保とは、税務員など第三者が電子データを確認できるようにすることを指します。真実性の確保とは改ざんや抹消などを防止するために定められた要件です。電子データの真実性を担保するために必要になります。
可視性の確保に関する要件
可視性の確保については、見読可能性の確保と検索機能の確保が要件です。
可視性の確保
要件 見読可能性の確保 施行規則第3条第1項第4号
帳簿に係る電磁的記録の保存等をする場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと
要件5 検索機能の確保 施行規則第3条第1項第5号
帳簿にかかる電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくこと
- (イ)取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索条件として設定できること
- (ロ)日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
- (ハ)二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること
引用元:電子帳簿保存時の要件|国税庁
見読可能性の確保とは、税務員が電子データを目視で確認できるモニターなどを設置することを指します。マニュアルを備えつけて、端末を操作できるようにすることも必要です。
検索機能の確保では、条文(イ)で取引された年月日、取引された金額、勘定科目を記録することが定められています。また、あわせて電子データを検索可能な状態にしておくことが求められています。
条文の(ロ)で定められているのは、条文の(イ)で処理をした電子データについて検索する際の条件です。たとえば、西暦と月で条件設定を行なって検索する場合、12月の取引を日付ごとに表示可能とすることを意味します。
条文(ハ)は、2つ以上の任意項目で検索可能にするという意味です。たとえば、取引年月日、取引先を入力すると、その月の該当する取引が表示できるようにする必要があります。
真実性の確保に関する要件
真実性の確保については、訂正削除の履歴や、関係性などを確認できることが必要です。
真実性の確保
要件 訂正・削除履歴の確保(帳簿) 施行規則第3条第1項第1号
帳簿に係る電子計算機処理に、次の要件を満たす電子計算機処理システムを使用すること。
- (イ) 帳簿に係る電磁的記録に係る記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること
- (ロ) 帳簿に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後に行った場合には、その事実を確認することができること
要件 相互関連性の確保(帳簿) 施行規則第3条第1項第2号
帳簿に係る電磁的記録の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できるようにしておくこと
要件 関係書類等の備付け 施行規則第3条第1項第3号
帳簿に係る電磁的記録の保存等に併せて、システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)の備付けを行うこと
引用元:電子帳簿保存時の要件|国税庁
事務処理規定について理解しよう
電子帳簿保存法では、注文書や領収書などの書類を、電子データで保存することが認められています。電子データで保存したり、管理したりする際の社内規定を定めたものが事務処理規定です。領収書などの書類が許可なく訂正削除されることを防ぐために規定するものです。
事務処理規定を設けるのは、タイムスタンプなどのシステム運用ができない場合が多くなっています。しかし、タイムスタンプなどのシステムを運用している場合でも、事務処理規定を設けることは可能です。
事務処理規定を運用するメリットとは
事務処理規定を設けることには、法人や個人事業主に一定のメリットがあります。メリットを理解することで、事務処理規定の導入を検討する際の判断材料になります。
経理業務の効率がアップする
事務処理規定を導入することで、事務処理に関する責任者を明確にすることが可能です。保存対象についても事務処理規定に明記することになるため、事務処理責任者が常に電子データの保存や発行を監督できるようになります。これにより、電子データの保存や発行に関連した業務でトラブルが発生した場合でも、責任者がすぐに対応できるようになり、問題点も速やかに見つけられるようになります。
電子データの保存対象を明確にすることで、紙での書類保存と、電子データによる保存を明確に区分できるようになります。紙の書類は電子化不要なため、その分の事務処理が軽減されることがメリットです。
電子データとして保存する対象を判断しやすくなる
事務処理規定を定めることのメリットとして、保存対象を判断しやすくなることがあげられます。電子データとして保存する対象の範囲が明確になることから、電子データ化すべきかどうか迷った時には、規定を確認することで、すぐに判断可能です。
規定が定められていないと、判断に迷った際の調査や問い合わせで手間が掛かってしまいます。しかし、あらかじめ規定が定められていれば、そのような手間がなくなり、時間の節約と作業効率の向上が望めます。
担当者が変わったときでも引き継ぎが楽
経理担当者の変更で、大変なのが引き継ぎ作業です。事務処理規定を定めておくことで、後継の担当者も事務処理規定に従った処理を行うことが可能となり、不明点だけを前任者に尋ねれば良くなるので、引き継ぎが楽になります。規定が明確になっているので、新入社員に規定を伝える場合でも、スムーズに行うことが可能です。
事務処理規定の作成方法
事務処理規定の作成方法については、国税庁がホームページでひな型を公表しています。公表されているひな型は基本的な項目になっているため、法人や個人事業主のそれぞれの状況にあわせて適宜内容を調整する必要があります。
事務処理規定の主題
国税庁の事務処理規定のひな型では、あらかじめ主題が付されています。ひな型ですので、内容を調整しても特に問題はありません。そのまま使用することもできますし、よりわかりやすいものに書き換えても差し支えありません。
電子取引データの扱いに関する規定
ひな型で取り上げられているのは、一般的なものに過ぎません。ひな型に記載されている内容ではわかりにくいと感じたり、より詳細を加える必要があると感じたりする場合には、内容に加筆してわかりやすいものに変える必要があります。規定には、ICカード決済や、クレジットカードで決済した場合などについての項目が一切ありません。対象になるものがあれば、リストにまとめて、この項目に加えるようにしてください。
電子データの保存期間
ひな型では電子データの保存期間をサーバ内に〇〇年間保存すると記載されています。保存期間については10年間もしくはそれ以上の期間を設定している法人や個人事業主が多いため、ある程度長い期間を想定して設定するのが良いでしょう。
対象になる電子データ
対象になる電子データについては、自社が対象とすべきものを列挙して、ここに記入します。項目にないもので、追加すべきものについては必ず記入しておきましょう。
紙ベースの書類をスキャンして保存する規定
紙の書類をスキャンして保存する場合、電子データの削除や訂正について禁止する旨の規定を記入します。具体的には、次のとおりです。
1.削除や訂正について禁止する書類の対象
2.電子データに変換し、電子データファイルを保存する手順
3.電子データの保存期間
4.削除や訂正をしなければいけない場合の手順や規定
5.紙の原本を処理する規定
事務処理規定に関するひな型は国税庁のホームページからダウンロードできるようになっています。
(法人の例)
電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程
第1章 総則
(目的)
第1条 この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第7条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を履行するため、○○において行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録を適正に保存するために必要な事項を定め、これに基づき保存することを目的とする。
(適用範囲)
第2条 この規程は、○○の全ての役員及び従業員(契約社員、パートタイマー及び派遣社員を含む。以下同じ。)に対して適用する。
(管理責任者)
第3条 この規程の管理責任者は、●●とする。
第2章 電子取引データの取扱い
(電子取引の範囲)
第4条 当社における電子取引の範囲は以下に掲げる取引とする。
一 EDI取引
二 電子メールを利用した請求書等の授受
三 ■■(クラウドサービス)を利用した請求書等の授受
四 ・・・・・・
記載に当たってはその範囲を具体的に記載してください
(取引データの保存)
第5条 取引先から受領した取引関係情報及び取引相手に提供した取引関係情報のうち、第6条に定めるデータについては、保存サーバ内に△△年間保存する。
(対象となるデータ)
第6条 保存する取引関係情報は以下のとおりとする。
一 見積依頼情報
二 見積回答情報
三 確定注文情報
四 注文請け情報
五 納品情報
六 支払情報
七 ▲▲
(運用体制)
第7条 保存する取引関係情報の管理責任者及び処理責任者は以下のとおりとする。
一 管理責任者 ○○部△△課 課長 XXXX
二 処理責任者 ○○部△△課 係長 XXXX
(訂正削除の原則禁止)
第8条 保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。
(訂正削除を行う場合)
第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。
一 申請日
二 取引伝票番号
三 取引件名
四 取引先名
五 訂正・削除日付
六 訂正・削除内容
七 訂正・削除理由
八 処理担当者名
2 管理責任者は、「取引情報訂正・削除申請書」の提出を受けた場合は、正当な理由があると認める場合のみ承認する。
3 管理責任者は、前項において承認した場合は、処理責任者に対して取引関係情報の訂正及び削除を指示する。
4 処理責任者は、取引関係情報の訂正及び削除を行った場合は、当該取引関係情報に訂正・削除履歴がある旨の情報を付すとともに「取引情報訂正・削除完了報告書」を作成し、当該報告書を管理責任者に提出する。
5 「取引情報訂正・削除申請書」及び「取引情報訂正・削除完了報告書」は、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で、訂正・削除の対象となった取引データの保存期間が満了するまで保存する。
附則
(施行)
第10条 この規程は、令和○年○月○日から施行する。
引用元:参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁
索引を作成するひな型も国税庁のホームページからダウンロードできます。
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連番 | 日付 | 金額 | 取引先 | 備考 |
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① | 2021/01/31 | 110,000円 | ㈱霞商店 | 請求書 |
② | 2021/02/10 | 330,000円 | 国税工務店㈱ | 注文書 |
③ | 2021/02/28 | 330,000円 | 国税工務店㈱ | 領収書 |
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引用元:参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁
事務処理規定を作成した方が良い理由
事務処理規定の作成は、事業所の電子的な取引内容によって必要性が変わってきます。すでに自社と取引先がタイムスタンプの入力や、訂正、削除などに関するデータの一括管理ができるシステムを構築し、導入している状況であれば、事務処理規定を作成する必要はありません。
事務処理規定を作成する義務があるケース
事務処理規定を作成する義務が発生するケースとは以下の通りです。
・2022年1月1日よりも前に作成された領収書などの紙ベースの書類を電子データとして変換し保存する場合
・妥当といえる理由がない状況で電子データの訂正や削除ができる可能性があり、なおかつ電子データを保存するケース
事務処理規定を作成することについてのメリットは前述のとおりですが、事務処理規定を作成することで、想定外のトラブルを予防したり、速やかに解決したりといったことができます。いわば保険として事務処理規定を作成しておいた方が良いといえるでしょう。
税務調査に備えるのに適した環境
事務処理規定を作成することで、さまざまなトラブルに対処したり、経理処理をスムーズに行えたりできるようになります。しかし、心配になるのが万一税務調査の対象になった場合、しっかりと対応できるかどうかということです。税理士に経理事務を依頼している場合でも、税務調査の対象になる場合があります。万一に備えて対策を整えておくことが必要でしょう。
なぜ対策をするべきなのか
事務処理規定にもとづいて書類を電子化し、電子データとして保存するためには、どうしても手間がかかります。書類の日付が改ざんされないための規定などが盛り込まれていても、必ずしもそれが正しく運用できるとは限りません。万一規定に違反して電子データが管理されていれば、税務署からのペナルティを免れることができないでしょう。
このような事態に対処するには、事務処理をシステム化することが必要です。たとえば、書類の受け取りを証明するタイムスタンプ機能を利用できるシステムを導入したり、訂正や削除に関する履歴が保存され、参照できるシステムを構築したりすることです。
罰則が強化されている
電子帳簿保存法の改正により、違反した場合の罰則がさらに強化されていることも見逃せません。電子データの保存要件は、改正前と比べて緩和されている一方で、罰則は強化されています。そのため、法の要件に則った形で正しく電子データを管理することが求められます。
外部のシステムを活用する
リスクを回避するための手段として、どうしても電子データの保存や管理をシステムで運用する必要があります。システム導入が難しいと感じている企業や個人事業主もいるかもしれません。その場合には電子データの保存や管理に関連したシステム導入をサポートするサービスの利用を検討する必要があります。
電子データでの保存に関しては、さまざまな企業がサービスを提供しています。補助金を活用して、企業の負担を軽減できる場合もあるので、税理士やコンサルタントへの相談を検討しても良いでしょう。
まとめ
電子帳簿保存法と事務処理規定については、国税庁のホームページで法律の概要や、事務処理規定の作成方法などの情報を提供しています。国税庁が提供する資料だけでは、規定の作成が不十分になるため、当記事で取り上げた情報をもとに、自社の状況に合わせた適切な形で事務処理規定を作成することが大切です。
タイムスタンプ機能や、電子データの削除および訂正などに関連したシステムの導入とあわせて、事務処理規定を作成することで、経理事務を効率化することも可能です。取引量が多かったり、税務調査の対象になった経験があったりする場合には、システムの導入を検討しても良いでしょう。
電子データ保存が義務化されたことにより、企業や個人が行う仕事は増加してしまいます。しかし、電子データ保存には、ペーパーレス化の促進や、事務処理の軽減といったメリットもあります。
ぜひ、電子帳簿保存法の内容を理解にお役立てください。