取引先から「注文請書を発行してください」とお願いされて、戸惑った経験はありませんか? 注文書や発注書はよく聞く言葉ですが、注文請書はあまりなじみのない言葉かもしれないからです。
注文請書と注文書・発注書とでは、文書の果たす役割に異なる点があります。これらの言葉の違いを理解して、先方がどのような書類を必要としているのか判別できるようにしておきましょう。
目次
注文請書の基本を理解しよう
注文請書について、どういった類の文書なのか、きちんと理解できていない人もいるでしょう。そこでまずは注文請書とはどのような書類か、注文書と何が違うのかについて正しく理解しましょう。
注文を受理したことを証明する書類
注文請書とは、受注者が注文を確かに受けたという意思を示すために作成される書類のことです。契約書の一種といえます。契約にあたっては、一般的にまず発注者側が契約内容を記載した注文書を作成します。そのあと、注文を受ける意思を伝えるための書類である注文請書を受注者側が作成し、書類を取り交わすわけです。
近年では、単に電話もしくはメールで「注文を受ける」ということを伝えるなど、注文請書を作成せずにビジネスするケースは多いです。しかし注文請書として書類のかたちで残すことで、後々のトラブル防止に役立ちます。
発行義務はなし
注文請書は、注文書を受領したあとで発行するかたちになります。しかし受注者側に発行義務があるかというとそうではありません。日本の商習慣では、むしろ注文請書を発行している企業は少数派であるといわれています。注文を受けた・受けないといったトラブルが起こる可能性は高くないため、発注者側からすれば注文請書を受け取る必要性はあまりないことが背景としてあります。
注文書との違い
注文書は発注者側が発行する書類、注文請書は受注者側が発行する書類という違いがあります。注文書は日本のビジネスの中で一般的に使われている書類なので、目にしたことのある人も多いでしょう。注文書には、必要な商品・サービス、数量、納期、支払方法などが記載されています。
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
【出典】民法 | e-Gov法令検索
このように、売買契約は書面がなくても成立します。つまり注文書の発行も義務ではありません。しかし注文したことを書面のかたちで残せるので、日本では、注文の事実を立証するために注文書を発行するのが一般的です。
受注書との違い
受注書も注文請書も、受注者側が「確かに注文を承りました」という意思表示をするための書類です。ですから基本的な目的については一緒です。しかしその性質に若干の違いが見られます。注文請書は主に作業や業務の提供の際に作成される書類であるのに対し、受注書は物品の売買の際に作成される書類となります。「請書」と書かれているとおり、何かを請け負う際に作成される書類です。工事を受注した際やコンサルティング業務を行う際に作成されることが多いです。
注文請書発行の流れを理解しよう
もし注文請書を作成する必要が生じた場合、どのタイミングで作成すればいいのでしょうか? 注文請書を発行する前の大まかな流れについて紹介しますので、作成する際の参考にしてください。
注文書や発注書が届いたあとに発行
注文請書は、注文書や発注書が届いたあとに発行します。取引先が商品やサービスの提供を発注する際には、注文書や発注書を発行します。注文書や発注書を受け取ったら、その内容を確認し自社で対応できるかどうか判断します。自社工場や取引のあるところに外注して対応できるか、納期までに間に合うかなど多角的に検討してください。もし受注できると判断できれば、発注者に対して注文請書を作成・発行するかたちになります。
注文請書発行までの流れを解説
通常取引先が何か発注を希望する場合、見積書を発行するようにお願いしてきます。見積書を作成し、取引先に送付するとその内容を吟味し正式に発注するかどうか検討します。もし発注することが決まれば、注文書を作成します。受け取った注文書の内容に問題がなければ、注文請書を発行するという流れです。
ちなみに注文請書を発行せずに、メールなり電話なりで受注する意思のあることを伝えれば、それで取引は成立するケースも多いです。
注文請書の内容とは?
注文請書には特別決まった書式はありません。しかし一般的には以下で紹介する項目を明記しておくと、発注者側と受注者側の取引に関する誤解を防止できます。
日付
注文請書に日付を記載していると、いつ注文を受けたのかがはっきりするので日付は記入しておくといいです。注文請書を発行した日付でかまいませんが、注文書の発行日以降にしてください。注文請書はその性質上、注文がなければ発行できません。たとえ注文書が届くことがあらかじめわかっていたとしても、注文書の発行日よりも前の日付にすると取引の整合性が取れなくなってしまいます。
発注者と受注者の名称
発注者と受注者の名称も明記しておきましょう。誰が誰に対して注文を出した取引なのか、明確になるからです。記載する名称は社名だけでなく、担当者名とその人の所属する部署名も記載しておきましょう。
受注内容
どのような商品やサービスの提供に関する注文を受けたのか、詳しく記載しておきましょう。商品名やサービス名、数量、納期、代金、納品方法など具体的に記載したほうがいいです。代金に関しては、税抜き額と税込み額、消費税額なども記載しておくのが好ましいです。また受注金額やその条件次第では、収入印紙を貼り付けないといけない場合もありますので注意してください。
支払方法
代金の支払い方法についても記載しておきましょう。いつまでにどのようなかたちで支払われるのか、明記しておいてください。ビジネストラブルの中でも支払い時の問題はたまに起こるので、書類として残しておくと安心です。銀行振込みによる支払いであれば、振込み先情報についても記載しておくといいでしょう。
備考
注文請書を作成する際に、備考欄を設けておくのがおすすめです。備考欄は発注者側との連絡を行うために用いられます。今回の取引に関して新しく注意点や前提条件が新たに加わった場合、この部分に記載します。備考欄を設け、今回の取引に関する注意書きをしておくと先方から連絡が来て、契約内容の再確認が行われます。
こうすることで、トラブルを事前に回避できるわけです。もし備考欄に何か記載する際には、取引先にその旨を前もって伝えておくと備考欄の合意もスムーズに行きます。
注文請書発行の注意点
注文請書を発行するにあたって、正しい認識がないと発注者側と受注者側の間で情報の共有ができず、後々トラブルに発展してしまうこともあり得ます。注文請書を発行するにあたっていくつか注意すべきポイントがあるので、正しい知識を身につけておきましょう。
注文請書に捺印は必要なし
注文請書のような外部に発行する書類には捺印しなければならないと思われがちです。しかし民法上、捺印なしでも双方が合意していれば契約は成立したものと解釈されます。ですから注文請書に捺印する必要はありません。
Q1.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。
- 私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
- 特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
【出典】https://www.meti.go.jp/covid-19/ouin_qa.html
捺印はあってもなくても、契約の効力に影響はありません。よって認印で押印してもかまいません。また割印も必要ありません。
注文請書を作成しない場合
注文請書は必ずしも作成する必要はありません。しかし何らかのかたちで先方の発注を受ける意思表示をする必要があります。
その方法ですが、いくつか考えられます。先方に電話連絡する、直接足を運んで対面で伝える方法があります。そのほかにも注文書が送られてきたFAXやメールアドレスに返信する方法もあります。
ただし取引先によっては注文請書を作成しなければならない可能性もありますので、スムーズに作成できるようにオリジナルのフォーマットやテンプレートを作成しておくのがおすすめです。
注文請書の保存期間
注文請書は作成したらそれでおしまいというわけではありません。税法上帳簿書類に該当し、確定申告後も当面は保存することが義務付けられています。注文を受けたことの立証になる書類だからです。
注文請書の保存期間は7年間となっているので、紛失しないように保存しておきましょう。ただし欠損金が発生した事業年度における注文請書の保存期間は10年に延長されるので注意してください。
法人は、帳簿(注1)を備え付けてその取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成または受領した書類(注2)を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間(注3)保存しなければなりません。
(注1)「帳簿」には、例えば総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などがあります。
(注2)「書類」には、例えば棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などがあります。
(注3)青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた事業年度または青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた事業年度においては、10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)となります。
【出典】https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5930.htm
近年では注文請書をメールやSNSに記載する、ファイルを添付するかたちで取引先に送付することもあるでしょう。このようなメールや電子データで文書を作成した場合にも、紙と同じで保存対象になります。削除して手元にないといった事態を回避するためにも、電子データとしてきちんと保管しておきましょう。
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注文請書を電子化しよう
インボイス制度に代表されるように、ビジネス関係の書類を電子化することが広く普及し始めています。注文請書を電子化することは可能です。電子化することで、いろいろなメリットが受けられるので電子データ化を進めていきましょう。
注文請書を電子化するメリット
注文請書を電子化することで、紙でのやり取りのときに発生していたコストを圧縮できます。紙の場合は、プリントアウトして、さらに先方に郵送しなければなりませんでした。また紙の文書を保管するためのファイルやキャビネットの備品コストもかかりますが、電子化すればこれらを節約できます。
取引がスピーディになるのもメリットです。紙の注文請書のやり取りでは郵送する必要があるため、どうしても数日の時間がかかります。しかし電子化できればメールやクラウド上における送受信になるので、ほぼリアルタイムでやり取りできます。
紙の注文請書の場合、印刷や押印などのためにオフィスで作業しなければなりませんでした。しかし電子データの場合、パソコンとネット環境があればどこでもやり取りできます。つまりリモートワークにも対応できるわけです。
注文請書を電子化する方法
では注文請書をどう電子化するかですが、まずは文書で作成する方法です。ワードやエクセルファイルを使って作成し、電子データとしてパソコンやUSBメモリーなどで保管しておきます。
紙の書類の注文書や注文請書をやり取りしているものの、電子データとして保存したいという場合は、スキャナーを使う方法もあります。紙の文書をスキャンしてデータ化すれば、パソコンなどで保存できます。最近ではコピー機や複合機にスキャン機能の搭載されている機種も少なくありません。もし自社で使っている機種にスキャン機能がついていれば、導入コストがかかりません。気軽に導入できるので、お手持ちのコピー機や複合機にスキャン機能がついているかどうか確認してみてください。
電子化ツールを活用する方法もあります。最近では文書を共有できるクラウドサービスもいろいろと出てきています。電子化ツールといってもリーズナブルな価格で導入できるものも出てきています。
また、契約業務自体を電子化可能な電子契約サービスもございます。電子契約とは電子契約とは、電子文書に電子署名をして取り交わされる契約のことをいいます。
従来の紙での契約と比較すると、圧倒的な業務効率化とコスト削減を実現することができます。
セキュリティ対策もしっかりしているツールも出てきているので、電子化を機に導入を検討してみる価値はあります。
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まとめ
注文請書は、日本ではメジャーな文書ではありません。
案件を受注するにあたって、電話やメールなどで意思確認するのが一般的だからです。しかし案件を受注して、発注者側と受注者側の意識が共有できていないと後々もめる可能性もあります。無用のトラブルを回避するためにも、注文内容の明記された注文請書を作成してみるのも一考です。