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日本では、弁護士でないにもかかわらず、法律によって弁護士にしかできないこととされている行為を行った場合、「非弁行為」に該当し罰則を受ける可能性があるので注意が必要です。
今回は、この「非弁行為」について解説いたします。
弁護士法では、特定の行為については弁護士以外の者が行うことを禁止しています。
弁護士法によって弁護士以外の者が行うことが禁じられている行為をすることを「非弁行為」または「非弁活動」といいます。「非弁行為」を行った場合、法律違反として各種の罰則を受ける恐れがあるので注意が必要です。
弁護士法では以下のような各行為に関して、弁護士以外の者が行うことを禁止しています。
(1)業として他人の法律事務を扱うこと
(2)譲渡を受けた権利の実行
(3)紛らわしい名称の使用
それぞれ確認していくことにしましょう。
弁護士法第72条は、弁護士または弁護士法人でない者が法律事務を業として行うことを禁止しています。
具体的には、報酬を得る目的をもって他人の法律に関する事務(訴訟・示談交渉などの代理、法律相談など)を行うことが禁止の対象とされています。そして、「業として」とは、反復・継続して行う意思があれば足りるので、仕事や業務を目的としなくても同条に該当することがあります。
もしこの規定に違反した場合には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金という重い刑罰が科される可能性があります(弁護士法第77条3号)。
交通事故の示談、インターネット上の誹謗中傷対策(本人に代わってサイト管理者に記事削除を求める行為)少し前に流行った退職代行などを、必ずしも弁護士が行う必要はありません。たとえば、家族やアドバイザーなどが代理人として、相手方と交渉してもらうことは可能といえば可能です。
しかし、弁護士法第72条は、弁護士資格を持たない人が上述のような示談や代行ビジネスで報酬を得ることを禁じています。つまり、家族や友人などが代理人として交渉することはできますが、その行為に対して報酬をもらうことは非弁行為にあたります。
資格なしで示談交渉を代行できるのは、報酬が支払われない場合に限られます。
しかし、思い浮かべて欲しいのです。病気になったとき、病気の治療をしてくれるのは誰でしょうか。医師です。家族や友人が看病してくれたりすることはできますが、家族や友人が病気を治せるわけではありません。
どの治療が必要なのかの判断が難しく、ケースバイケースなのがトラブルの世界。資格を持たない人(要は素人)が状況を悪化させて弁護士のところに相談が持ち込まれたときにはさらにこじれている、という話をよく耳にします。
健康保険のような制度があるわけではないので、弁護士・弁護士法人への相談は通院に比べるとだいぶ敷居が高いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、たとえば交通事故に備えて自動車保険に「弁護士特約」をつけておけば弁護士費用の負担を抑えることがでます。また、初回相談無料(あるいは値引き)のサービスがある弁護士事務所、自治体主催の弁護士による無料法律相談会もあります。
病気になりたくてなるわけではないように、トラブルに巻き込まれたい人などいません。だからこそ、困ったときは“その道のプロ”である弁護士や弁護士法人に相談するようにしましょう。
*2002年から認定を受けた司法書士(認定司法書士)は「簡裁訴訟代理関係業務」を行うことができるようになりました。「簡裁」とは簡易裁判所のことで訴額(請求額)が140万円までの民事紛争について取り扱うことができる裁判所です。認定司法書士は簡易裁判所における140万円までの民事訴訟手続や即決和解手続、支払督促の手続、証拠保全の手続、民事保全の手続、民事調停の手続などの代理人になることができます。
一方で、個人間のトラブルなどでは140万円以内で収まるものもあるかもしれませんが、相談時には金額が不明であることも多く、認定司法書士の制度をビジネスで活用できるシーンは限定されるでしょう。
弁護士法第73条は、弁護士または弁護士法人でない者が他人から譲渡を受けた権利を実行する行為などを禁止しています。具体的には、訴訟や調停・和解などの手段を用いて他人から譲り受けた権利を実行することが禁じられています。
たとえば、AさんがBさんに100万円を貸していたとします。
Bさんがなかなか返済してくれないので、AさんはZさんに相談をしました。するとZさんはAさんに「Aさんもつらいですよね。98万円でよければ私がAさんに今すぐお支払いしますよ。僕はBさんから回収しますので。手間賃を2万円いただくようなイメージです。どうですか?」と言いました。
弁護士法は、Zさんのように商売として債権者(Aさん)からの債権(100万円)の買いとり、訴訟や交渉を業務として行うことを禁止しています。Zさんが弁護士でない場合、弁護士法違反となります。
この規定に違反した場合、上記「業として他人の法律事務を扱うこと」のケースと同様に、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されることになります(弁護士法第77条4号)。
なお、法律によって特別に認められた場合には、弁護士でなくても譲渡を受けた権利の実行を行うことが認められるケースもあります。たとえば、「債権回収会社(サービサー)」などは「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」という特別な法律に基づいて金融機関等から債権の譲渡などを受け、回収をすることが認められています。
弁護士法第74条は、「非弁護士の虚偽標示等の禁止」として以下のような各行為を禁止しています。各規定に違反した場合には、100万円以下の罰金が科されることになっています(弁護士法第77条の2)。
弁護士または弁護士法人でない者が、弁護士または法律事務所という標示や記載をすることが禁止されています(弁護士法第74条1項)。
例えば、弁護士または弁護士法人でないにもかかわらず弁護士を名乗ったり、「弁護士〇〇」「〇〇法律事務所」などという名刺を利用したりした場合には非弁行為として処罰の対象となります。
弁護士または弁護士法人でない者が利益を得る目的で、法律相談やその他の法律事務を取り扱う旨の標示または記載をすることが禁止されています(同条2項)。
具体的には、利益を得る目的をもって「法律相談所」などと標示する行為がこれに該当します。
弁護士法人でない者は、その名称中に弁護士法人又はこれに類似する名称を用いることが禁止されています(同条3項)。
弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
引用元:弁護士法 | e-Gov法令検索
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
弁護士法第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
引用元:弁護士法 | e-Gov法令検索
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。
弁護士法第74条(非弁護士の虚偽標示等の禁止)
引用元:弁護士法 | e-Gov法令検索
1.弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載をしてはならない。
2.弁護士又は弁護士法人でない者は、利益を得る目的で、法律相談その他法律事務を取り扱う旨の標示又は記載をしてはならない。
3.弁護士法人でない者は、その名称中に弁護士法人又はこれに類似する名称を用いてはならない。
弁護士法第77条(非弁護士との提携等の罪)
引用元:弁護士法 | e-Gov法令検索
次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
(略)
三 第72条の規定に違反した者
四 第73条の規定に違反した者
弁護士法第77条の2(虚偽標示等の罪)
引用元:弁護士法 | e-Gov法令検索
第74条の規定に違反した者は、100万円以下の罰金に処する。
非弁行為として弁護士法が禁じているのは、あくまでも「他人」の法律事務を「業として」行うことです。このため、弁護士ではなかったとしても自分が当事者である法律事務を自分自身で行うことは非弁行為とはなりません。たとえば、個人として誰かを訴えたり、相手方から訴えなどを起こされたりした場合、それに自分自身で対応する行為は非弁行為には該当しません。
しかし、先述のとおり、私たちは裁判に慣れているわけではありません。生涯、裁判所に行くことがない人もいるでしょう。その点、弁護士は訴訟をはじめとした法律事務を生業としています。私たちが思いつかない作戦やアイディアを持っていることも多いでしょう。生命や身体、大切な財産にかかわるような重大なトラブルに見舞われたとき決して抱え込まず、弁護士に相談することを強くおすすめします。
企業・法人の法務担当者は、企業内で必要な契約書の作成・審査、業務に関する法律の相談対応、訴訟対応などを行います。法務を担当する従業員による法律関連の事務処理は非弁行為に該当しないのでしょうか。
結論としては、非弁行為には該当しません。というのも、法務部は法人を構成する組織のひとつであり、所属する法務担当は、契約書の作成や修正、紛争解決のための各種行為を自らが所属する法人のために行います。そのため非弁行為ではないのです。
ただし、弁護士資格のない法務担当者が、業務委託で関わっている場合は注意が必要です。業務委託の場合は、週5日フルタイム勤務をしていても法人の従業員ではない以上「自らの法律事務」ではありません。弁護士資格のない人や法人に業務委託するときは、弁護士法の定める法律事務を委託できないので注意が必要です。
他方、労働契約(雇用契約)があれば、週1回の勤務であっても、契約社員やパート・アルバイトなどを問わず法人の従業員となるので、非弁行為について考える必要はありません。
上述のように、雇用関係がある法務担当者による法律問題の対応は、非弁行為とは当たりませんとなりません。しかし、非弁行為とならないのは、あくまでも「自社の法律事務」であることが前提です。したがって、子会社やグループ内企業であったとしても、別会社の法律問題を処理する場合には、非弁行為に該当する可能性が出てくるので注意が必要です。たとえグループ内企業であったとしても、法律上はあくまで法人格は別ですので、厳密には考えると「自社の法律事務」とは言えないからです。
グループだからこそ、グループ内で連携したほうがよい部分もあります。たとえば行政が制作した下請法や景品表示法のパンフレットをもとにグループ向けQ&Aを作成する、契約書のひな形を作成する、法改正に伴う社内対応をアドバイスする…といったことは法律事務にはあたらない範囲かと考えられますが、リスクの度合いに関するアドバイスや示談や和解に関する交渉、子会社の訴訟の担当…となるとさすがに難しいこともあり、人員や対応が必要な場合に応じて、グループ会社間での出向という形で対応している企業もあります。グループ全体の法務力向上も見込んでのことでしょう。
近年、ITやDXの力で法務や契約に関する業務効率化や改善を目指すサービスや契約書等関連業務支援サービスが多く立ち上がっています。これらは「リーガルテック」と呼ばれ、特に最近はAI(人工知能)を活用したサービスにも期待が寄せられています。
しかし、AIによる契約書の内容確認・修正などのリーガルチェックのサービスは、報酬を得る目的をもって他人の法律に関する事務(訴訟・示談交渉などの代理、法律相談など)を行うこと、つまり「非弁行為」にあたるおそれがあります。
2022年6月に発表された、いわゆる「グレーゾーン解消制度」による法務省の回答では、AIによるリーガルチェックなども、場合によっては非弁行為となる可能性が否定されていません。
今年の夏(2023年8月)には、以下のようにある程度具体的なガイドラインが法務省から示されました。是非この機会にご一読ください。(ガイドラインの解説については、別の記事で特集の予定です。)
【参考】AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第 72 条との関係について(法務省)
法務省のガイドラインは、契約書等に関連する業務支援サービスを大きく以下の3つに分けて整理しています。
① 契約書等の作成業務を支援するサービス
② 契約書等の審査業務を支援するサービス
③ 契約書等の管理業務を支援するサービス
ユーザーが入力した内容をもとに、個別の案件に合った具体的な契約書等の案が提示されるような場合は、弁護士法上の法律事務に該当するおそれがあります。
他方、ユーザーが定型的な内容や選択肢から項目を選択することにより、あらかじめシステムに登録されているひな形・テンプレートが選別されて表示される場合や、ユーザーが入力した内容や選択した選択肢の内容を登録されたひな形・テンプレートに反映された形で表示してくれるような範囲では問題ないと考えてよいでしょう。たとえば、企業名や日付、委託内容、金額、契約期間などを入力すると用意されていたひな形に反映されて表示されるケースです。
契約書等の記載内容について、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合や個別の具体的な修正案が表示される場合は弁護士法上の法律事務にあたる可能性が高いです。
「今の契約書案のリスクは70%です。第〇条を「………」のように、第△条を「………」というように書き換えればリスクは30%まで下がります!」というイメージでしょうか。
一方で、あらかじめ登録されたひな形と確認したい契約書案との違いを表示するような場合、たとえば、Microsoft Wordの比較機能のように、2つの文書の異なる点や類似点をただ表示するようなものは法律事務に当たらないと考えられます。
管理している契約書等の記載内容について、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合や、これらを踏まえた個別の法的対応の必要性が表示される場合は法律事務にあたると考えられます。
他方、契約関係者、契約日、履行期日、契約更新日、自動更新の有無、契約金額等、文言に応じて分類・表示されるにとどまるサービスや、あらかじめ登録しておいた期限にセットされたアラーム・リマインド機能、契約当時のメモ書きなどの自動表示の場合は法律事務に該当しないとの見解です。これらは、契約の保管・管理の範囲ということになるかと思います。
弁護士法では、今回解説したような行為に関して弁護士以外の者が業務として行うことを原則として禁止しています。
しかし、法務部員が自社の法律問題を扱うことは原則として法律違反にはなりません。ただし、同一グループ内の企業であっても別法人の法律問題を扱うことは非弁行為に該当するので注意が必要です。また、AIを利用した契約書のチェックなどに関しても、場合によっては弁護士法違反となる可能性があるので慎重な判断が必要となります。法務担当として法律問題を処理する際には、非弁行為に該当するようなことを行わないよう注意してください。
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