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営業活動を行う企業は、それぞれの事業に関して独自のノウハウなど、他社に知られてはならない「秘密」を保有しています。企業は秘密を保持し、活用することで、他社との差別化を図ることができます。
企業が持つ「秘密」に関して一定の条件を満たしたものを「営業秘密」といい、法律(不正競争防止法)の保護を受けることができるようになります。
不正競争防止法では3つの要件を満たしたものを「営業秘密」として認定し、法的に保護しています。
今回は、この「営業秘密」の要件や漏洩防止の対策について解説いたします。
営業秘密とは、不正競争防止法が定める企業などが事業活動を行う上で有用な営業上・技術上の情報のことであり、企業が保有する知的財産権のひとつです。
不正競争防止法は、秘密情報の中でも一定の要件を満たしたものを「営業秘密」として法的保護の対象としています。
「営業秘密」に対する侵害に対しては罰金や懲役など重い刑罰を定めています。
なお、「営業秘密」に似た言葉として「企業秘密」という言葉が使われることがあります。
「営業秘密」が法律上の言葉ですが、「企業秘密」という言葉は正式な法律上の言葉ではない点に注意しましょう。
不正競争防止法は、事業者間における不正な競争や不適切な競争を防止し、公正な競争を実現させることを目的として制定された法律です。
不正競争の定義として以下を挙げ、営業秘密の侵害についても定めています。
・周知な商品等表示の混同惹起
・著名な商品等表示の冒用(例:自社のヒット商品を他社が同じ名前で販売するような行為)
・他人の商品形態を模倣した商品(デッドコピー)の提供
・営業秘密の侵害
・限定提供データの不正取得(ビッグデータを想定したもの)
・技術的制限手段を妨げる装置等の提供(例:無断複製や無断視聴などを防止する機能を外すような行為)
・ドメインの不正取得
・商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示
・競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為
・代理人等の商標の冒用
また、国際約束に基づく禁止行為として「外国国旗や紋章等の不正使用」「国際機関の標章の不正使用」「外国公務員等への贈賄」を定めています。
企業の保有する営業上・技術上の各種情報が不正競争防止法上の「営業秘密」として保護の対象となるためには以下の3つの要件すべてを満たすことが必要です。
①秘密管理性
②有用性
③非公知性
それぞれについて確認していきましょう。
企業が保有するノウハウが不正競争防止法上の営業秘密として保護の対象とされるためには、その情報が自社の従業員から秘密情報であると認識されており、社外の者から客観的に見ても秘密として管理されている状態であることが必要です。
具体的には、
・情報の管理水準が分かる資料(就業規則、情報管理規程、管理状況に関する社内文書など)がある。
・秘密管理マニュアルを作成して社内研修等の実施し、研修開催に関する記録を残す。
・秘密情報が記載された資料に「マル秘」の表示をする。
・電子ファイルへのアクセス制限やパスワード設定を施す。
・秘密情報を管理するキャビネットを日頃から施錠しておく。
・保管場所への入退室の記録を取る。
といった対応が効果的です。
また、これから会社に加わる従業員や取引先企業と、秘密保持契約(近年ではNDAとも呼ばれることが増えました。Non-Disclosure Agreementを略したものです。)を締結するとともに、「情報が秘密であること」が明確にわかるようにしておくことも重要です。
営業秘密として法的保護の対象となる以上、その情報が無益なものであっては意味がありません。情報が他社に渡った場合の他社のコスト削減メリットや他社製品の価格などへの影響の程度、情報漏洩時の顧客離脱や契約違反のリスクなどから検討されます。
また、営業秘密は、客観的に見て事業活動に有用な情報であることが必要です。
例えば違法行為や公序良俗に反するノウハウやマニュアルに記載された情報などに法律上の保護を与える必要はありませんから、有用性は認められません。
営業秘密に該当するためには、保有者の管理下以外で一般に入手できないことも求められます。その情報が一般的に知られてはいないものであり、さらに簡単に知ることのできない情報であることが必要です。
判例は、すでに雑誌などで報じられた情報やカタログ・マニュアルなどに掲載されている情報などは非公知性を認めていません。
上記3つの要件すべてを満たした場合、不正競争防止法上の「営業秘密」として認められ、法的保護の対象となるのです。
不正競争防止法においては、不正の利益を得る目的などをもって営業秘密を漏洩させた者などに対して第21条により、10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金(あるいは両方を併科)など重い刑罰が科されます。
なお、営業秘密を日本国外で不正に使用した場合などのケースでは、10年以下の懲役または3,000万円以下の罰金(あるいは両方を併科)を科すなど、より厳しく取り締まりを行っています。
さらに、「法人両罰」という法人の役員や従業員が、法人の業務に関連して違法な行為をした場合、個人だけでなく、法人も併せて罰せられる規定(第22条)もあり、3億円以下(一部は5億円以下、海外使用等は10億円以下)の罰金が定められています。
情報が違法に持ち出されるなど営業秘密が漏洩してしまった場合、被害を受けた企業としては以下の2つの対抗策を講じることが認められています。
(1)民事責任の追及
(2)刑事責任の追及
それぞれの詳細を確認していきましょう。
営業秘密を侵害された事業者等は、侵害している者に対して以下の3つの対策を講じることが考えられます。
営業秘密を侵害されている場合または侵害される恐れがある場合には、その相手に対し、侵害停止や侵害の予防措置を講じるように請求することができます(不正競争防止法第3条、15条)。
営業秘密を侵害された事業者等は、侵害した相手方に対して営業秘密が侵害されたことによって発生した損害の賠償を請求することができます(同4条~9条)。
営業秘密を侵害している相手方に対しては、謝罪広告など信用回復措置を請求することができます(同14条)。
営業秘密を不正に侵害された場合、侵害者に対して以下のような刑事責任を追及することも可能です。
不正競争防止法では第21条において「営業秘密侵害罪」を定めており、営業秘密を不正に取得したり、不正利用・不正開示などの行為をしたりした者に対して、10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金、あるいはその両方を科すことができることになっています。
なお、海外での使用目的を有する場合には3,000万円以下の罰金が科されます。
ここ最近で、ニュースとなった事例をご紹介します。
「はま寿司」が「かっぱ寿司」を提訴、原価データなど持ち出され63億円損害と主張
(読売新聞オンライン 2023/12/27)
企業にとって重要な財産である営業秘密の漏洩防止のためには、事前に万全な対策を講じておくことが大切です。
営業秘密の漏洩を防止するためには、以下の3つの対策を講じておくことが重要です。
①就業規則による秘密保持の徹底
②従業員との秘密保持契約の締結
③秘密管理の励行
それぞれについて確認していきましょう。
営業秘密の漏洩を防止するためには、就業規則を活用することが有効です。就業規則の中に秘密保持に関する規定を設け、以下のような事項を明確に定めます。
・どのようなものが営業秘密に該当するのか
・営業秘密に該当する情報をどのように管理すべきなのか
・営業秘密に対しては、どのような行為が禁止されるのか
また、営業秘密を漏洩などさせた場合には懲戒の対象とすることを明確にし、それを従業員に周知させることが大切です。それと同時に、営業秘密の漏洩防止を目的とした研修を定期的に行うなど、営業秘密の厳守に関する社員の意識向上を目指しましょう。
営業秘密漏洩に対する防止策として各従業員との間で「秘密保持契約」を締結することは、現在ではもはや常識といってもいいほど基本的な対策と言えるでしょう。
社員を雇用する際には必ず秘密保持契約を締結し、営業秘密の重要性を認識させると同時に外部に漏洩しない旨の誓約を得ることが大切です。
企業の保有する各種情報が営業秘密として法的に保護されるためには、その情報が秘密管理されていることが要件です。
営業秘密に該当する情報を管理する際には、それが営業秘密に該当するものであることを明示し、ロッカーにカギを掛けたり電子ファイルの場合にはパスワードでロックしたりするなど厳重に管理することが大切です。
また、それらの情報にアクセスできる社員を一定の範囲に限定(アクセス権を設定)することによって漏洩を防止する効果を高めることができます。
不正競争防止法は営業秘密に関して「秘密保持義務」を定めています。この義務は在職中の従業員は当然のこと、退職した元従業員についても課せられているものです。
そのため、仮に会社を退職した後であっても、秘密保持義務違反となる行為をした場合には元従業員は同法による処罰の対象となります。
従業員が退職する際には、秘密保持義務が退職後においても課せられることを十分理解できるよう研修等を行うことが大切です。
営業活動を行う企業にとって、自社の保有する営業秘密の保持は非常に大切なことです。
企業の営業秘密が漏洩してしまった場合、その企業は大きな損失を被る危険性が高くなります。また、「経済スパイ」「産業スパイ」という言葉があるように、企業秘密が海外に流出して国際問題に発展するようなケースも起こっています。
営業秘密として法的に保護されるための3つの要件を満たし、適切に管理することで、大切な営業秘密の漏洩を極力防止することができるでしょう。
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