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内閣府が発表した「令和5年版高齢社会白書」によると、介護保険制度における要介護または要支援の認定を受けた人の数は令和2年(2020年)時点で668.9万人に上ります。平成22年度(2010年)の490.7万人から約10年で178.2万人も増加していることになります。
また、介護者の続柄は、同居人(54.4%)がもっとも多く、年齢は男性の72.4%、女性の73.8%が60歳以上のいわゆる「老老介護」の状況です。
本記事では、少子高齢化により増加する要介護者、そして介護者の現状を見たうえで、大きな社会問題にもなっている「介護疲れ」を軽減するための対策のついてお伝えします。
現在介護業界ではDX化が急速に進んでいます。DX化の要素の一つ「電子契約」について、次の記事で詳しく解説しています。介護業界で業務改善に取り組まれている方必見の内容です。ぜひご覧ください↓
介護疲れになりやすい人にはいくつかの特徴があります。そのなかでも主な特徴は次のとおりです。
自分がなんとかしなければという責任感が強い人は無理をし過ぎてしまい、介護疲れになるリスクが高まる傾向があります。
真面目過ぎるのも介護疲れになる人の特徴です。すべてを完璧にやろうとしてしまい余裕がなくなってしまいます。
我慢強く人に頼ることができないまま何でも自分一人で抱え込んでしまい、気づいたら追い詰められた状況になる人も介護疲れしやすいタイプです。
介護に疲れた状況が続くとさまざまな問題が生じてしまいます。主な問題は次のとおりです。
介護疲れがもたらす問題の一つは、介護者の「健康被害」です。要介護者のケアは基本的に24時間365日続きます。
また、要介護者の症状によっては夜中に突然、起こされてしまうケースも少なくありません。その結果、疲れから身体的な病気、怪我などにつながるリスクがあります。
介護疲れは身体だけではなく、精神的な問題も引き起こします。それが「介護うつ」です。具体的には、介護の終わりが見えないストレスや介護にかかる経済的な負担、在宅介護による家族との人間関係悪化などが原因となり発症します。
「介護放棄」は虐待の一つであり、内閣府が発表した「令和5年版高齢社会白書」によると、介護放棄はさまざまな虐待のなかで19.2%と全体の約5分の1を占めます。場合によっては罪に問われるリスクもあるため、少しでも兆候が見られるようであれば早急な対応が必要です。
「介護離職」も介護疲れがもたらす問題の一つで、介護の疲れが仕事にも影響を及ぼしてしまい、働くことができなくなってしまいます。
厚生労働省が発表した「令和4年(2022年)雇用動向調査」によると、離職した理由を「介護・看護」とした人は男性で0.7%、女性で1.5%です。2021年に比べ減少はしているものの、離職は経済力の低下や再就職難、孤独など精神、経済面でも大きな影響を及ぼす問題といえます。
毎年約10万人が介護を理由に離職しているといわれています。
介護疲れがもたらす問題を防ぎ、介護者の負担を軽減するにはさまざまな対策を講じることが必要です。ここでは主な対策を紹介します。
介護疲れ対策で実質的な負担軽減につながるのが公的介護サービスの活用です。要介護者へのケアを少しでも社会と分担できるようになれば、介護疲れのリスクも大きく軽減されます。
介護サービスはコストがかかるため、経済的な理由から活用が難しいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、65歳以上で要介護(要支援)認定を受ければ介護保険制度で介護サービスを受けられます。認定を受けるための流れは次のとおりです。
申請後、認定調査員が自宅を訪問して、本人や家族から心身の状況についての聞き取り調査を行います。また、市区町村からの依頼により主治医に医学的見地から心身の状況について意見書も作成します。
認定調査の結果と主治医の意見書をもとに「介護認定審査会」で審査し、要介護1~5または要支援1、2という指標に沿ってどの程度の介護が必要かを判定します。認定結果は原則として申請から30日以内に市区町村から通知されます。
認定結果によりどのような介護サービスを受けられるのでしょう。ここでは、介護保険制度で受けられる主な介護サービスを紹介します。
自宅で利用するサービス | 訪問介護 | 訪問介護員(ホームヘルパー)による入浴、排せつ、食事などの介護のほか、調理、洗濯、掃除などの生活援助サービス |
訪問看護 | 医師指導のもとに看護師が健康チェック、療養上の世話を行い自宅療養が送れるようにするサービス | |
福祉用品貸与 | 車いす、ベッドなどの福祉用品をレンタルするサービス | |
日帰りで施設等を利用するサービス | 通所介護(デイサービス) | 食事・入浴介助、心身機能維持・向上などの訓練、レクリエーションなどを日帰りで行うサービス |
通所リハビリテーション(デイケア) | 施設・病院などで理学療法士、作業療法士がリハビリテーションを行うサービス | |
宿泊系サービス | 短期入所生活介護(ショートステイ) | 施設に短期間宿泊して食事・入浴介助、心身機能維持・向上などの訓練を行うサービス |
居住系サービス | 特定施設入居者生活介護 | 有料老人ホームに入居している高齢者が利用できる介護サービス |
施設系サービス | 特別養護老人ホーム | 自宅介護が困難(※原則要介護3以上の方)な方が入所し、一体的な介護を受けられるサービス |
小規模多機能型居宅介護 | 利用者の選択に応じて、施設への「通い」と「宿泊」と「訪問」を組み合わせて日常生活上の支援や機能訓練を行うサービス | |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 訪問介護員と看護師との連携で、24時間365日必要なサービスを必要なタイミングで柔軟に提供するサービス |
仕事を続けつつ、介護を行うため、育児・介護休業法で定められた制度を活用することも有効です。主なものとしては次の制度があります。
介護が必要な家族一人につき、介護が必要な状態になるごとに93日(通算・上限3回まで)休業できる制度です。介護休業期間中は、一定の要件を満たすことで雇用保険から休業前賃金の67%が支給されます。
介護が必要な家族一人につき、1年間で5日まで、対象家族が二人以上の場合は10日まで介護休業や有給休暇とは別に1日単位で休暇を取得できる制度です。
介護休暇の日数は企業ごとに異なり、上記以上の日数を取得できる企業もあります。
労働者が要介護状態にある家族がいる場合、介護を目的として申請すれば所定外労働を免除してもらえる制度です。1回につき1カ月以上1年以内の期間で回数の制限なく活用できます。
各地方自治体では、自宅介護をしているまたはする可能性のある方に向け、介護の心得や実技の習得、介護相談などを行える教室を開催しています。この教室に参加するのも介護疲れ軽減対策の一つです。
介護疲れになってしまう原因の一つに、介護のやり方がわからない、相談できる人がいないなどが挙げられます。介護教室に参加すれば、介護技術以外にも専門家に相談したり、同じ悩みを持つ仲間をつくれたりするため、孤独感や介護への不安解消など精神的にも落ち着きを得られるでしょう。
介護疲れにより仕事を辞めざるを得なくなれば、経済的な不安も重なり、介護者の身体、精神状態はさらに悪化してしまうリスクがあります。経済面での不安解消対策としては、行政サービスの活用がおすすめです。主なものとしては次のサービスが挙げられます。
高額介護サービス費制度とは、1カ月に支払った利用者負担の合計で、負担限度額を超えた場合、超えた分が払い戻しされる制度です。
自治体窓口で高額介護サービス費支給申請書を受け取り、記載したうえで介護保険被保険者証と振込先が確認できるものを合わせて申請します。負担限度額は次のとおりです。
区分 | 負担の上限額(月額) |
---|---|
課税所得690万円以上 | 140,100円(世帯) |
課税所得380万円~690万円未満 | 93,000円(世帯) |
市町村税課税~課税所得380万円未満 | 44,000円(世帯) |
世帯の全員が市町村民税非課税 | 24,600円(世帯) |
世帯の全員が市町村民税非課税で前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方 | 24,600円(世帯) |
15,000円(個人) | |
生活保護を受給している方 | 15,000円(世帯) |
高額医療・高額介護合算制度とは、同一世帯で支払った介護保険サービスと医療費の自己負担額の合計で、負担限度額を超えた場合、超えた分が払い戻しされる制度です。
自治体窓口で高額医療・高額介護合算申請書を受け取り、必要事項を記載したうえで健康保険証と介護保険証、振込先が確認できるものを合わせて申請します。自己負担限度額は年収(所得)に応じて次のように設定されています。
75歳以上 | 70歳~74歳 | 70歳未満 | ||
後期高齢者医療制度+介護保険 | 被用者保険又は国保+介護保険 | 被用者保険又は国保+介護保険 | ||
年収約1,160万円~ | 212万円 | 212万円 | 212万円 | |
年収約770~約1,160万円 | 141万円 | 141万円 | 141万円 | |
年収約370万円~770万円 | 67万円 | 67万円 | 67万円 | |
~年収約370万円 | 56万円 | 56万円 | 60万円 | |
市町村民税世帯非課税等 | 31万円 | 31万円 | 34万円 | |
市町村民税世帯非課税 (年金収入80万円以下等) | 19万円(※) | 19万円(※) |
※介護サービス利用者が世帯内に複数いる場合は31万円
ここまで、国や自治体によるサービス活用で介護疲れを軽減する対策を紹介してきました。多くの対策のなかで、自身に合ったものを見つけられれば、介護の負担も大きく軽減されるでしょう。ただし、精神的な負担については制度活用だけで軽減するのも困難です。ここでは、精神的な負担を軽減するための方法を紹介します。
前述した介護教室や病院などで同じ介護の悩みを共有できる仲間をつくります。互いに悩みを打ち明けることで精神的に大きな安らぎを得られるでしょう。介護経験者でなければ共有できない話ができるため、ストレスの緩和にもつながります。
一方的に悩みを話し、聞いてもらうだけでも心は安らぎます。介護保険担当課や地域包括支援センターの職員、ケアマネージャー、民生委員など悩みを真摯に受け止めてもらえる信頼できる相手をつくるのもおすすめです。
介護サービスを活用し、空いた時間を趣味に使います。介護から離れまったく関係ないことを考える時間が少しでもあれば精神的な安心感を得られ、要介護者との良好な関係構築にもつながります。
近所を散歩する、ストレッチをするなど、軽い運動はリフレッシュやストレス軽減に大きな効果を発揮します。心身の健康にもつながるため、積極的に運動するよう心掛けましょう。
介護サービスの活用は、楽をしているのではないか、手抜きなのではないかなど罪悪感を持ってしまう方も少なくありません。
とくに真面目で責任感の強い方はそうした傾向があります。ただし、一人で抱え込み過ぎてしまい介護疲れから健康被害や介護うつ、ネグレクトにつながってしまっては意味がありません。
要介護者と良好な関係性を保ちながら、介護疲れを軽減するには周囲の協力や行政サービスをうまく活用し、自分の時間を持てるようにすることが重要です。
自身が介護疲れになってしまう可能性があるのではと思われる場合は、我慢せず自治体のサービス活用をぜひ検討してみてください。
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