都市計画法は不動産業界で働く人は必ず押さえておきたい法律です。都市計画法は、宅建を勉強中の方が「量が多く、概念も難しい」と嘆くことも多くなっています。しかし、法律ができた背景やその目的まで正しく理解すれば、それほど難しくないことに気がつくはずです。都市計画法を始めとする関係法令の理解を深めるためには法律が制定された目的や、施行された歴史的背景をおさえることが重要です。
目次
都市計画法を分かりやすく説明
都市計画法とは簡単にいえば住みやすい街づくりのためのルールです。街が作られる時に、何もルールがなければ住みにくい街になったり、自然環境が破壊されたり、不公平な不動産取引が発生したりします。何でも自由に建物を建てて良いとなれば、幼稚園や小学校の隣に風俗店やパチンコ店が建つということにもなりかねません。このような問題を起こさないために、街づくりのルールを定めたのが都市計画法です。都市開発法は理念として、農林漁業との健全な調和を掲げています。そのため、田畑を開発したり、山林を削ったりしてまで街づくりを進めるということは理念に反する行為です。都市計画法は、市街地の整備だけではなく、農業や林業などと調和を図りながら土地を利用するための法律であるといえるでしょう。
都市計画とは?
都市計画法が定める都市計画は、法の第6条の2によって以下のように示されています。
(都市計画区域の整備、開発及び保全の方針)
第六条の二 都市計画区域については、都市計画に、当該都市計画区域の整備、開発及び保全の方針を定めるものとする。
引用元:都市計画法|e-Gov 法令検索
整備、開発、保全が都市計画の重要なキーワードです。都市計画法で定めている都市計画とは、街づくりを進めて整備と開発を行うだけでなく、自然の保全をも図ることが可能なバランスの取れた計画を意味します。国や都道府県、市区町村が10年後、20年後の将来を考えて、市民や専門家の意見を聞きながら都市計画を決定、変更しています。
都市計画法が施行された背景と歴史
戦後復興の過程で日本は深刻な環境汚染問題を経験しています。明治時代後半から終戦にかけ、都市部に人口が集中するようになりました。その結果、都市部には狭い場所にたくさんの家屋が軒を連ね、狭い路地が網の目のように張り巡らされるという状況が一般的になっていました。
さらに、戦後の復興でますます人口は密集し、近隣の川は下水で汚染されました。子供たちが遊べるような公園はなく、道路や線路で遊んでいる子供たちが事故に遭うことも珍しくなかったようです。
経済成長であちこちに工場が建てられ、住宅地の空気汚染も進みました。土地開発に関するルールがないために、危険で不衛生な街ができあがっていったのです。このような背景をもとに、1969年に都市計画法が施行され、安全で衛生的な街づくりが始まりました。時代と共に、住宅様式や生活が変化していったため、都市開発法は2023年10月現在の時点で10回にも及ぶ改正を行っています。
土地の区分け
土地計画を進めるには都市がどこかを定める必要があります。そこで土地計画法では地形、人の働きから土地を3つに区分しています。都市計画区域、準都市計画区域、都市計画区域外の3つに大きく分類できます。都市計画区域とは人や物が集中する、いわゆる都市と呼ばれるエリアのことです。準都市計画区域とは都市から離れているにも関わらず近年開発が進んでいる、または開発が見込まれるエリアです。それ以外の区域が都市計画区域外となります。
この3つの区分けのうち、都市計画法による規制の対象となるのは、都市計画地域と準都市計画区域の2つです。この2つの区分は、街づくりをすることを前提として指定されており、建設できる建物の種類に規制が設けられています。
たとえば、準都市計画区域は高速道路のインターチェンジや幹線道路沿い、新しい駅の周辺などが該当します。開発途中なため現在は地価が安いものの、将来的に都市計画が必要になりそうな場所を指しています。
準都市計画区域に規制が設けられていなければ、地価が安いうちにマンションや商業施設を建設しようとする企業がたくさん現れます。そうなれば、将来的に都市計画の妨げにもなりかねないため、規制をかけているのです。また、観光地も準都市計画区域に指定されていることがあります。たとえば、北海道のニセコや洞爺湖などにも準都市計画区域に指定されている地域があります。
都市計画区域外は山林などを指します。たとえば、富士山の国有林などは都市計画区域外になっています。
都市計画区域は、さらに3種類に区分されています。市街化区域、市街化調整区域、非線引き区域の3種類です。
市街化区域とは街づくりが進んでいるか、これから進むのが明らかなエリアで、優先的に開発されています。道路や公園、下水道など生活に必要な施設を優先的に整えて、暮らしやすいエリアにしている地域です。市街化区域の中は、土地の利用法やルールによって用途地域ごとに分けられています。
市街化調整区域は、市街化を抑制するために設けられた区域です。建物の建築をなるべく制限して、自然を守る区域です。市街化調整区域の設定には、医療施設や教育施設などのインフラ施設が分散して生活しづらい環境になることを防ぐ目的もあります。戸建て住宅やマンションの建設に対して規制がかかっています。
非線引き区域は、都市計画区域内で市街化区域と市街化調整区域に分類されていない土地のことです。開発時の規制は緩いですが、電気や上下水道、道路などのインフラが整備されていないことが多いです。非線引き区域では、開発許可や規制の内容が緩やかになります。
市街化区域の用途13種類
市街化区域は都市計画法で13種類の用途地域に分けられています。用途地域とは、計画的に街づくりを行うために、土地にどんな建物が建設可能かをエリアごとに決めたものです。つまりは用途に応じたエリア分けのことです。たとえば、住宅街の中に工場があれば騒音などに悩む人が出ます。また、商業施設は同じエリアにまとまっていると遊びや買い物に行くのに便利です。
13種類の用途地域は、都市を作るためのテンプレートで、容積率、建ぺい率などを規制しています。テンプレートに従うことで、都市計画に沿った街づくりが可能です。13種類の用途は、大きく3つのグループに分けることができます。住居系(8つ)と商業系(2つ)そして工業系(3つ)です。
住居系12
第1種低層住居専用地域 | 低層住宅のための地域。小規模なお店や事務所を兼ねた住宅や小中学校が建てられます。 |
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第2種低層住居専用地域 | 主に低層住宅のための地域。小中学校などのほか、150m2までの一定のお店などが建てられます。 |
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第1種中高層住居専用地域 | 中高層住宅のための地域。病院、大学、500m2までの一定のお店などが建てられます。 |
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第2種中高層住居専用地域 | 主に中高層住宅のための地域。1,500m2までの一定のお店など必要な利便施設が建てられます。 |
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第1種住居地域 | 住居の環境を守るための地域。3,000m2までの店舗、事務所、ホテルなどは建てられます。 |
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第2種住居地域 | 主に住居の環境を守るための地域。10,000m2までの店舗、事務所、ホテル、カラオケボックスなどは建てられます。 |
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準住居地域 | 道路の沿道において、自動車関連施設などの立地と、これと調和した住環境を保護するための地域です。 |
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田園住居地域 | 農業と調和した低層住宅の環境を守るための地域。小規模なお店や事務所を兼ねた住宅や小中学校が建てられます。 |
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商業系
近隣商業地域 | まわりの住民が買い物などをするための地域。住宅や店舗のほかに小規模の工場も建てられます。 |
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商業地域 | 銀行、映画館、飲食店、百貨店などが集まる地域。住宅や小規模の工場も建てられます。 |
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工業系
準工業地域 | 主に軽工業の工業やサービス施設などが立地する地域。危険性、環境悪化が大きい工場のほかは、ほとんど建てられます。 |
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工業地域 | どんな工場でも建てられる地域。住宅やお店は建てられますが、学校、ホテルなどは建てられません。 |
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工業専用地域 | 工業のための地域。どんな工場でも建てられますが、住宅、お店、病院、ホテルなどは建てられません。 |
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引用元:区域区分(線引き)と地域地区(用途地域等) | 土浦市公式ホームページ
住居系の用途地域の中で、規制が最も厳しいのは第一種低層住居専用地域です。反対に一番規制が緩やかなのは準住居地域です。第一種低層住居専用地域は3階建て以下の低層住宅のみ建てることができます。他には保育園や幼稚園、学校、図書館などの教育施設、診療所、老人ホームや宗教施設などを建てることができます。不動産サイトなどでは閑静な住宅街、住環境が守られたエリアなどのように表現されることの多いのがこのエリアです。
準住居地域は大通り沿いのエリアで自動車修理工場、倉庫あるいは一定の制限のもとで劇場や映画館などを建てることができます。商業施設や工場などを建てると、人や車の出入りが増え、騒音などの問題が生じるのでこれらの建物は建てられません。また、高層マンションを建てると周囲の住宅の日当たりが悪くなるため制限されています。
商業系は2つだけで、近隣商業地域と商業地域です。近隣商業地域は住宅地の近隣の商店街のイメージです。店舗や飲食店の他、ボーリング場やカラオケボックス、スケート場やパチンコ店などの娯楽施設も建てられます。150平米以下であれば工場もOKで、自動車修理工場にいたっては300平米まで可能です。ただし風俗関係の店舗は規制されています。
商業地域は近隣商業地域に建てられるものは全て建設可能です。高い建物も建てられます。中規模以上の都市の駅前はほぼ商業地域となっており、商業地域にも住宅を建てることはできます。利便性が高く人気のあるエリアです。
工業専用地域は最も規制が厳しく、準工業地域は規制が緩いエリアとなっています。
都市計画法を理解することはなぜ重要なのか?
都市計画法は、宅建の資格試験と宅建士の独占業務である重要事項説明の両方に密接にかかわっています。宅建の試験では都市計画法の問題が2問出題されます。しっかり理解すれば、2問に応えられるだけではなく、他の問題にも応用が可能です。
都市計画法は、宅建試験の中で法令上の制限の分野に属します。この分野は、土地を購入して目的に沿って開発し、建物を建てるという一連の流れの中で関わってくる6つの法律(国土利用計画法、都市計画法、農地法、土地区画整理法および宅地造成等規制法、建築基準法)を扱うものです。この中から全部で8問出題され、都市計画法は関連しあう6つの法律のうちで最も上流にあって、建築基準法と共に全体の核となる法律です。
試験に合格したら終わりではなく、実際に宅建士として働くにあたっても都市計画法の知識は不可欠です。土地計画法によって、土地ごとに建設できる建物の種類、規模が変わります。さらに、不動産業や建築業に携わる人にとって、その土地に何が建てられるかということはビジネスの前提となります。たとえば、小規模な戸建て住宅、マンションしか建造できない土地もあれば、商業施設や大学などの施設を建てられる土地もあります。なかには工場しか建てられない工場専用地域もあるでしょう。
重要事項説明の際には、必ずその土地にどんな建物を建てられるかを説明しなければなりません。説明がなければ、店舗を建てるために土地を購入したのに、後になってその土地は工場しか建てられないと判明したという事態にもなりかねません。または、静かな場所を求めて郊外に家を購入したが、周りに大型商業施設がどんどん建設されていくということにもなりかねません。このような事態を防ぐためにも、建設できる建物の種類や、今後周囲にどんな建物が建設されていくかを事前に把握し、説明する必要があるのです。