新型コロナウイルス感染拡大の影響で、対面よりもオンラインでのサービスを希望する顧客が増えているのではないでしょうか。従来、対面で行うべきとされていた宅地建物の取引における「重要事項説明」も、オンライン化された業務の一つです。
IT重説は顧客と不動産事業者双方にメリットがあるため、今後導入する不動産事業者は増加していくでしょう。今回は、IT重説を行う際のメリット・デメリット、流れなどを解説していきます。
目次
IT重説とは?
IT重説とは、宅地建物取引業法第35条において対面で行うべきとされていた賃貸借契約における重要事項説明を、Zoom、Facetimeなどのオンラインサービスを活用して行うものです。
内容が複雑かつ高額な不動産取引では、契約成立後にトラブルが起こりやすいため、不動産事業者は、顧客と契約を締結する前に、権利関係や取引条件などの重要事項を書面交付した上で、対面で重要事項説明を行わなければならないとされています。
しかし、現在は賃貸取引・売買取引において、IT重説が本格運用され、IT重説を対面による宅地建物取引業法(宅建業法)第 35 条の重要事項説明と同様に取り扱うものとしています。
IT重説の制度における現状について、次の章で詳しく解説していきましょう。
IT重説の制度における現状
IT重説は、2015年から社会実験が開始され、賃貸取引および売買取引で本格運用されています。
社会実験期間中には、賃貸取引で約1,000件、売買取引で約2,300件のIT重説が実施されました。目立ったトラブルがなかったことから、賃貸取引では2017年10月1日から、売買取引では2021年3月30日から本格的な運用開始となりました。
現在は、IT重説を実施する際、特別な手続きは不要です。国土交通省が定めるマニュアルに基づいていれば、すべての不動産事業者がIT重説を実施できます。
将来的にはIT重説の電子交付も可能
2021年5月12日にデジタル改革関連法が成立しました。現状では、IT重説を実施する際、宅地建物取引士が記名・押印済の重要事項説明書を事前に顧客へ郵送する必要がありますが、将来的には書面への宅地建物取引士の押印が不要となり、書面を電子データ(PDFなど)で提供できるようになります。
なお、デジタル改革関連法の施行は、2021年9月の予定ですが、宅地建物取引業法に関する部分は2022年5月頃まで(公布の日から1年以内)に施行される予定です。
IT重説のオンラインによる交付が可能となれば、ペーパーレス化、印紙税が不要、顧客の時間を削減できるなど、さまざまなメリットを実感できるでしょう。
IT重説を実施するメリット
IT重説の実施は、顧客・不動産事業者双方にメリットがあります。
(1)時間・費用のコスト削減
(2)日程を調整しやすい
(3)顧客が事前に準備できる
(4)録画によるトラブル防止
IT重説は、インターネット環境さえあれば自宅でも対応できるため、遠方の顧客の移動時間や交通費などのコストを削減できます。また、事前に重要事項説明書等の資料を郵送するため、顧客があらかじめ資料を確認し、質問の準備をすることも可能です。
また、重要事項説明を録画することで、不動産事業者側が説明した内容の証拠が残り、トラブル防止にも役立ちます。
IT重説を実施するデメリット
IT重説には以下のデメリットもあるため、併せて確認しておきましょう。
(1)ITツール導入の手間が必要
(2)通信環境が悪いと実施できない
(3)図面の参照が難しいケースがある
パソコンやタブレットなど、IT重説で利用する端末は特定されてはいませんが、カメラの解像度や音声の質など、一定の性能を持ったITツールを導入する必要があります。また、インターネットに接続する際には、セキュリティの確保も必要です。
IT重説を実施中に通信環境が悪くなった場合には中止し、双方合意した方法・範囲において改めてIT重説を行わなければなりません。インターネット回線に問題がないか事前に確認するために、顧客の協力を得る必要もあるでしょう。
また、相手方が利用する端末の画面の大きさなどによっては、図面などの資料の参照が難しい場合があります。「付箋やマーカーを利用する」「資料に番号を振る」など、対面時よりも資料をわかりやすくする工夫が必要です。
IT重説の流れ
IT重説を実施する際の流れは、以下の通りです。
STEP1:契約の相手方に必要書類を事前送付する
STEP2:IT重説を行う
STEP3:返送された書類をもとに手続きを行う
現在、IT重説では、重要事項説明に使用する書類を、オンラインで交付することは認められていません。宅地建物取引士が記名・押印済の重要事項説明書等の資料を、事前に顧客へ郵送する必要があります。(これがデジタル改革関連法の施行により電子データでの提供が可能となります。)
IT重説を行うためには、顧客と不動産事業者が互いに「映像を視認できる」、「音声を聞き取れる」、「問題なくやり取りができる」インターネット環境を整えることが条件となります。事前にインターネット環境の確認をした上でIT重説を行い、顧客が重要事項説明書に記名・押印後、1部を返送するという流れになります。
このような手間が必要であるものの、環境を整備することで改善できる可能性は高いでしょう。また、2021年5月にデジタル改革関連法が成立したことによって、将来的には書類の郵送も不要になるため、今後は不動産取引のオンライン化が大きく進むと予想されます。
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先述の通り、IT重説や書面交付のオンライン化は、法改正により普及が加速することが予想されます。法施行後に慌てて準備しようと思っても、社内整備が追い付かず、すぐに対応できない可能性もあるでしょう。
セキュリティを確保した上で不動産取引のオンライン化に対応するためには、早めに電子契約サービスを導入しておくことが大切です。
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