インターネットの普及により、電子取引は今や商業活動で不可欠な存在になっています。それとともに、電子契約による契約の締結が増加しています。しかし、電子契約に関わる法律は複数あるため、電子契約の法的効力が認められるための各要件を知っておく必要があります。
本稿では、電子契約に有効性を持たせる仕組みのほか、電子帳簿保存法、電子署名法、e-文書法など電子契約に関わる法律における要件について解説していきます。
目次
電子契約とは?
電子契約については、現在のところ法律上の定義はありません。一般的には、書面による契約ではなく、インターネットなどの通信回線によって電子データで締結する契約とされています。
企業や組織での導入が増えている理由としては、電子契約にはコスト削減、業務の効率化、ガバナンス強化などのメリットがあることが挙げられます。
電子契約のメリット・デメリット│導入時に発生し得る課題への対処法
コスト削減
電子契約は電子ファイルで作成されるため、課税文書に該当しません。電子契約を導入することで印紙税は不要となります。また、契約書の印刷、製本、郵送等の手間もなくなるため、大幅なコスト削減につながります。
契約業務の効率化
また、契約書の印刷から郵送までの煩雑な業務も激減します。工数も削減できることから、契約締結までのスピードアップが期待できます。
ガバナンス強化
電子契約化によって大量の契約書が簡単に検索・閲覧できるだけでなく、共有も可能になります。これによって契約の進捗管理や文書管理が確実になり、ガバナンス強化でも大きな効果があります。
電子契約に有効性を持たせる仕組み
書面による契約では、裁判における証拠性などを考慮し、合意した内容を契約書にまとめ、署名押印をした上で当事者双方にて保管するのが一般的です。
法律上、契約は締結を申し込み、それを相手方が承諾をした際に成立するため(民法第522条第1項)、eメールやLINEのトークのやりとりでも成立します。
しかし、それでは証拠としての有効性が担保されないため、電子契約にはタイムスタンプと電子署名という、有効性を持たせる仕組みがあります。両者が揃ってはじめて、文書の真正が確保できます。
タイムスタンプ
タイムスタンプとは、それが刻印されている時刻以前からその電子契約書などの電子文書が存在することを証明(存在証明)するとともに、その時刻以降に文書が改ざんされていないことを証明(非改ざん証明)するものです。
その仕組みは、まず利用者が、電子文書の指紋に相当する原本の「ハッシュ値」を第三者機関である時刻認証局に送付し、タイムスタンプ(ハッシュ値+時刻情報)を発行してもらいます。
そして、原本データのハッシュ値とタイムスタンプのハッシュ値を比較検証し、一致していれば改ざんされていないことが証明されたことになります。
電子署名
電子署名は、なりすましや情報の改ざんを防止するための公開鍵暗号方式による仕組みです。電子文書を作成して送信する電子署名者は、「秘密鍵」と「公開鍵」というペアの暗号鍵を持っています。
秘密鍵は、電子文書を送信する署名者だけが持っており、厳重に管理されています。もう一方の公開鍵は当事者ではなく、第三者機関である認証局が発行し、一般に公開されます。
まず、契約書など作成された電子文書のハッシュ値が計算されます。ハッシュ値とは、ハッシュ関数と呼ばれる関数によって電子文書を計算して求められる文字列です。同一の電子文書に同じハッシュ関数を適用すると、同じハッシュ値が得られます。ハッシュ値が同じであれば、元の文書も同じという仕組みです。
電子署名では、署名者は得られたハッシュ値を、秘密鍵を用いて暗号化し、電子文書に添付して受信者(署名検証者)に送信します。
受信者は電子文書のハッシュ値を計算するとともに、署名者の公開鍵を使用して復号(暗号文を解いて元の平文に戻すこと)します。
そして、受信者が送付された電子文書のハッシュ値と復号したハッシュ値を比較し、一致していれば、なりすましや改ざんがないことが確認できるという仕組みです。
メール認証などで本人の確認はできますが、さらに高い証拠力となると、本当に秘密鍵と公開鍵が電子署名者のペアの暗号鍵であるかを確認することが必要となります。
そこで、署名者は認証局に本人であることであることの証明書(電子証明書)の発行を依頼し、受信者に公開鍵を送付する際にその証明書を添付します。
電子証明書を検証することで文書が真正であることが確認できます。電子証明書は実印タイプ、メール認証による本人確認は契約印タイプと位置付けることができるでしょう。
導入企業260万社の「電子印鑑GMOサイン」は、実印タイプの電子署名(電子証明書)と契約印タイプの電子署名(メール認証)のほか、両方を使い分けるハイブリッド署名も活用できます。
電子契約に関連する主な法律
電子契約に関する法律は多数ありますが、その役割はさまざまです。ここでは、主な7つの法律をご紹介します。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、1998年7月に施行された法律です。税法では原則として帳簿書類は紙での保存が義務付けられていますが、一定の要件を満たした上で紙保存の特例として電子データによる保存を認めるとともに、電子的に授受した日々の取引情報の保存義務を定めています。
その後、数度の法改正が行われ、帳簿書類を電子的に保存する際の手続きなどについて抜本的な見直しを行った改正電子帳簿保存法が、2022年1月に施行されました。
電子帳簿保存法まるわかりガイド
電子帳簿保存法について詳しく知りたい方におすすめ!
電子署名法
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)は、2001年4月に施行されました。電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用するものとして、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われた電子文書は、真正に成立したものと推定されることなどが定められています。
e-文書法
e-文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律)は2005年に施行されました。財務や税務に関する帳票のほか、取締役会議事録など、商法や税法で保管が義務付けられた文書の電子保存を認める法律です。
デジタル改革関連法
デジタル改革関連法は、2021年5月に公布されました。その背景には、流通するデータの多様化・大容量化が進展し、データの活用が不可欠となったこと、データの悪用・乱用からの被害防止の重要性が増大していることなどがあります。
また、新型コロナウイルスへの対応でデジタル化の遅れが顕在化したことも大きく影響しています。関連法は、6つの法律で構成されており、デジタル化推進政策の理念や基本方針を規定するデジタル社会形成基本法(2021年9月施行)などがあります。
印紙税法
印紙税法は、一定の文書に国税である印紙税を課すことを定める法律です。前述のように、電子契約は電子データであるため、課税文書に該当せず、印紙税は不要となります。
IT書面一括法
IT書面一括法(書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律)は、2001年4月に施行されました。企業が「顧客(個人、法人)」に対して書面交付が義務付けられていた文書を、電子メールや電子ファイルなどの電子的手段の交付でも認めることを定めています。
民法
民法は、私人間の日常生活における契約関係において適用される法律です。契約の分野では民法が一般法とされています。
電子契約との関係では、民法上、契約は当事者の合意のみで成立するため、電子署名を用いなくても契約自体は成立します。
法律ごとの電子契約の要件
上記のように電子契約に関係する法律は多数ありますが、その法律の役割によって定める要件は異なります。電子契約を導入する場合、知っておくべき要件について主なものを挙げておきます。
電子帳簿保存法の要件
電子帳簿保存法では、国税関連の文書だけを対象とし、電子データによる保存を、①電子帳簿等保存(会計ソフトなどで電子的に作成した帳簿の保存)、②スキャナ保存(紙の取引書類をスキャンした画像保存)、③電子取引の3つに区分しています。
①電子帳簿等保存、②スキャナ保存の2つは電子データで保存することは任意であり、義務とはされていません。
③の電子取引は、インターネット取引などで電子的に授受した取引情報(契約書に通常記載される事項も含む)を電子データで保存するものです。
2021年の法改正によって2022年1月以降(※)は、電子取引に関しては電子保存のみになり、電子契約も紙にプリントアウトして保存することが認められなくなります。
(※)やむをえない理由などにより対応が間に合わない事業者に対しては、2023年12月末日までの猶予が認められることになりました。
電子署名法の要件
電子署名法では、電子署名に有効性を持たせる要件(法第2条)と電子文書の法的証拠力についての要件(法第3条)を定めています。
第2条では、署名名義人が電子データを作成したことを証明でき、電子データが改変されていないことが必要であると規定しています。これらについては電子証明書などによる本人確認とタイムスタンプで担保することができます。
第3条では、本人による電子署名が付与されていることを要件とし、この電子文書であれば真正に成立したものと推定するとしています。
e-文書法の要件
e-文書法では、国税関連の文書だけでなく、商法およびその関連法令も対象となります。紙として保存された文書をスキャンして画像ファイル化したものが正規の文書として認められるためには、①見読性(けんどくせい)、②完全性、③機密性、④検索性の4つが確保されていることが求められます。
ただし、各府省の主務省令などによっても異なり、①のパソコンなどで明瞭な状態で見ることができるという見読性の確保以外は、対象となる文書によって要件とされないこともあります。
電子契約に関連する法律には、以上のような要件がありますが、「電子印鑑GMOサイン」はこれらに対応したサービスになっています。
電子契約を行う際の注意点
実際に電子契約を導入する際の注意点についてみていきましょう。
社内外の事前調整
電子契約の導入による電子化では紙の文書が電子データとなるため、業務の流れが大きく変わることになります。
社内では、説明会による周知はもちろん、十分な研修も実施することが大切です。また、電子化では取引先にも請求書なども含めて電子データで送付することになり、同意を得ておくことが必要です。
事前に丁寧な説明をするだけでなく、社内での対応部署を決め、マニュアルも用意するとよいでしょう。
管理体制の整備
紙文書は事務室内のキャビネットに保管するのが一般的ですが、電子文書は文書管理システムあるいは、ファイルサーバーシステムに保管することになります。
その際、社内の決定文書や重要文書は文書管理システム、文書の下書きの一時保管や社内文書の受け渡しはファイルサーバーシステムにするなど、保管すべき電子文書を決めてマニュアルに明記しておきます。
電子化の範囲の決定
導入企業の状況によっては、電子化は一度に進めるのが難しいこともあります。電子契約にしても、すべての契約に導入するのではなく、一部は紙の契約書を残すという選択肢もあります。電子化の範囲とスケジュールを決め、段階的に導入する方法も考えられるでしょう。
電子契約の要件について知っておこう!
導入企業が増加している電子契約について、電子帳簿保存法、電子署名法、e-文書法など電子契約に関わる法律の定める要件などについて解説してきました。電子契約にはコスト削減、業務の効率化、ガバナンス強化などのメリットがあります。
「電子印鑑GMOサイン」は導入事例が多く、ベンダーとしての経験も豊富です。電子契約の導入を検討する際、最適な移行方法の提案を受けることができるのではないでしょうか。