準委任契約の“準”とはどのような意味でしょうか。
この記事では、準委任契約とは何か、委任契約や請負契約など他の契約形態との違い、準委任契約の特徴についてご説明します。
目次
委任とは?
準委任契約の説明にあたり、まずは前提となる委任について説明します。
委任は、民法に規定のある13種類の契約類型(典型契約)のひとつで、“法律行為”を依頼し相手が承諾することで成立します。
“法律行為”とは、一定の法律効果(権利の発生、変更・消滅などの権利変動)を発生させようという意思に基づく行為をいいます。たとえば、商品の購入の意思を伝えて売り手が承諾し、買い手が代金を支払い、商品を受け取る場合(売買契約)は、法律行為にあたります。
委任は、買い物を他者にお願いする「おつかい」をイメージするとわかりやすいでしょう。
民法第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
ビジネスにおける委任契約の例として、弁護士に訴訟の代理人を依頼する場合、税理士に確定申告を依頼する場合、司法書士や行政書士に役所への提出書類の作成や手続きを依頼する場合などが挙げられます。士業の方へ業務を依頼する際に「委任状」への署名や押印を求められるかと思いますが、これは、委任契約の存在を対外的に示すために必要となるからです。
なお、委任契約は、引き受ける側の能力や実力、専門性などを見込んで法律行為の代行を依頼するものですから、引き受けた側が依頼者の許可なく依頼を他者に再委託(再委任)することはできません。
民法第644条の2(復受任者の選任等)
受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
2 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。
準委任契約とは?
法律行為の代理・代行を依頼する「委任」に対し、「準委任」とは法律行為以外の“事実行為”(いわゆる事務や業務)の遂行を依頼する契約です。たとえば、医師の診察や治療、エンジニアに情報システムの構築を依頼する場合などが準委任にあたります。委任と同様、準委任も受託者の能力や実力、専門性を見込んで業務を依頼するものです。
委任契約と準委任契約の違い
委任も準委任も、“特定の業務”の遂行を依頼する契約であるという点においては共通していますが、“特定の業務”が、委任契約は法律行為、準委任契約は事実行為(事務処理)を指す点において異なります。
むしろ、両者にはこの点にしか違いはありません。委任契約と準委任契約は、委託内容が法律行為か事実行為かという点しか差異がないのです。
私たちが見かける契約で考えたとき、委任契約より準委任契約のほうが圧倒的に多いですが、民法は、準委任については委任に関する規定を準用すると定めています。“準用”とは、ある法律に「Aのとき、Bとする」という定めがあったとき、「A´のときにもBとする」というように、ある法律の定めを類似する他の事項についても同じように適用することです。委任契約の条文に「準ずる」から「準委任」と考えるとイメージしやすいでしょう。
民法第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
(準)委任契約と請負契約の違い
委任・準委任契約と混同されやすい契約類型に、“請負契約”があります。請負契約とは、請負人が仕事を完成させることを約束し、その結果に対して報酬の支払いを約束する契約です。例えば、建設会社に建物の建設工事を依頼する契約、ウェブデザイナーにウェブサイト制作を依頼する契約が請負契約にあたります。
民法第623条(請負)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
委任・準委任契約と請負契約は、第三者に依頼するという点では共通しています。しかし、請負契約は、仕事の完成までが契約内容に含まれているという点で委任・準委任契約と異なります。
委任・準委任契約においては、原則として、委任された法律行為・事実行為を行うことで債務の履行がされたことになります。例えば、医師が患者からの依頼で診察や治療を行ったものの、結果が思わしくなく患者の病気が完治しなかった場合、落ち度もないのに損害賠償を請求されるようなことがあっては医師も困ってしまいます。弁護士が訴訟で負けてしまった場合も同様です。
民法は、(準)委任契約に「履行割合型」と「成果完成型」の2つの類型を用意しています。
履行割合型は、業務の遂行にかかった工数や時間を基準として報酬を支払うというものです。業務自体が適切に遂行されていれば、委託した仕事の結果について問われません。
成果完成型は、業務の遂行によって依頼者が得られる成果に対して報酬を支払うというものです。この場合、受託者がその行為の遂行にかかった工数や時間は考慮されず、発注者が得られた成果に対して報酬が支払われます。注意点としては、受託者は報酬を受け取れなくなりますが、引き受けた仕事を必ず最後までやりきる義務はないということです。
この点、請負契約では、請負人は、仕事の完成や納品物に対して責任を負っています。たとえば、建設業者が建設工事を行い完成させた建築物に重大な建築ミスがあった場合、その債務の履行が契約不適合であるとして、履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除等の請求を受けることがあります。
委任・準委任契約は、本来なら依頼者が自らやるべきことを、専門家やその道のプロが引き受けて代わりにやってあげるという契約です。引き受けた側は、専門的な知識や能力を十分に発揮しながら業務を行うことが求められますが、請負契約のように成果物の完成までは求められていません。
準委任契約のメリットとデメリット
準委任契約を締結するメリットとデメリットについて考えてみましょう。
(1)準委任契約のメリット:柔軟性や即応性の高さ
準委任契約は、成果物の納品ではなく、業務の遂行を目的とする契約のため、契約期間中に依頼する作業内容に変更が生じた場合でも柔軟に対応が可能です。
たとえば、フリーランスのエンジニアに、成果物に満たないシステムの一部のみを作成してもらうことも可能です。依頼する側はスキルや人材に足りない部分だけを依頼することができるため、業務の効率化も期待できます。
また、事業の特定の分野で人員が不足している場合、準委任契約を用いれば、外部にいるその道の “プロ”に仕事を依頼することができます。既存の社員に新たにその分野について知識を身に着けてもらう必要がなく、研修や育成のコストや時間を省くことができます。
(2)準委任契約のデメリット:「納期」や「成果物」の概念が希薄
履行割合型の準委任契約の場合、成果物の有無ではなく仕事を遂行した工数や作業時間に対して報酬を支払います。そのため、期待する結果を得られなかった場合でも、コストが発生します。また、準委任契約には仕事の完成義務がないため、明確な納期がある仕事に関しては不向きといえるでしょう。
成果完成型の準委任契約の場合、いわゆる“成果報酬型”なので、引き受けた側が成果を得られなかった場合に、お金が出ていくことはないものの得られなかったことに対して受託側に責任を追及することができません。成果物の完成や納品を求める場合は、請負契約を締結すべきでしょう。
以上、準委任契約について解説いたしました。
最近はシステム開発のベンダー契約などで大型の準委任契約が締結される場面も増えています。準委任契約のメリットとデメリットを押さえたうえで、請負契約と準委任契約のどちらを選ぶのかを検討することが重要です。また、準委任契約を選んだ場合は、委任する内容を明確にし、業務の進捗に応じて契約内容を変更・更新していく手間を惜しまないように心がけましょう。
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