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公正証書とは、公務員である「公証人」が私人(個人または会社などの法人)から依頼を受けて作成する公文書です。
公正証書は、公証人という公正な第三者によって作成された文書であるため、その文書の内容が当事者の意思に基づいたものであると強く推定されます。将来的に裁判などで公正証書の内容が虚偽であることを主張する相手にとって、反証のハードルは高いと言えます。
公正証書は、売買などの契約だけでなく、遺言、事実関係の確認などの様々な目的で作成します。公正証書は、その内容によって次の4つのタイプに分類されます。
不動産の売買や賃貸借、金銭の貸し借りなどの契約にあたって、契約内容を証明するために作成される公正証書です。その他にも、贈与、委任、請負など、複数の当事者の間で特定の行為を約束する幅広い場面で公正証書が利用されます。
契約は複数の当事者の間で成立する法律行為ですが、1人の当事者だけで成立する法律行為(単独行為)についても公正証書が利用されることがあります。例えば、死後の財産に関する本人の意思を記した遺言書はこの単独行為の代表的な例です。
権利義務や法律上の地位に関わる重要な事実を、公証人が実際に確認(実験:五官の作用で認識すること)した結果を公正証書の形で記録したものです。例えば、土地の状況、特許権が侵害されている状況、銀行の貸金庫の内容物の状況などが対象になります。
他人の債務について個人が保証人になる場合に、その債務の内容や保証人になることのリスクなどを十分に理解した上で保証人になる意思があることを確認する公正証書です。
民法改正によって、事業用融資の保証契約については、その契約締結の前1ヶ月以内に、保証予定者と公証人が直接面談して保証意思宣明公正証書を作成することが義務づけられました。
公正証書の法律上の効力が一般的な契約書等とどのように異なるかについては、次の4つの点から説明できます。
最初のポイントは文書の証明力です。証明力とは、その証拠の実質的な価値、言い換えれば、ある事実の証明にどの程度影響力を発揮するかという能力を意味します。裁判において高い証明力を持つ証拠が提出されれば、裁判官の判断に大きな影響を与えることになります。
公正証書の作成者である公証人は専門知識を持つ公務員であるため、公正証書の内容が法律に適合していること、公正証書の内容が真正なものであることを強く推認させる効果があります。
公正証書の効力の2つ目の特徴には、公正証書に記された約束(債務)を履行しなかった場合に、強制執行を可能にする執行力が挙げられます。これは、金銭債務の支払いに関して、公正証書内に「債務者は直ちに強制執行に服する」という内容が記されている場合に実現する効果です。
通常、強制執行を行うためには裁判を経て確定判決を得る必要があり、大変な労力と費用、時間がかかります。この間に相手方の経済力が失われてしまい、経済的補償を得ることが難しくなる可能性もあるため、債務の不履行があった場合に速やかに強制執行できる公正証書の価値は非常に大きいと言えます。
第3の特徴は安全性です。
作成された公正証書の原本は、原則として公証役場に20年間保管されます。これによって、文書の紛失や盗難、内容の改ざんといった物理的リスクを心配する必要は無くなります。
また、公正証書の作成過程では、公証人が当事者の意思を確認し、文書の内容が法律に適合していることを確認します。文書の内容に関して誤解が生じていたり、詐欺的な内容、不平等な取り決めが含まれる可能性を大幅に軽減できます。
第4の特徴は心理的な圧力の存在で、これは先に挙げた3つの効力から副次的に生じる効果であると言えます。
先に述べたように、公正証書の作成過程に公証人が介在するため、相手方に対して心理的なプレッシャーを与える効果が期待できます。
また、証明力の高さや執行力の存在は、トラブルを未然に防ぎ、万が一トラブルになった場合にも誠実な対応を期待できる効果をもたらします。
自由な意思に基づいて、法律に適合した内容の取り決めをしたのであれば、その内容を守る必要があるということは公正証書の場合も一般的な契約書の場合も違いはありません。
しかし、公正証書に記された内容を守らなかった場合には、先に解説した公正証書の法的効力を活用して厳しく責任を追及されることになり、損害賠償の支払い義務を負うなどの重大な結果を招く可能性があります。
金銭債権の場合は、その執行力によって、有無を言わさず強制執行を受ける可能性があります。裁判になったとしても、通常、公正証書には高い証明力が認められるため、その内容を覆して自己の正当性を立証することには大きな困難が予想されます。
公正証書そのものの有効期限に関する規定は存在せず、公正証書に記載した内容が自動的に永久保護されるといった効果はありません。
公正証書に記載した内容が効力を持つ期間は、その内容によって定まります。
例えば、当事者間で契約の始期と終期を指定した場合は、その期間がその内容の有効期間となります。その他、遺言であれば、遺言者の死亡をもって効果が生じることや、離婚後の養育費支払い義務を定めた契約であれば離婚の成立を条件に効果が生じるなど、一般的なルールに従うことになります。
一方、公正証書の保管期限に関しては公証人法施行規則に規定があります。
公証人法施行規則
第二十七条 第一項
公証人は、書類及び帳簿を、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる期間保存しなければならない。ただし、履行につき確定期限のある債務又は存続期間の定めのある権利義務に関する法律行為につき作成した証書の原本については、その期限の到来又はその期間の満了の翌年から十年を経過したときは、この限りでない。
一 証書の原本、証書原簿、公証人の保存する私署証書及び定款、認証簿(第三号に掲げるものを除く。)、信託表示簿 二十年中略
第三項
第一項の書類は、保存期間の満了した後でも特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間保存しなければならない。
公証人法施行規則第27条第1項で公正証書の原則の保管期限は20年とされていますが、第3項には保管期限の延長に関する規定も存在します。
例えば、遺言書の場合、遺言者の死亡が公正証書の作成日から20年以内になるとは限らず、死亡時に公正証書の原本が失われている可能性も生じます。実際の運用としては、各公証役場にて作成から20年を超えて公正証書を保管していることもあります。
もし、20年以上前に作成した公正証書の原本が必要になった場合は、公証役場に問い合わせをしてみることをお勧めします。
ここまで公正証書の効力について解説してきましたが、次のような事情がある場合には公正証書の効力が無効になる可能性があります。
公正証書の作成には専門的知識を持った公証人が関わりますが、もしも、公正証書の作成過程に違法性があれば、作成された公正証書の効力も否定される可能性があります。
具体的な例としては、公正証書遺言を作成したが、遺言者が認知症で遺言の内容やその効果を把握する能力を失っており、遺言をする能力が無かったというケースが考えられます。
このように、本来その法律行為を行うことができないにも関わらず、公正証書が作成されてしまった疑いがある場合は注意が必要です。
民法によって、詐欺や脅迫などを原因とする意思表示は取り消すことができると定められています。公正証書の作成当時、詐欺や脅迫を受けていたこと、その詐欺や脅迫によって意思表示がなされたことが立証された場合には、公正証書が無効になる可能性があります。
違法な行為を約束する、公序良俗に反する内容が含まれるなどのケースでは、公正証書の内容が無効になり、法的な保護を受けることができません。
多くのケースで共通する典型的な公正証書の作成手順は大まかに次のような段階に分けられます。
公正証書の内容となる事項を事前に検討しておきます。
例えば、契約であれば報酬額や諸条件などは通常の契約書と同様に当事者同士で合意しておくことが必要です。公証人の関与に先立って、誤解や認識のずれがないように確認を徹底しましょう。
公証役場での手続きに、本人確認書類や公正証書の内容に関連する資料が必要になる場合があります。作成したい公正証書にどのような書類が必要かは、事前にしっかり確認しておきましょう。
利用したい公証役場に申し込み手続きを行います。
公証役場によっては、公証役場への訪問に先立って事前の予約が必要な場合もあるため、注意しましょう。申し込みが受理されれば、公証役場で、資料の確認や公正証書の作成準備が進められることになります。
公証役場での準備作業が終われば、いよいよ公正証書の作成手続きを行います。当事者またはその代理人が公証役場に出向き、公正証書の内容の最終確認と署名、押印を行います。
その後、公正証書の種類や内容によって定められた公証人手数料を支払い、完成した公正証書を受け取ります。
公正証書の作成に必要な手数料は、公正証書の種類とその内容によって定まります。
契約などの法律行為に関する公正証書を作成する場合は、その公正証書の目的の価額に基づいて算出します。基本となる手数料は下の表の通りです。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
目的の価額とは、その行為によって得られる利益(相手側の負担)を金銭で評価したものです。
贈与の場合、当事者の一方的な負担であるため、契約書の記載額が目的の価額となります。
一方、2者間の売買契約では、双方が負担する価額の合計額が目的の価額となります。当事者の一方が金銭のみを給付する場合は、売買代金の2倍の額が目的の価額となります
例:売主が負担する商品の価額が100万円、買主が負担する代金が100万円の場合、目的の価額は200万円となる
契約が対象としている「賃料×契約期間」を2倍した額(借主と貸主の分)が目的の価額となります。月額10万円で2年間の契約では、10万円×24カ月×2=480万円が目的の価額となります。ただし、契約期間が10年を超える場合は、10年分のみが対象となります。
任意後見契約のように、目的の価額を具体的に算出できない場合は、原則として目的の価額を500万円とします。
その他の公正証書の手数料の例を以下の表に示します。この表の他にも公正証書の類型は存在するため、目的とする公正証書の手数料について確認したい場合は、公証人役場に問い合わせましょう。
公正証書の種類 | 手数料 |
---|---|
事実実験公正証書 | 事実実験に要した時間と証書作成に要した時間の合計時間について、1時間までごとに1万1000円 (事実実験が休日や午後7時以降に行われた場合は、50%増) |
秘密証書遺言 | 1万1000円 |
受取書または拒絶証書 | 7000円 |
委任状公正証書 | 7000円 |
株主総会の決議に関する証書 | 事実実験公正証書と同じ |
企業担保権の設定に関する証書 | 11万円(作成) 4万5000円(変更) |
承認、許可、同意等に係る証書 | 11000円(ただし、目的価額による手数料の額の10分の5が1万1000円を下回るときは、その額) |
公正証書を作成する場合には、本人または代理人の確認書類に加えて、作成したい公正証書の内容に応じた資料が必要です。ここでは、本人または代理人に関する必要書類について解説します。
当事者本人が個人の場合と法人の場合で必要書類が異なります。
①、②のいずれかが必要です。公正証書の種類によっては、特定の資料が要求されることもあります。
①印鑑登録証明書と実印
②本人確認書類と認印
本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカード、住民基本台帳カード(写真付き)、パスポート、身体障害者手帳、在留カード
①、②のいずれかが必要です。
①代表者の資格証明書と代表者印およびその印鑑証明書
②法人の登記簿謄本(登記事項証明書)と代表者印およびその印鑑証明書
代理人が作成する場合も当事者が個人の場合と法人の場合で必要書類が異なります。
次の①、②、③の書類が必要です。
①本人から代理人への委任状
②本人の印鑑登録証明書(委任状の押印が本人のものであることを証明するもの)
③代理人の確認資料(当事者である個人が作成する時の本人確認書類と同様のもの)
次の①、②、③の書類が必要です。
①法人の代表者から代理人への委任状
②代表者の確認資料(当事者である法人が作成する時の代表者確認書類と同様のもの)
③代理人の確認資料(個人が作成する時の本人確認書類と同様のもの)
この記事で解説したように、公正証書の作成には厳格な手続きが必要であり、手間や費用がかかります。
一方で、公正証書として作成された文書の内容は信頼がおけるものとして、様々な法律上の効果を得ることができます。将来のトラブル抑止、トラブル時の早期解決のために、公正証書の利用も有用な選択肢となり得ます。
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