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「私が亡くなったら遺産をあげるから」
故人から生前にこういった口約束があった場合、遺産は相続できるのでしょうか。中には大変高額な遺産もあるでしょうから、口頭で約束された人は法的な効果などを知りたいですよね。
そこで今回は、口約束での遺産相続の有効性、そして相続を実現させるための方法を解説していきます。「口約束での遺産相続のことを詳しく知りたい」ときは、ぜひ最後までご覧ください。
まずは、口約束で行った遺産相続が有効なのか、そして口約束の法的効力も解説します。
原則として、口約束での遺産相続は有効です。これは、後述するように「口約束であっても契約は成立する」ためです。
故人(被相続人)が亡くなる前に「私が亡くなったら遺産をあげる」と伝え、相手方が「わかりました」と承諾すれば、契約は成立します。しかし口約束での遺産相続では“証明”が必要です。詳しくは次項で解説します。
遺産相続の契約は成立していても、相続人は口約束があったことを証明しなくてはなりません。
これは民法において、「故人(被相続人)が遺言を残さなかった場合は、法定相続人が財産を引き継ぐ」と決まっているためです。口約束があったことを証明できなければ、法定相続人の権利に対抗できません。
すべての相続人が相続の口約束を聞いており、納得していれば良いですが、そういった状況は稀です。直接聞いていない相続人からすれば、納得できないため「口約束があったことを証明しろ」となるわけです。
そのため、口約束で遺産相続の話があったときは、生前に書面などの証拠が残る形にすることが一番です。今回は口約束を実現する手続きとして、4つの相続方法を詳しく後述していきます。
口約束で行った契約であっても、法的な効力を持ちます。これは民法で、契約の成立を次のように定めているためです。
民法第522条(契約の成立と方式)
1.契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2.契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
出典:e-Gov法令検索
「書面による契約」と「口約束による契約」は、原則として法的な効力に変わりがないのです。そのため、口約束で遺産相続の約束をしたケースも、法的には有効になります。
「口約束の法的な効力」については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
ここからは、口約束での相続を実現させる方法を解説します。まずは「遺言書」です。
遺言書とは、亡くなった後の財産について「誰にどれだけ渡したい」という特定の意思や想いを表示する書面です。
原則として、財産は遺言書がなくても法定相続によって相続されます(民法で規定)。ただし、被相続人に「法定相続人以外の他人に財産を渡したい」「遺産分割で争ってほしくない」といった考えがあるときは、遺言書が必要となります。
一般的に使われる遺言書には、次の3種類があります。
自筆証書遺言とは、遺言を残したい被相続人が全文・日付・氏名を手書きし、押印して作成する遺言書です。
作成に費用がかからず、いつでも書き直せるというメリットはありますが、一定の要件を満たさないと無効になることもあります。例えば次のようなことがあると、遺言書が無効になりますので注意が必要です。
公正証書遺言は、公正役場で証人の立会いのもと、公証人の筆記によって作成する遺言書です。
法律の専門家である公証人が作成するため、遺言書が無効となる可能性が低いというメリットがありますが、証人が2人必要で費用がかかる点がデメリットとなります。
秘密証書遺言とは、遺言書の内容を秘密にしたうえで、存在だけを公証人と証人によって証明してもらう遺言書です。
遺言の内容を誰にも知られないというメリットはあるものの、実際はほぼ利用されていません。
遺言は、民法において厳格な要件が決められており、そのルールに従わなければ無効です。
遺言の要件の一つが「遺言書を作ること」で、次のように定められています。
民法第960条(遺言の方式)
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
(中略)
第967条(普通の方式による遺言の種類)
遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索
そのため、口約束での遺産相続を“遺言の観点”から考えると、無効となります。もし「私が亡くなったら遺産をあげる」といった話があったときは、遺言書の作成を勧めると良いでしょう。
口約束での相続を実現させる方法の2つ目は「生前贈与」です。
生前贈与とは、被相続人が生きているうちに、配偶者や子どもなどに財産を贈与することです。相続時の財産が減るわけですから、相続税の軽減効果があります。
なお、生前贈与には大きく分けて次の2つがあります。
暦年課税とは、1月1日〜12月31日の1年間に受け取った合計額が110万円を超えた場合に、贈与税が課税される制度です。
年間110万円以下なら課税されず、贈与税の申告も不要です。毎年利用できるため、節税効果が高い制度と言えます。
60歳以上の親や祖父母から、18歳(2022年3月31日以前の贈与については「20歳」)以上の子や孫に財産を贈与した場合に選択できる贈与税の制度です。
2,500万円までの贈与が非課税になりますが、超える金額には一律20%の贈与税が発生します。
なお、相続時精算課税を選択しない場合は、自動的に前述の暦年課税が適用されます。
前述したとおり、契約には原則として書面は不要です(民法第552条)。そのため、口約束での生前贈与は有効となります。
ただし税務署に対しては、契約があったことを証明できなければ、生前贈与を否認されてしまいます。節税などのメリットが受けられなくなるため、贈与契約書の作成がおすすめです。
また口頭の贈与契約の特徴として、履行前であれば当事者のどちらかが一方的に契約を解除できます。
民法第550条(書面によらない贈与の解除)
書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索
贈与者が一方的に取りやめることを防ぎ、贈与を受け取る人(受贈者)の利益を守るためにも、生前贈与において書面は必須です。
3つ目の口約束での相続を実現させる方法は「死因贈与」です。
死因贈与とは、贈与する人が亡くなることによって効力を生じる贈与のことで、民法で定められています。
民法第554条(死因贈与)
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
出典:e-Gov法令検索
贈与する人(贈与者)と受け取る人(受贈者)が合意することで契約が成立します。贈与者が亡くなった時点で相続が発生して、受贈者が財産を受け取った時点で相続税が課税されます。
死因贈与も「贈与契約」のひとつで、原則として書面は不要です(民法第552条)。そのため、口約束での死因贈与は有効となります。
ただし「口約束があった」と証明できなければ、相続人とトラブルになる可能性が高いです。何の証拠もなく相続人が承諾しない場合には、せっかくの死因贈与も認められません。
また、生前契約と同様に、履行前であれば当事者のどちらかが一方的に契約を解除可能です。贈与を受け取る人(受贈者)の利益を守るためにも、やはり契約書は必須といえます。
口約束での相続を実現させる方法の4つ目は「遺産分割協議」です。
なお、ここまでご紹介した3つの方法は「被相続人が生前に行うこと」でしたが、遺産分割協議は「被相続人が亡くなったあとに行うこと」となります。
遺産分割協議とは、相続人による遺産分割についての話し合いのことです。相続人全員が参加することが絶対条件で、一人でも欠けていれば協議は無効となります。
また協議では、相続人全員の合意が必要です。のちの争いを避けるためにも、合意後には「遺産分割協議書」を作成します。
口約束で遺産相続の話があった場合も、相続人全員が納得して合意が得られると相続が確定します。ただし何の証明もできない場合は、相続人全員が納得することは難しいでしょう。
遺産分割協議を行った結果、相続人同士が対立して協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行うことができます。調停が不成立となった場合は、自動的に審判手続が開始されます。
調停や審判による遺産の分割は時間がかかるうえに、裁定次第では本来は単独所有が望ましい財産が共有になってしまうこともあります。
争いを避けるためにも、被相続人から口約束があった際には、遺言書を書いてもらうなど証拠が残る手段を取ってもらいましょう。
今回は、口約束での遺産相続の有効性、そして相続を実現させるための方法を解説しました。
口約束での遺産相続は有効ですが証明が必要なため、結果として相続が困難になることがわかりましたね。これでは亡くなった被相続人の意思を受け継ぐことができません。
被相続人の意思や想いを大切にするためにも、口約束があったときには、できれば遺言書や契約書など書面の作成を勧めましょう。
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