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「控え書面」とは?|特商法改正でも電子化が認められない書面に注意しよう

 

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現在、日本では行政手続きをはじめ、ビジネスの世界でも電子化が急速に進展しています。
その流れの中で特定商取引に関する法律(以下「特商法」と表記)も改正され、それまで紙の書面の交付が必要とされていた各種書類をPDFファイルなどによって電子交付することが認められるようになりました。
しかし、その中でも「控え書面」に関しては、原則として紙媒体での交付が必要で、例外的に電子交付が認められています。
今回は、この「控え書面」について解説します。

目次

特商法改正によって電子交付が認められるようになった書類とは?

2021年、特商法が改正、順次施行され、2023年6月現在では主として以下のような4つの点で旧法から大きな変更がなされています。

① 事業者の交付すべき書面が電子化に対応
② クーリングオフの通知が電子化に対応
③ 通信販売に関する各種規制の強化
④ 「送り付け商法」に関する規制の強化

このうち①②に関しては、従来では紙の書面によることが義務付けられていた一部の書面に関して、一定の条件の下に、電磁的方法*による提供(ウェブサイトからのダウンロード、電子メール、PDFファイルなど)が認められるようになりました。例えば、申込書や契約書、概要書面やクーリングオフの通知などが該当します。

これによって、企業など事業者にとってはデジタル化、及び事業の効率化を期待できるようになりました。

*詳細な定義は多少異なりますが、法律の世界では「デジタル」「電子化」を「電磁的方法」、「電子データ」「電子ファイル」を「電磁的記録」と表現します。ウェブサイトからのダウンロード、電子メール、SMS、PDFファイルなどさまざまな方法があります。

なお、2021年に行われた特商法改正の詳細に関しては、以下の記事を参照してください。

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事業者の交付すべき書面が電子交付可能となった

2023年6月1日から、事業者が交付すべきとされている契約書面などが一定の条件のもとに電子化できるようになりました(特商法4条2項、同24条1項ほか)。

具体的には、特商法が規制の対象とする「訪問販売」「電話勧誘販売」など6つの類型の取引において法律上交付が義務付けられている申込書や契約書、概要書面などを電磁的方法によって提供することが認められることになったのです。
しかし、そのためには電磁的方法によって書面を交付することについて一定の厳格な手続きを経たうえで消費者の同意があることが必要です。

つまり、本来であれば紙の書類によって交付すべき契約書などの書面を電磁的方法で提供するためには、消費者の真意に基づく同意が不可欠ということになります。
消費者の同意なく電磁的方法で交付(電子交付)した場合には、罰則を受ける可能性があるのでご注意ください。

なお、事業者の交付すべき書面の電子化についての詳細に関しては、以下の記事を参照してください。

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「控え書面」とは?|電子化を承諾した記録についての考え方

特商法の改正によって、従来は紙の書面によって消費者に交付することが義務付けられていた取引に関する書面や契約書が電磁的方法(PDFファイルなど)によって提供することが認められるようになりました。

この改正によって、事業者が交付すべき書面の大半が電子化可能となりました。
しかし、ごくわずかではありますが、電子交付が認められておらず、従来通り紙の書面による交付が必要とされる書面があります。それが「控え書面」です。

特商法は、本来紙媒体で交付すべき書面を電子データ等で交付する場合は、消費者から承諾を得ることを定めています。
今回の特商法改正後も、消費者が電子化に承諾したことを証する控え書面は、紙媒体での交付が必要とされています(特商法規則10条7項)。

砕けた表現になりますが、特商法としては「『電子化OK』の承諾を記録する書類がデジタルというのはいかがなものか?」という問いかけをしていると言えます。他方、昨今はオンライン上ですべてが完結する取引も多くあります。そのような取引について、控え書面の電子交付を認めず、わざわざ書面で交付させるというのもナンセンスです。

そこで、特商法は、控え書面の電子交付が可能な場合と不可である場合の整理をしました。

控え書面に関しても電子交付が可能となるケース

申込書や契約書、概要書面などの電子交付に関して消費者が承諾した旨を証する控え書面は、原則として電子化が認められず、紙媒体によって交付することが必要です。
しかし、以下の取引に関する概要書面・契約書などについて電磁的提供の承諾を得た場合においては、控え書面であっても紙媒体による交付ではなく、例外的に電磁的方法によっての提供が認められています。

整理すると以下の通りです。

電磁的提供OKの控え書面
連鎖販売等に関する取引
(特商法規則83条7項但書)
個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせるという形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品(権利)・サービスの取引のこと。「マルチ商法」とも呼ばれる。
取引全体がオンラインで完結する特定継続的役務等に関する取引
(同99条8項)
長期・継続的なサービスの提供とこれに対する高額の対価を約する取引のこと。
エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾
パソコン教室、結婚相手紹介サービスの7つが対象。
業務提供誘引販売取引に関する取引
(同124条7項但書)
いわゆる「内職商法」「サイドビジネス商法」といわれる販売形態のことで、副業や在宅での仕事をあっせんする代わりに、仕事上必要という名目で商品を購入させたりサービスに加入させたりするための取引
電磁的提供NGの控え書面
訪問販売
電話勧誘販売
訪問購入

控え書面の交付がデジタル不可の取引は、「訪問」「電話」といった承諾の過程の記録が消費者に残りにくく、後から「言った言わない」が起こりやすい取引であるといえるでしょう。

また、消費者白書で挙げられている訪問販売や訪問購入をよく利用する世代のうち、オンライン取引やデジタル端末に詳しい人はどの程度いるのか…という実情に配慮したものであると考えられます。

繰り返しになりますが、今回の特商法改正は「『電子化OK』の承諾を記録する書類がデジタルというのはいかがなものか?」という問いかけを消費者の実情に合わせて整理したと言えるでしょう。

【参考】令和4年版消費者白書(消費者庁)「第1部 第1章 第3節(1)2021年の消費生活相談の概況

控え書面の交付時期について

電磁的方法による提供について承諾を得た場合、事業者は契約書などを消費者に実際に提供するまでの間に紙媒体による控え書面を交付することが必要とされています(同条同項)。なお、当該承諾を書面によって得ている場合には、その写しを交付することで足りると考えられます。

控え書面を交付すべき場合(申込書や契約書などの電磁的提供に消費者が承諾した場合)、その交付時期に関しては注意が必要です。

特商法規則10条7項は、控え書面を交付すべき時期について、消費者に対して「電磁的方法による提供を行うまでに」交付しなければならないと定めています。

つまり、まだ控え書面を交付していないにもかかわらず、消費者に対して契約書などを電磁的方法で提供してしまった場合には、上記規定に反することになってしまうのです。

特商法は、非常に複雑で理解しにくい法律です。もし実務上、少しでも不明な部分があるのであれば、法律の専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

特商法の改正によって、これまでは書面での交付が必要だった申込書や契約書、概要書面など各種書類が一定の条件の下に電磁的方法による提供で足りるようになりました。これは事業者だけでなく、消費者にとってもメリットとなるものです。

しかし、電磁的方法による提供を消費者が承諾したことを証する書面、つまり「控え書面」だけは原則として電子交付が認められていません。「控え書面」だけは、原則として紙の書類を作成し消費者に交付する必要があるのです。

特商法の規定は複雑で理解しづらいものであるため、電子化を推し進めた結果、悪気はなくても法律違反を犯すリスクがあります。

そのような場合には、行政処分を受けるなど重大な事態を招く恐れがありますので、慎重に手続きを進めることが大切です。

 

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この記事を書いた人

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