ビジネスの世界において相手方と取引を行う場合、例えば貸金や売掛金などの債権が回収できなくなるリスクは常に存在します。相手会社が倒産してしまえば、債権の回収が不可能となり大きな損失を被る可能性は否定できません。
そのようなリスクに備えるために利用されるのが「担保」です。
担保は、貸金などが将来返済されないリスクに備えて、債務者などから一定以上の経済的価値を持つ物を差し出させたり、保証人を立てさせたりするものです。
今回は、「担保」の概要と、その代表格ともいえる「抵当権」「根抵当権」について解説いたします。
目次
担保とは
「借金のカタ(形)」という言葉があります。「借金返済の代わりになるもの」という意味です。
担保(たんぽ)とは、債務(借金など)の返済が滞った場合に備えて、あらかじめ債務者(借りる側)が債権者(貸す側)に対して差し入れる経済的価値を有する物のことをいいます。また、将来発生するかもしれない不測の損失が実際に起こってしまったときには損失を補うことを約束(保証)する場合もあります。
担保物権とは
差し入れられていた「担保」から優先的に債権の回収をすることが認められる権利を担保物権または担保権と言います。
担保物権を持つ者(担保権者)は、債務の支払いが行われない場合には、担保権の目的物(土地など)を競売にかけるなど強制的に金銭に換えて、その金銭の中から優先的に自分の債権(被担保債権)の回収を図ることができるのです。
この担保物権は、後述しますが、大きく分けて「人的担保」と「物的担保」の2つに分類されます。
担保権が利用される具体例
たとえば、住宅を購入しようとしているAさんに対してX銀行が住宅ローンを貸し出すケースで考えてみましょう。
<事例>
Aさんは3000万円のお金を住宅ローンとしてX銀行から借り入れ、それを元手として自宅不動産を購入しました。住宅購入資金として大金を借りたAさんは、今後数十年という長期にわたってローンの返済をしていくことになります。
このような事例において、最初の契約通りに最後まで滞ることなくローンの返済が終了すれば問題はありませんが、数十年という長い年月の間には何が起こるかわかりません。勤めている会社が倒産して、Aさんが返済できなくなる可能性もゼロではありません。Aさんが病気になって働けなくなる可能性もあります。
そのような場合には、住宅ローンの返済が正常に行われなくなってしまうため、X銀行は大きな損失を被ることになるでしょう。そのようなリスクに備えて設定されるのが抵当権です。
住宅ローンを貸し出す際にX銀行は、Aさんが購入した自宅不動産の上に担保権として抵当権の設定をするわけです。この事例の場合は、抵当権者をX銀行として住宅ローンの額(債権額)3000万円の抵当権をAさんの自宅不動産上に設定し、その旨の登記を行います。こうしておくことで、貸主(債権者)であるX銀行は将来のリスクに備えることができるのです。
その後、住宅ローンの残額が1000万円になったところでAさんが返済できなくなったとしましょう。その場合、X銀行はAさんの自宅不動産上に設定されている抵当権に基づき不動産の差し押さえ・競売を行います。そして、競売によって得られた金銭のなかからX銀行は1000万円を優先的に回収することで住宅ローン(債権)の全額回収が図れるのです。
抵当権などの担保権を持っていれば、このように借金(債権)回収の確実性が向上するというメリットがあります。
「被担保債権」とは|担保によって返済が保証される債権
担保を理解する際に、知っておいていただきたい言葉が「被担保債権」です。「被」は「うける」「される」の意味です。担保権によって担保される権利(債権)のことを言います。
<事例>
Bさんが100万円をCさんに貸すケースで考えてみましょう。
Bさんは100万円の貸金の返済を確保するためにCさんが所有する不動産の上に抵当権の設定を受けました。この場合におけるAさんが持つ100万円の貸金債権を被担保債権と言います。
担保には大きく分けて2種類ある|「人的担保」と「物的担保」
一般的には、ひとくちに「担保」と言いますが、実際には法律上2つの種類があります。
それが「人的担保」と「物的担保」です。
(1)人的担保とは|「(通常)保証」「連帯保証」「根保証」
人的担保とは、主債務者(実際にお金を借りた人など)によって債務の返済が行われない場合に、その債務の保証をした人(保証人)が代わりに返済することとなる担保です。保証人という「人」による担保を人的担保といいます。
人的担保では、保証人となった人の総財産が担保の目的となります。つまり人的担保は、保証人の返済能力を信頼することで成立するものと言っていいでしょう。
たとえば、先述の例でBさんがCさんから100万円を借金する際にYさんが保証人となった場合、Cさんが借金の返済をしない場合にはYさんが代わって債務の返済をする義務を負うことになります。
人的担保には、「(通常)保証」・「連帯保証」・「根保証」などが存在します。
(2)物的担保とは
物的担保とは、債務者によって債務の返済が行われない場合に備えて、債務者などから債権者に対して提供される物(経済的価値を持つ物や権利など)のことを言います。
物的担保の提供を受けておけば、債務者によって被担保債権の返済が行われない場合には、担保として提供された物を強制的に換価(金銭に換えること)し、債権者はその金銭から優先的に残債務の支払いを受けることができるようになるというメリットがあります。
たとえば、3000万円の借金をする際に、その返済ができなくなった場合に備えて担保として不動産を差し入れるようなケースが物的担保に該当します。上記事例では、Aさんの住宅ローンの返済が滞った場合に備えて、X銀行は不動産の上に債権額3000万円の抵当権を設定しています。
担保物権の種類
担保物権には、民法の規定によって以下のようなものがあります。
(1)法定担保物権
法律が定める一定の要件が満たされた場合、法律上当然に発生することになる担保物権のことを「法定担保物権」といいます。法定担保物権には、以下のようなものが存在します。
・留置権
・先取特権
(2)約定担保物権
特定の債権を担保することを目的として、債権者と債務者などの間の契約によって設定されるのが「約定担保物権」です。民法においては、約定担保物権として以下のようなものが定められています。
・抵当権
・根抵当権
・質権
約定担保物権には上記以外にも「譲渡担保」「仮登記担保」「所有権留保」などが存在します。
このように物的担保権には、法律上いくつかの種類が定められているのです。この中でも「抵当権」と「根抵当権」は実務上非常によく見かけるものなので、本記事ではこの2つについて少し詳細に解説いたします。
抵当権とは
約定担保権の代表格が、この抵当権と言えるでしょう。
抵当権は、被担保債権の債権者と債務者との契約によって設定され、被担保債権の返済が滞った場合には抵当権の目的である不動産等を強制的に差し押さえ、競売によって売却・換価することが認められています。
そして、抵当権者(被担保債権の債権者)は、その売却代金からほかの債権者に優先して被担保債権の残債務額を回収することができるのです。
抵当権は、住宅ローンや不動産担保ローンなどの際に利用されることが多い担保物権です。抵当権は、目的不動産の上に設定した後も所有者はその不動産を利用し続けることができるため、非常に有用性の高い担保物権とされています。
なお、抵当権は被担保債権が全額返済されるなどの原因によって消滅した場合には、抵当権も消滅する性質を持っています。
根抵当権とは
抵当権に似た担保物権として根抵当権があります。
これは、当事者が定めた限度額(「極度額」)を上限として、当事者間で継続的に行われる取引の中で一定の範囲に属する債務を包括的に担保するために不動産等の上に設定される約定担保物権です。
根抵当権は、継続的な取引関係にある企業間などで設定され、当事者が定めた「確定期日」において存在している各債権の合計額を「極度額」を上限として担保することになります。
事業資金としてまとまったお金が必要なEさんは、必要が生じるたびにX銀行から100万円・200万円などと複数回に分けて借り入れを行い、適宜それぞれの借金を返済することを繰り返すとします。
このようなとき、いちいち抵当権を設定するのは面倒です。なぜなら上記「抵当権」の項で解説した通り、抵当権は被担保債権が弁済などで消滅した場合には、抵当権自体も消滅する性質を持っているからです。100万円を借りたときに抵当権を設定すると、その返済が終わった時には抵当権が消滅してしまうため、次に200万円を借りる際には再び抵当権の設定が必要になってしまいます。これでは手続きが煩雑です。
このようなケースにおいて便利なのが、根抵当権です。Aさんが所有する不動産の上にX銀行を担保権者とする根抵当権を設定しておけば、同時多発的に発生・消滅を繰り返す複数の貸金債権を包括的に担保できるからです。
上記のケースでは、「極度額」を1000万円などとして根抵当権を設定しておけば、X銀行はAさん対する1000万円までの債権が担保されることになり、リスクを回避して貸し出しを行うことが可能となります。
このように根抵当権は、債権者・債務者間で継続的に行われる一定範囲の取引によって発生・消滅を繰り返す各債権を包括的に担保するものであり、最終的には「確定期日」に存在する各債権の合計額である「極度額」を上限として担保する物権です。
まとめ
個人間はもちろん企業の間で取引する際、非常によく利用されるのが担保権の設定です。担保権の設定をしておけば、法律によって担保権者には目的物からの優先的回収が認められているため、ビジネスを押し進めつつも回収の確実性をかなり向上させることができるからです。
担保権の代表格ともいえる抵当権は、住宅ローンを借りるときに必ずと言っていいほど耳にするものといえるでしょう。また、特殊な性質を持つ根抵当権もビジネスの世界では、よく見かけるものです。