人はいつ、年を取るのでしょうか?
例えば4月1日に生まれた人の場合、世間的には4月1日になって1つ年を取る(年齢が1歳増える)と考えるのが一般的でしょう。つまり、3月31日から日付が変わり4月1日の午前0時になった瞬間に年を取るという考え方です。
しかし、法律的にみた場合には、この考え方は間違いです。4月1日に生まれた人に関する法律上の誕生日は、3月31日となるのです。
では、どうしてこのような扱いとなるのでしょうか?
今回は、法律の世界において「年を取るタイミング」について解説いたします。
目次
法律的に年齢をどのように計算するか
法律的に年齢をどのように計算するかについては、その名のとおり「年齢計算ニ関スル法律」という法律によって定められています。これは明治35年に制定された古い法律で、わずか3条(実質2条)からなるものです。
「年齢計算ニ関スル法律」
① 年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス
② 民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス
③ 明治六年第三十六号布告ハ之ヲ廃止ス
同法の第1条では「年齢は出生の日より起算する」と定められています。このため、年齢計算では誕生日を「1日目」として計算することになります。
つまり、日付が変わった瞬間である午前0時0分に生まれた子供も、午後11時59分に生まれた子供も、同じ日に生まれた以上、その出生日から「出生後1日目」として平等に年齢計算をするということになるのです。
「年齢計算ニ関スル法律」の2条は民法143条を準用しています。民法143条は、以下のように期間の計算方法について定めています。
民法第143条(暦による期間の計算)
週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2.週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
これを「人が1歳年を取る」ということに当てはめて考えてみましょう。
「1歳年を取る」というのは、言い方を変えれば「前回の誕生日から1年という期間が経過した(満了した)」と考えることができます。
そして民法143条2項では、期間が満了するタイミングを「起算日に応当する前日」と定めています。
生まれた時からの例で考えてみると
分かりやすくするために、誕生したばかりの赤ちゃんの例で考えてみます。
例えば4月1日に生まれた子供は、4月1日を含めて年齢計算されますので(「年齢計算ニ関スル法律」1条)、「1年間」という期間の満了日は暦上、起算日に応当する日の前日に満了することになります(民法143条1項・2項)。
この「起算日」とは誕生した当日である4月1日であり、4月1日を1日目とカウントするため、1年という期間が満了する、つまり365日目は、翌年4月1日の前日ということになります。
つまり、4月1日生まれの赤ちゃんが1歳になる(出生から1年という期間が満了する)のは、暦上で誕生日(出生した当日である4月1日)の1年後に応当する日(翌年の4月1日)の前日である翌年の3月31日ということになるのです。
厳密にいうと、1年という期間が満了するのは3月31日が終了して日付が変わる直前である「午後12時」とされています。このため、1歳になるタイミングは4月1日になった瞬間ではなく3月31日が終わる瞬間(午後12時)なのです。
そして、3月31日が終わる瞬間である「午後12時」は、あくまでも3月31日中の出来事であるため、結果として誕生日は3月31日という扱いになるのです(3月31日午後12時は4月1日の出来事ではない)。
細かく言えば、3月31日になった瞬間に年を取るのではなく、その日が終わる瞬間に年を取ると扱われるため、3月31日中の圧倒的大半は年を取っていない状態、といえるのかもしれません。
この考え方はもちろん、他の誕生日でも同様です。つまり、法律上の誕生日とは「本来の誕生日の1日前の日」ということになるのです。
法律上の誕生日とは「本来の誕生日の1日前の日」
└厳密にいうと、日付が変わる直前である「午後12時」
法律上の年齢計算方法によっておこる問題
このように法律上で年を取るタイミングは、実際の誕生日を迎える瞬間とほぼ時間的なズレがないため、実際の生活上では意識される機会はほぼないでしょう。また、意識する実益も通常はありません。
しかし、場合によってはこのような法律上の年齢計算方法が大きな問題となることがあります。
具体的には、子供が小学校に入学する時期や選挙権が認められる時期などに大きく影響することがあるのです。たとえば、学校における1学年は「4月2日生まれから翌年の4月1日生まれ」になっているのは、これが理由です。
法律上において年を取るタイミングは、あくまでも「実際の誕生日の前日」ということを覚えておいてください。
まとめ
世間一般の常識と法律上の扱いが異なることはたまに散見されることですが、年を取るタイミングも世間の常識と異なります。法律上では、実際の誕生日の前日に年を取る扱いとなっています。
通常の場合、そのタイミングが問題となることは少ないと思いますがトリビア的な知識として持っておくと役立つことがあるかもしれません。