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近年ではセクハラやパラハラなどの言葉をよく耳にしますが、新しくカスハラというハラスメントも記事やニュースで出てくるようになりました。カスハラはカスタマー(顧客)によるハラスメントとされていますが、どのようなものなのでしょうか?
本記事では、カスハラの概要や正当なクレームとの違い、企業が実施すべきカスハラへの対策などについて詳しく解説します。
カスハラとはカスタマーハラスメントの略称であり、顧客の理不尽な要求や著しい迷惑行為を指します。法的な定義はありませんが、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」によれば、以下のように定義されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照 らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、 当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
【引用】https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
セクハラやパラハラと同様に、就業環境や従業員の心身の健康を脅かす迷惑行為として注目されるようになりました。現代ではSNSの普及によって、顧客が企業の対応を評価できるようになったことからカスハラが広まったと言われています。
カスハラは近年増加傾向にあり、もはや社会問題化していると言っていいでしょう。
実際に厚生労働省が実施した「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、「過去3年間にカスタマーハラスメントの相談があった」と回答した企業は19.5%であり、増加傾向にある点を踏まえれば、いつ自身の身に降りかかっても不思議ではありません。
カスハラとクレームは混同されがちですが、実際には大きく異なります。
例えばスーパーで買った商品の賞味期限が切れていた場合、返品や交換を穏便に要求することはカスハラではなく正当なクレームと判断されます。
カスハラと正当なクレームの具体的な違いは、主に以下の2点です。
・要求内容が社会通念上妥当であるか
・暴力や暴言などの威圧的な行動があるか
それぞれ詳しく解説します。
先述の例で交通費などがかかったなどの理由から価格以上の返金を要求したり、店長や店員に土下座を強要したりした場合には、過度の要求をしているとみなされるでしょう。このように社会的に逸脱している内容を要求している場合には、カスハラとなります。
購入した商品や提供されたサービスに不備があった場合には感情的になってしまうケースもありますが、従業員に対する暴力や侮蔑的な暴言などの行動が見られた場合にはカスハラとなります。
カスハラは以下のような刑事罰に問われる可能性があります。
・脅迫罪
・恐喝罪
・暴行罪または傷害罪
・威力業務妨害罪
それぞれ詳しく解説します。
脅迫罪(刑法222条)とは、人の身体や財産などに対して危害や損害を与えることを告知する犯罪であり、法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。例えば従業員に暴力を振るおうとしたり、「今回の件をSNSでさらしてやる」と脅したりする行為が該当します。
なお、企業に伝えずにSNSや口コミサイトなどでマイナスの口コミや評価を掲載した場合でも、名誉毀損罪や侮辱罪に該当する可能性もあります。特に内容が事実でなかった場合には、偽計業務妨害罪にも問われるケースも考えられます。
恐喝罪(刑法249条)とは、脅迫罪に加えて現金など財産を要求する犯罪です。脅迫罪より罪が重く、法定刑は10年以下の懲役が科されます。また脅迫罪と違って罰金刑が存在せず懲役刑のみですので、非常に重い処分と言えます。
暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)は、身体的な危害を与える犯罪です。暴行罪の法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金、あるいは拘留や科料が科されます。一方傷害罪では、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。
それぞれの犯罪の違いは、身体に危害を加えて傷害が与えられたかどうかという点にあります。そのため、従業員に暴力を振るおうとした時点では暴行罪になる余地がありますが、結果的に怪我をさせた場合には傷害罪に該当します。
威力業務妨害罪(刑法233、234条)とは、人の自由意思を抑え込ませてしまうほどの「威力」によって業務を妨害する犯罪です。法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。例えば、大声で従業員に怒鳴りつけて仕事に支障を出す行為が該当します。
カスハラは現代では大きな社会問題となっていますので、どのような企業でも対策を講じておく必要があります。そこでカスハラへの具体的な対策について解説します。
まずはカスハラ発生時のマニュアルを作成することが重要です。特に新人はカスハラに慣れていないため、できるだけ具体的な対応を記載しておくといいでしょう。
また業界や職種によって想定されるカスハラは異なりますので、自社に合ったマニュアルを作ることが重要です。さらに実際に発生したカスハラ事例や新しいカスハラのケースなどを踏まえて、随時更新することも忘れずに行いましょう。
カスハラは件数が増加している傾向にありますので、専用の窓口を作る方法もおすすめです。トラブル発生時に相談できるところがあれば、カスハラの迅速な解決につながるだけでなく、従業員の安心にも役立つでしょう。
従業員はカスハラに対して毅然とした対応を行うことを周知しておく方法も有効です。従業員は顧客に対してへりくだってしまう傾向がありますが、カスハラに対しては適切な行為を容認していることを企業全体で共有しておけば、対応しやすくなるでしょう。
また日本では「お客様は神様」と言われるように顧客至上主義となっていますが、カスハラへの対策から方針を改める必要があるでしょう。そこで顧客に対して自社がカスハラ対策を行っていることを周知するために、ポスターの掲示やSNSへの掲載などを行うといいでしょう。
マニュアルなどの対策を準備していても、実際にカスハラに遭遇した場合にはうまく対応できないケースも考えられます。そこでカスハラに対応するための一般的な手順について解説します。
カスハラに遭遇した場合には、他の従業員と情報を共有することが重要です。上司や担当者とどのような場面だったかできるだけ詳しく報告して、全体で対処することを心がけてください。
顧客の主張内容を記録しておくこともポイントです。カスハラは後で発言内容を翻すケースが多いので、レコーダーなどで正確に記録しておくことをおすすめします。特に民事事件や刑事事件などに発展する場合には重要な証拠となりますので、気をつけておきましょう。
カスハラの内容が悪質である場合には、企業全体でどのように対応するか方針を決めましょう。対応した従業員や法務部門・顧問弁護士なども交えて具体的な対応を決定した後は、顧客にその内容を伝えましょう。
この場合顧客が主張を覆すケースや訴えを取り下げるケースなどが考えられますが、再発防止のために毅然とした対応が必要です。
カスハラは一般的なイメージ以上に悪質である場合も多く、対応した従業員は心身ともに深く傷ついていることもあります。特に精神的なダメージを負っているケースが多いので、臨床心理士などの専門家と連携してケアを行いましょう。
日本では顧客を大事にする文化が根付いていますが、カスハラに対しては毅然とした態度で対応することが重要です。従業員や企業を守るだけでなく、社会全体における顧客の権利意識の助長を防ぐことにもつながりますので、マニュアルの作成など万全な対策を実施しておきましょう。
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