物流の2024年問題というキーワードをメディアなどで見かけたことはありませんか? 物流業界に特に大きな影響を与える恐れのあることから、このように呼ばれています。
2024年問題は、働き方改革関連法の施行がきっかけとなり発生しました。2024年問題によって、物流業界がどのような影響を受けるのか、何をすべきかについてきちんと理解する必要があります。
目次
働き方改革関連法について解説
2024年問題が取りざたされるようになったのは、働き方改革関連法の成立が関係しています。2018年に公布・2019年施行された法律で、多様な働き方が可能な社会の実現を目的としています。働き方改革関連法の中には、いくつか確認すべきポイントが存在します。
時間外労働の上限設定
物流業界の2024年問題は、時間外労働の上限規制の適用により発生しました。すでにほかの業種では、規模の大小を問わず、上限規制が適用されています。ただし、物流業界を含め自動車運転業務はこれまで適用が猶予されてきました。しかし、2024年3月でその猶予も終わり、上限規制が適用されます。そのため、2024年問題と呼ばれています。
特別条項付き36協定を締結した場合、年間の時間外労働の上限は960時間になります。もし、この規定に違反した場合、6カ月以下の懲役、あるいは30万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。運送業を営んでいる経営者や、配車係は細心の注意をもって、スケジュールを調整しなければなりません。
時間外労働に対する割増率の引き上げ
時間外労働を行った場合には、割増賃金を支払わなければなりません。これは従来からあった規則ですが、この割増率が引き上げられました。労働基準法では、時間外労働には25%の割増賃金を支払うのが原則です。しかし、2023年4月1日より、中小企業に対しても、月60時間を超える時間外労働には、50%以上の割増率による割増賃金に支払いが必要となっています。物流業者には中小企業も多いので、大きな影響を受ける恐れが出てきています。
さらに22〜5時の深夜時間帯に時間外労働した場合、深夜労働に伴う25%以上の割増賃金も支払わなければなりません。深夜時間帯に業務に当たるドライバーも多いため、月60時間超の深夜における時間外労働は75%以上の割増賃金を支払わないといけなくなります。これは物流業者にとっては、かなり大きな負担となるでしょう。
ただし法定休日の労働時間は、月60時間の時間外労働にはカウントされません。法定休日とは、労働者に対して付与される1週間に1日もしくは4週間で4回の休日のことです。ただし、法定休日に労働させた場合には、35%以上の割増賃金を支払わないといけません。
勤務間インターバル制度
働き方改革関連法では、勤務間インターバル制度が設けられました。これも物流業界に大きな影響を与えるのではないかと懸念されています。勤務間インターバル制度では、前日の終業時刻と翌日の始業時刻との間に一定時間以上のインターバルを設けなければならないルールです。ドライバーの場合であれば、これまでインターバルは8時間以上とされていました。しかし、2024年4月1日から継続11時間以上が基本となり、9時間を下回らないインターバルを設けることが必要となります。
ドライバーが慢性的な睡眠不足の状況に陥ると、重大な事故に発展しかねません。安全な運行のためには、ドライバーの健康管理は何よりも重視しなければなりません。そのため、これからは、より厳格な運行計画の管理が求められます。
物流業界で2024年問題が生じた理由
働き方改革関連法の施行によって、物流業界では2024年問題といわれる問題が発生しています。具体的に、どのような理由から問題が発生したのでしょうか。
ドライバー不足の恐れ
ドライバーに対する時間外労働の上限規制適用によって、ドライバー不足に陥る懸念が指摘されています。時間外労働に上限が設けられると、それまでのように残業手当で収入を向上させることができなくなります。また、元々ドライバーは賃金的にあまり恵まれていないことも問題に拍車を掛けています。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、全産業の平均と比較して大型トラックドライバーは約5%低いとされています。さらに中小型ドライバーでは、平均より約12%も低くなっています。上限規制の適用は、この水準をさらに下げる恐れがあるため、ドライバーの離職を招く恐れもあるでしょう。
人手不足の状態を避けるために、給与体系や労働環境の見直しを進めないといけません。また女性や高齢者など、これまであまり縁のなかった人材を開拓するのも有効な対策の一つです。人材を確保するには、魅力ある職場環境の整備を進める必要があるでしょう。
輸配送の効率化
時間外労働に上限が設けられたことで、ドライバー個々の労働時間が減少します。その中で従来通りの運送料を確保するためには、輸配送の効率化を進める必要があります。中でも優先的に取り組むべき課題の一つに待機時間があります。ドライバーの長時間労働が問題視されていますが、要因の一つとして積み荷の待機時間が挙げられます。効率化を進めるためには、待機時間をいかに削減するかが重要です。
そのほかにも、空車率を下げる取り組みを検討しなければなりません。たとえば、GPSを導入するのも選択肢の一つです。GPSにより、それぞれのドライバーの現在地を把握して、積み地を決めれば、効率的な運用も期待できます。
輸配送の効率化を進めるためには、荷主の理解も欠かせません。たとえば、一定以上の待機時間に対して発生する別料金や、時間指定の見直しなどを持ち掛けてみると良いでしょう。さらに燃料費の上昇も問題になっているため、燃料サーチャージの導入なども荷主企業に提案してみると良いかもしれません。
勤怠管理の強化
上限規制を順守するためには、勤怠管理をこれまで以上に強化する必要が出てくるでしょう。物流業者には、出勤簿や日報など自己申告でアナログな勤怠管理手法を採用している企業も、いまだに多くなっています。また、デジタコを導入していても不十分です。停車しているときでも、ドライバーが何らかの作業を行っている可能性があるからです。
長距離輸送ドライバーの場合、日をまたいだ業務になることも少なくありません。この場合、従来の手法では勤怠状況を正確に把握するのは難しいでしょう。しかし、放置したままではトラブルに発展しかねません。就業規則の整備など、勤怠管理の明確化に取り組んでコンプライアンスを重視した経営を心掛けましょう。
輸配送の切り替え
長時間労働の問題を解決するには、輸配送形態の見直しも重要です。もし、長距離輸送の全工程を1人のドライバーに担当させると、どうしても長時間労働につながりかねません。たとえば長距離輸送の場合、複数人が担当するリレー形式で運送すれば、1人当たりのドライバーの労働時間を短縮できます。また、幹線輸送と集荷や配達を別のドライバーに担当させることで、労働時間を短縮できます。
長距離輸送対策として、モーダルシフトも有効な施策の一つとみられています。モーダルシフトとは、これまでの車両による輸送だけでなく、一部区間で鉄道や船舶を利用する手法です。リードタイムは長くなるかもしれませんが、全体的にみれば、コスト削減効果も期待できます。コスト削減すにより、運賃の上昇も抑制でき、荷主企業の理解もえられやすいでしょう。また、二酸化炭素の削減効果も期待できるため、、SDGsにも貢献でき、社会的責務に対応している企業であるとPR可能です。
デジタル化と2024年問題
物流業界の2024年問題への対応に欠かせない要素として、デジタル化が挙げられます。時間外労働の上限規制が適用されても、今までと同様の業務をこなすためにはデジタル化を推進し、作業効率の向上に努めないといけないためです。実際に物流DXとして、デジタル技術の活用もどんどん進んでいます。
輸配送管理システムの導入
輸配送管理システムを導入することで、効率的な輸配送や配送計画策定を進められます。配送計画立案可能なシステムは、必要な情報を入力すれば自動的に計算してくれます。そのため、常に最適な配送や配車計画を迅速に策定できるようになります。
輸配送管理システムの中には、配車や配送計画だけでなく、積付計画や運賃計算などが行えるようなものも見られます。一つで何役もこなせるようなシステムを導入すれば、限られた人数でも作業効率は向上できます。さらに自動管理可能なシステムを導入すれば、担当者が不在時でも自動的にマネジメント可能です。システムを常時運用する人材が必要なくなるため、コスト削減も可能です。コスト削減しながらであっても、品質は維持できるため、積極的にデジタル技術の導入を進めましょう。
勤怠管理システムの導入
勤怠管理システム、とくに物流業界に適したシステムを導入することも有効な2024年問題対策になりえます。従来の勤怠管理システムでは、ドライバーの複雑な勤務体制に対応できないかもしれません。複雑なシフトにも対応できるか、多様な働き方でも利用できるか、システム導入の際にはチェックしましょう。また、これまでに多くの運送会社や物流会社に導入実績のある勤怠管理システムであれば、物流業界にも適した仕様になっている可能性が高いです。
勤怠管理システムを導入することで、ドライバーそれぞれの正確な労働時間を把握できます。また、集計も自動で行ってくれるため、負担軽減につながり、不正防止も可能になります。過重労働に対して、アラーム機能が作動するシステムもあるため、上限規制への対応も容易になるでしょう。勤怠管理システムには、給与計算システムと連携できるような製品も見られます。両者を紐づけられれば、より一層管理業務の効率化が期待できます。
トラック予約システムの導入
トラック予約システムを導入することも、2024年問題対策になりえます。システムの導入により、トラックドライバーの待機時間を削減できるからです。物流センターでトラック予約システムを導入すれば、バース誘導の効率化や無人での入退館受付が可能です。このことにより、作業効率化だけでなく、人件費削減による経営のスリム化にもつながります。
近年では、モバイル端末からバース予約の手続きできるシステムも見受けられます。ドライバーがスマホから事前にバース予約手配ができるようになれば、物流センターでの無駄な待機時間を回避できるわけです。
受け渡しデータの標準化
物流業界では、伝票や送り状など受け渡しデータのやり取りが欠かせません。もし、受け渡しデータがそれぞれ異なっていれば、どうしても余計な作業が発生します。そこで2024年問題対策として、受け渡しデータを統一して標準化を進めることで、作業効率の飛躍的な向上につながる可能性があります。
また、受け渡しデータが紙であれば、デジタル化するのも2024年問題を克服するための有効な対策になりえます。そこでおすすめなのが、AI-OCRの導入です。手書きの文書やファックスに書かれている情報をデジタル化するOCRですが、読み取り精度などの問題を抱えていました。しかし、最新鋭のAI-OCRであれば、読み取り精度がかなり高度化しています。そのため、受け渡しデータのデジタル化にもしっかり対応できます。
国土交通省では、業種横断の物流標準化の推奨を検討しているといわれています。標準化が今後進んでいくのであれば、受け渡しデータを統一して、生産性の向上を進めておくべきです。
まとめ
2024年からこれまで猶予されていた自動車運転業務にも、時間外労働の上限規制が適用されるようになります。それに伴い、当記事で紹介したような物流業界において解決すべき課題が出てくるでしょう。その中でも、最大の課題は時間外労働の上限規制への対応です。上限が設けられることで、売り上げが減少する恐れもあり、対策は急務といえるでしょう。
また、作業効率化のために、デジタル化はじめとしたテクノロジーを積極的に導入することで問題を克服していくことが今後求められます。物流業の業務効率化にデジタル技術の導入は欠かせないため、ベンダーなど専門家に早めに相談することが大事です。