日本では約束手形や売上債権によって、取引が行われてきました。しかし、これらの方法では現金化するまでの期間が長く、事務処理の手間もかかってしまいます。そこで注目されているのが、電子記録債権という新しい取引方法です。
本記事では電子記録債権のメリットやデメリット、会計処理の方法などについて詳しく解説しますので、ぜひご覧ください。
目次
電子記録債権とは
電子記録債権とは、磁気ディスクなどで作成される記録原簿への電子記録による金銭債権を指します。記録原簿は電子債権記録機関で保管され、当該機関に電子記録を残すことで債権の発生や譲渡を確認できます。
電子記録債権は、従来よりもスムーズに資金調達できるように作られた取引方法です。企業では取引先との決済手段として、約束手形を用いるケースが多いですが、現金化するまでに時間がかかるなどのデメリットがあります。そこで誕生したのが、電子記録債権なのです。
電子記録債権の仕組み
電子記録債権を利用した取引は、以下の3つのプロセスから構成されています。
・電子記録債権の発生
・電子記録債権の譲渡
・電子記録債権の支払い
それぞれのプロセスについて詳しく解説します。
電子記録債権の発生
電子記録債権が発生したときには、電子債券記録機関に記録されます。電子記録債権は当該機関に直接記録されるわけではなく、取扱金融機関の窓口を介して記録されます。
電子記録債権の譲渡
電子記録債権の譲渡は、電子債権記録機関で譲渡登録を行います。こちらの手続きを行うことで、電子記録債権を他社に譲渡できるようになります。従来の約束手形では原則分割はできませんが、電子記録債権では分割して譲渡もできるメリットがあります。
電子記録債権の支払い
電子記録債権の支払いでは、支払い期日が訪れると引き落としによって自動的に支払いが行われます。取引先の銀行口座に払い込まれる仕組みであり、支払い手続きは電子債権記録機関が実行します。また支払いが行われると、支払等記録という形で情報が登録されます。
電子記録債権が注目されている背景
電子記録債権がにわかに注目を集めているのですが、それにはいろいろな背景が関係しています。なぜ電子記録債権が登場し、普及が進んでいるのかも理解しておくといいでしょう。
きっかけは「e-japan戦略II」
電子記録債権が検討されるようになったきっかけは、2003年7月に政府が実行した「e-japan戦略II」と言われています。この戦略はIT戦略本部が決定した方針であり、ITの活用を推進して、第一期で整備されたIT基盤を利用して社会や経済のシステムを変革しようとする内容となっています。
その一環として金銭債権を電子化する動きが活発になり、2008年12月には電子記録債権法が施行されました。
従来の手法のリスク
従来の債権の扱い方は、約束手形や売掛債権が主流でした。しかし、これらの方法には様々なデメリットがあり、ビジネスを円滑に進めるにはネックだったのです。
例えば、約束手形の場合には、作成や交付、保管などのプロセスでコストがかかってしまうデメリットがあります。また紛失や盗難によって、現金化できなくなるリスクもありました。
一方、売掛債権では、債権を譲渡する際には債務者に事前通知して承諾する必要があり、債権者が知らないうちに二重に譲渡されてしまうリスクも存在します。また債務者の支払いが遅れて、督促に手間がかかるケースも見られます。
電子記録債権のメリット
電子記録債権には、債務者と債権者それぞれにとって以下のようなメリットがあります。
債務者
・事務作業の簡略化
・管理の簡素化
債権者
・紛失や盗難のリスクがない
・資金繰りの負担を軽減できる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
債務者:事務作業の簡略化
電子記録債権を利用すれば、事務作業を大幅に簡略化できます。手形の記入や発行手続きの手間がかからず、銀行振込の手続きも省略できるのでスピーディーに支払いを行えます。
債務者:管理の簡素化
それぞれの債権の支払いを電子上で管理できるので、簡単に状況を確認できます。また電子債権記録機関に履歴が残るので、非常に管理しやすいです。
債権者:紛失や盗難のリスクがない
電子記録債権はweb上で債権を保管しますので、約束手形のように紛失や盗難のリスクがありません。
債権者:資金繰りの負担を軽減できる
電子記録債権は分割できるので、必要な場合に分割を行えば資金繰りの負担を軽減できます。
電子記録債権のデメリット
電子記録債権には、以下のデメリットがあります。
・電子債権記録機関に加入しておく必要がある
・会計処理のフローを見直さないといけない
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
電子債権記録機関に加入しておく必要がある
電子記録債権を利用するためには、電子債権記録機関に加入しておく必要があります。債務者と債権者の双方がサービスに加入していなければ利用できないので、電子記録債権を使う場合には相手がサービスを利用しているか確認しておきましょう。
会計処理のフローを見直さないといけない
約束手形で取引を行っていた場合には、電子記録債権に変更する際に会計処理のフローを見直さないといけない点もデメリットと言えます。企業では一般的に会計処理で経理ソフトを使っていますが、現在使用しているソフトが電子記録債権に対応していない場合には、対応しているソフトに交換しなければなりません。
電子記録債権の取引における会計処理の方法
約束手形や売掛債権の取引では帳簿にその情報を登録する必要がありますが、電子記録債権に関しても同様に会計処理をしなければなりません。債務者と債権者で会計処理のやり方が異なりますので、その方法についても詳しく解説します。
債務者の会計処理
支払いを行う債務者の場合、まず商品の売買が発生した時点で借方が「仕入」・貸方が「買掛金」という勘定科目で金額を記載します。
また電子記録債権の発生した段階における会計処理では、借方が「買掛金」・貸方が「電子記録債務」という勘定科目として記載します。
電子記録債権が買掛金の支払いで消滅した場合には、借方は「電子記録債務」になります。貸方はどのように支払ったかで変わり、現金で支払った場合には「現金」、口座引き落としの場合には「普通預金」で処理しましょう。
債権者の会計処理
電子記録債権における債権者、つまり納入企業の場合、まず商品売買の時点で借方は「売掛金」・貸方は「売上」という形で会計処理しましょう。
また電子記録債権の発生した段階で、売掛金から電子記録債権に置き換わります。その段階で、今度は借方が「電子記録債権」・貸方が「売掛金」という形で発生した情報を帳簿に記録しなければなりません。
代金を受け取った段階で、電子記録債権は消滅します。その時の処理では、貸方は「電子記録債権」になります。借方は代金の支払い方法で変わり、現金で売上を受け取った場合には「売上」になり、口座振込でならば「普通(もしくは当座)預金」という形で処理しましょう。
電子記録債権とファクタリングの違い
売掛債権の譲渡を使ったサービスには、ファクタリングがあります。電子記録債権と混同されがちですが、大きく異なる点がありますので詳しく解説します。
ファクタリングとは
ファクタリングとは、企業が保有する債権を期日前に買い取って現金化するサービスです。手数料がかかるため、金銭債権の金額から引かれる点に注意しましょう。
それぞれの共通点
電子記録債権とファクタリングの共通点には、売掛債権をより早く現金化できる点が挙げられます。
売掛金の現金化には場合によっては数ヶ月かかるケースもありますが、それぞれのサービスを利用すれば迅速に前に現金化できので、資金繰りが円滑になる可能性が高いです。
またコンピューターシステムを介して売掛債権の譲渡ができる点も共通しており、自動的に処理できるので事務手続きの負担を軽減できます。
リスク面での違い
電子記録債権とファクタリングの異なるポイントには、リスクに関する違いがあります。
もし売掛債権を債務者が支払いできなくなった場合、電子記録債権の譲渡ではもともとの債権者が支払い責任を背負うことになります。
一方、ファクタリングでは、ファクタリング会社がその責任を負うスタイルが一般的です。
このように、電子記録債権では貸し倒れリスクが生じる可能性があります。そのため、経営基盤がしっかりしている信頼できる取引先かどうか慎重に見極める必要があります。
契約の手間の違い
取引先と契約する手間も、両者では異なります。
電子記録債権では、共通する金融機関の口座があればスムーズに契約できます。そのため、取引先ごとに口座を使い分ける必要がありません。
一方、ファクタリングの場合、基本的に取引ごとに契約を交わします。多くの業者と取引する場合、業者ごとに契約方法が異なる可能性がありますので、契約の締結に手間がかなりかかってしまいます。また取引内容を記録、管理する必要もありますので、かなりのコストがかかります。
電子記録債権向けの企業とは?
電子記録債権とファクタリングを比較した場合、どちらも一長一短あります。そのため企業の特徴によって、どちらの方が適しているか判断する必要があります。
電子記録債権がおすすめな企業は、会計処理の変更に柔軟に対応できる企業です。
電子記録債権を導入する場合には、会計システムを抜本的に変更する必要があるかもしれません。また、勘定科目の変更も必要です。
しかし会計処理に強みのある企業ならば、比較的スピーディーに電子記録債権に移行できるはずなので、便利に電子記録債権を利用できるでしょう。
ファクタリング向けの企業とは?
ファクタリングがおすすめな企業は、自社や取引先の信用度の高い企業です。
ファクタリングを利用するには審査を通過しなければならず、この際に自社の経営状況などをチェックされます。
また審査落ちする可能性が高い場合でも、取引先の信用力が高い場合にはファクタリングで現金調達できるケースもあります。
自社の適性を見極めて、電子記録債権を利用しましょう
電子記録債権は、約束手形や売掛債権に替わる新しいサービスとして今後浸透すると思われます。事務作業の簡略化や紛失、盗難リスクの回避などのメリットがあり、既存の取引方法に比べてスピーディーにビジネスを行えます。
ただし、企業の特性によっては導入が難しいケースもありますので、自社への適性を見極めてから利用するかどうか決めるといいでしょう。