事業を経営していくうえで重要な会計処理である減価償却、その仕組みを理解して減価償却費を正しく計上することは、会社のためにも大切です。しかし、計上しようと考えても計算方法や仕訳が難しいと考えている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、減価償却費について概要をおさらいしたうえで、仕訳や計算方法について詳しく紹介します。また法人の場合は任意ですが、個人事業主は取得資産の減価償却が義務付けられているため、これから事業を経営していく方は減価償却費について理解して適切な会計処理を実施してください。
目次
減価償却費とは?
事業を経営する中で、業務に利用する機械設備や車両など、いわゆる固定資産を保有する機会が多くあります。
こうした固定資産は、所有して年数が経過すると経済的価値が下がるようになっており、減価償却費とは、この固定資産の価値が低下するのを前もって把握して見積もる費用のことです。
固定資産を取得する際に支払う金額を全額その年度の費用にはせず、固定資産毎に定められた耐用年数に応じて分割計上する考え方です。
こうした減価償却は事業の利益を正確に把握するためには欠かせない手続きになっており、正しく行うことで関係各所にも正確な利益を公表できます。
たとえば、業務で使う機械設備を600万円で購入した場合、その600万円をそのまま計上すると会計上では大きく利益が減少してしまいます。これでは事業が例え好調であっても、会計上の利益だけ見て経営がうまくいってないのかと誤解されて、金融機関から融資を止められる恐れもあるのです。
こうした事態を防ぐために、減価償却を行い分割形状を実施します。
固定資産と流動資産の違い
固定資産に対して流動資産も存在します。
それぞれの資産がどちらに当てはまるのかは必ず理解しておきましょう。
短期的に現金化しづらい、もしくはしやすいのかでそれぞれ意味合いが異なります。
固定資産が短期的に現金化しにくい資産であるのに対して、流動資産が短期的、およそ1年以内を目安で現金化できうる資産です。流動資産は主に売掛金など、換金が容易なものが該当します。
どちらも会社の資産であることに変わりはないですが、現金化のしやすさは大きく異なるため分けて記載することが望ましいです。減価償却の対象になるのは固定資産であるため覚えておきましょう。
減価償却のメリット
減価償却にはさまざまなメリットがあります。企業が資産を適切に管理・運用していくためにはどれも重要な要素となるため、以下のメリットを理解したうえで正しく計上することを心がけましょう。
損益を正確に把握できる
業務で利用する機械設備などは、基本的に長期間にわたって会社の収益獲得に貢献してくれます。これを減価償却しないで購入した場合、購入時の年度では利益が大きく下がり、翌年からそれらを利用した分利益が上がったように見えます。
これでは、機械設備を導入後に収益にどの程度の変化が現れたのか、その損益が把握しづらくなってしまいます。減価償却によって収益と費用がバランスよく計上されるようになるため、自社の損益を正確に把握できます。損益を把握することは会社の財務状況把握のためにも欠かせません。
今後の経営方針などを定めていく時にも重要な情報であるため、把握することは大切です。
法人税や個人の所得税を節税できる
法人税や個人の所得税は基本的に利益が課税対象となります。売上から諸経費を引いたものが利益であるため、この減価償却費を税務上の経費として計上しておくと利益を減らすことができるため、かかる税金もその分少なくなります。
その反面、購入した年度に一括で計上してしまうと、翌年度からは利益だけが上がり続けてかかる税金も高くなるなど、経営バランス的にもよろしくありません。
減価償却を実施して費用を分散することにより、結果的にかかる税金を大きく抑えられるのです。
資産価値を反映できる
減価償却費は資産の経済的価値の消耗を考慮した金額です。
資産の価値は時間の経過とともに減少する傾向にあるため、減価償却費を計上することで資産の現在価値に基づいた評価を行うことができます。
これにより、資産の実態に即した財務情報を提供して企業の資産管理や意思決定のサポートにつながります。
減価償却資産は耐用年数が定められる
減価償却資産とは、事業用資産での購入価格が10万円以上になる耐用性のある固定資産のことを指します。この減価償却資産には使用できる期間が定められており、これを耐用年数といいます。
この耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によって減価償却資産ごとに期間が設けられているため、この期間に基づいて費用を分配して計上することが可能です。
また固定資産は「有形固定資産」「無形固定資産」の2種類に分けられており、こちらも違いについてはあわせて覚えておきましょう。
有形固定資産
有形固定資産とは、文字通り形の有る固定資産のことを指します。形があるということが、物理的にも劣化してその価値が下がっていくことになるため、減価償却資産として扱われます。
車両・運搬具
一般車両や運送事業用車両は、基本的な耐用年数は5年程度です。
中でも2輪・3輪自動車は耐用年数が3年、貨物自動車は積載量が2トン以下、総排気量が2リットル以下の小型自動車も耐用年数は3年となっています。
建築物
建築物は、建物に使われている素材や構造によって耐用年数が分かれます。
鉄骨鉄筋コンクリート造の建物は耐用年数50年、レンガ・石造・ブロック造の建物は耐用年数が41年となっています。
生物
生物も有形固定資産として耐用年数が定められています。
たとえば繁殖用の肉用牛は6年、乳用牛は4年、豚は一律3年など耐用年数が決まっているため、業務上飼育する機会がある場合は減価償却の対象としておきましょう。
無形固定資産
無形固定資産とは、有形固定資産に対して形がないもののことを指します。
有形固定資産に比べて直接的に経営に利用されるわけではないものの、法律でその価値が認められているものや収益力があるものはこの無形固定資産に当てはまります。
ソフトウェア
無形固定資産の代表的なものがソフトウェアです。ソフトウェアは物質として形はない無形ですが、今や事業活動を続けるのにあたって欠かせないものであり、導入することで一定期間以上効果が見込めるものであるため無形固定資産に該当します。
一般的に、市場販売目的のソフトウェアの耐用年数が3年、自社利用目的のソフトウェアの耐用年数が5年と定められています。その性質によって耐用年数が異なるため、違いについては注意しておきましょう。
減価償却の仕訳
減価償却における仕訳とは、会計帳簿に減価償却費を反映させるための記帳作業のことを意味します。
仕訳の方法には「直接法」「間接法」の2種類があり、それぞれ適した方法を選んで仕訳を行います。
直接法
購入した固定資産にかかった金額を、減価償却費から直接差し引く仕訳方法です。
借方に減価償却費、貸方に固定資産をそれぞれ記入します。どちらの科目にも記入する金額は同じです。
直接法を利用すると、固定資産の現在価値を一目で把握できるため、資産の売却など検討する場合には便利な仕訳方法です。
間接法
間接法は固定資産を直接減らさず、減価償却累計額の計上でこれまでの合計を表示する仕訳方法です。
借方に減価償却費、貸方には減価償却累計額をそれぞれ記入します。固定資産を取得した際の価格が一目で把握できるため、新たな資産購入に超える価格の比較をしたい場合などは見やすくて便利になります。
減価償却費の計算方法
減価償却費は、固定資産の購入費用や耐用年数の数値をそれぞれ用いることで計算できます。それぞれの計算方法を紹介します。
定額法
定額法は、毎年同じ額の減価償却費を計上する方法です。
計算式は「取得価額×定額法の減価償却率」です。
定額法の償却率は耐用年数毎に定められているため、対象の減価償却資産の耐用年数を調べた上で計算する必要があります。定額法は定率法に比べて計算方法がシンプルであり、かつ一定金額を毎年減価償却するため分かりやすいのが特徴です。
定率法
定率法は、定額法に比べて最初の年度に減価償却費が高く、年々減少していく計算方法です。
計算式「未焼却残高×定率法の減価償却率」
定率法を使うと初期に多額の費用が計上されることになるため定額法に比べて早期の節税が可能になります。
その分初期の償却負担も大きくなるため、利益を圧迫しすぎないか注意は必要です。
生産高比例法
生産高を基準に減価償却費を計算する方法で、車両や機械など利用時間や生産高の確定が見込める固定資産の減価償却費算出時に用いられます。
計算式「(取得価額 – 残り価額)×当期の生産高×総利用可能量」
生産高に比例して減価償却費の計上が可能なため、費用と収益が対応することが最大の特徴です。このように計算方法にも何通りか存在するため、それぞれの特徴を見極めたうえでどの計算方法でいくか判断しましょう。
土地は減価償に該当しない
固定資産といえば車両や建築物の他に、土地も該当します。しかし土地については年数経過によって価値が落ちるものではないと定められているため、減価償却の対象にはなりません。
非減価償却費用として土地は扱われるため、誤って減価償却費として計上しないように注意しましょう。
固定資産は電子ツールで正しく管理
固定資産の管理には、今回取り上げた減価償却などの会計業務が発生します。管理するものが多くなるほど通常業務に支障が出てしまい、またアナログな管理であるほどミスも頻発しかねません。
そのような場合は、電子上のツールやサービスを使って固定資産まわりの手続きを管理することをおすすめします。
電子上でデータとして管理することで膨大な量もまとめて管理可能、また減価償却費の算出などもツールが自動で実行してくれるため、人間の手による計算ミスも防止できます。
こうした電子上のツールやサービスは利用することで圧倒的な時短にもつながるため、業務効率化のためにも多くの企業が導入を進めています。かかるコスト以上に大きなメリットを得られるため、まだ導入していない企業や個人の方は積極的に導入を検討してみましょう。
仕組みを理解してしっかり節税
減価償却には、節税や損益の把握など多くのメリットがあります。正しく実施することで会社の利益も上げて、周囲からの信頼性アップにもつながるため上手に活用しましょう。
また、法人の場合は毎年の減価償却を行う必要もありませんが、個人の場合は所得税については必ず減価償却を行わなければなりません。減価償却は固定資産ごとの耐用年数や計算方法などが少々複雑でもあるため、計上ミスを税務調査で指摘されるケースも多いです。
たとえば固定資産の中でも、価値が下がらない土地は減価償却の対象にはなりません。固定資産はすべてが減価償却対象になるわけではないということも併せて覚えておく必要があります。
減価償却の仕組みについてよく理解して、会社の利益のためにもしっかりと節税を心がけましょう。
また、減価償却費の算出のような複雑な作業はツールやサービスを利用して管理の一元化や時短による業務効率化を狙うのもおすすめです。メリットはさまざまにあるため、積極的に導入を検討してみましょう。