秘密保持契約はビジネスや取引においてよく使われる契約であり、機密情報の漏洩防止などの目的から利用されています。そのため従業員はサインするケースが多いですが、場合によってはサインしない方が妥当と思われるケースも見られます。
そこで秘密保持契約の概要を詳しく解説した上で、サインを拒否できるかどうかや拒否する場合の注意点などについてご紹介します。
目次
秘密保持契約とは
秘密保持契約は通称NDA(Non-Disclosure Agreement)と呼ばれており、ビジネスや法的取引において情報の漏洩を防いで、取引の安全性や信頼性を確保するために行われる契約です。秘密保持契約では、情報の提供者が特定の情報を受け取る側(受取人)に対して、その情報を機密として保持して第三者に漏洩しないように義務付けます。
秘密保持契約では、主に以下の点が重要になります。
・機密情報の定義
・秘密保持の義務とその期間
・機密情報の利用制限
・違反した場合の罰則
それぞれ詳しく解説します。
機密情報の定義
秘密保持契約では、対象となる機密情報の定義がポイントです。契約内容でどのような情報が機密とみなされるかを具体的に定義することが必要となります。
具体的な内容には製品情報や技術データ、顧客リストなどが含まれます。またビジネス戦略なども対象となるケースも見られます。
秘密保持の義務とその期間
受取人は、提供者から得た機密情報を厳密に保持して、外部に漏洩させないようにしなければなりません。秘密保持期間は契約書で定められており、契約が終了した後でも一定の期間にわたって続くケースが一般的です。
機密情報の利用制限
受取人は、提供された機密情報を特定の目的(通常は契約で明示される目的)以外で使用してはいけません。もし業務で必要な場合でも、提供者の事前承諾を得る必要があります。
違反した場合の罰則
秘密保持契約に違反した場合、受取人には罰金や損害賠償などの罰則が科せられます。情報の重要性によっては、数千万円もの違約金が要求されるケースもありますので、締結する前に必ずチェックしておきましょう。
秘密保持契約を求める理由
なぜ企業などの組織や団体は、秘密保持契約を求めるのでしょうか?その主な理由は、以下の通りです。
● 機密情報の保護
● 競争原理で優位に立つため
● 外部の関係者との信頼構築
● 法的保護の観点
● 株主などの投資家からの信頼性の担保
● 罰則による情報漏洩の防止
それぞれ詳しく解説します。
機密情報の保護
経済活動を行う企業などの組織は、自社の製品技術やビジネス戦略、顧客リストなどの機密情報を外部に漏洩させないようにすることが求められます。このような情報は自社で蓄積してきた非常に重要な情報やノウハウであるため、競合他社などに後れを取らないように保護しなければなりません。そのため秘密保持契約は外部の関係者だけでなく、社内の人間にも締結させて、自分たちが扱う情報の重要性を自覚させているのです。
競争原理で優位に立つため
競争の激しいビジネス環境では、新しいアイデアや技術が漏洩してしまうと、競争原理における優位性が失われる可能性があります。そのような事態を事前に防ぐことはビジネスの成長において非常に重要ですので、秘密保持契約で厳格に防止しているのです。
外部の関係者との信頼構築
秘密保持契約には、外部の関係者との信頼関係を構築する効果も期待できます。秘密保持体制がおろそかになっていると、「私が提供するデータや関係するリストなどをきちんと管理しているのだろうか」などの疑念を抱かれる可能性が考えられます。そこで、外部の関係者のデータも厳格に管理することを伝えるためにも、秘密保持契約が締結されているのです。
法的保護の整備
秘密保持契約は法的な文書であり、契約違反が発生した場合には法的措置を実行するために大きく役立ちます。そのため、もし違反行為が発覚した際には、その行為に相当するだけの損害賠償を正当に請求できるのです。
株主などの投資家からの信頼性の担保
株主などの投資家は、対象となる企業の法的安全性をチェックします。その一環として秘密保持契約も確認されるケースがありますので、きちんと機密情報の保護体制を整備していれば投資家からの信頼も獲得しやすくなるでしょう。
罰則による情報漏洩の防止
秘密保持契約に違反した場合には、罰金や損害賠償などで相当の金額の違約金を請求されます。この罰則を提示することで、機密情報が漏洩しないように関係者に徹底しているのです。また情報の機密性を伝えられますので、業務の重要性を自覚させて業務に専念させる副次的効果も期待できます。
秘密保持契約へのサインは拒否できる?
これまで秘密保持契約の重要性について詳しく解説しましたが、厳格な情報管理体制の整備や過大な損害賠償額を背負うリスクからサインを拒否したくなるケースもあるでしょう。そこで、秘密保持契約へのサインを求められた場合に拒否できるかどうかお伝えします。
企業はサインを強制できない
まず前提として、企業は社内の従業員であっても秘密保持誓約書などの契約書への署名は強制することはできません。また外部の関係者であっても同様です。なぜなら、秘密保持契約はその名の通り「契約」ですので、双方の合意のもと締結されるからです。
そのため、従業員は秘密保持誓約書に署名するかどうかを自由に決める権利があるわけです。したがって、従業員が誓約書に署名することに同意した場合にのみ秘密保持誓約書が締結されます。もし内容に納得がいかない場合には、署名や提出を拒否することもできるのです。
また誓約書の内容が同業他社への長期間にわたる転職を禁止したり、関与していない情報の漏洩にも責任を負わせたりするような不合理な内容である場合も見られます。このような場合には、秘密保持誓約書への署名を拒否する方法が妥当と考えられるでしょう。
しかしながら、社員の場合には退職時にはともかく、入社時や在職中に誓約書の提出を求められた場合、拒否することは難しいと思われます。そのため、不合理な内容がある場合には社内の法務部や顧問弁護士などではなく、個人的に法律の専門家に相談することをおすすめします。内容によっては、勤務内容に問題がなかった場合でも損害賠償や企業側の弁護士費用まで負担するケースもありますので、誓約書の内容は詳しくチェックしておきましょう。
秘密保持契約のサインを拒否する場合の注意点
秘密保持契約を拒否する際には、慎重かつ適切な対応が求められます。まずは契約内容をよく理解することが必要です。
契約書の条項や機密情報の定義、秘密保持の義務について十分な理解が必要です。そのため弁護士などに相談すれば、契約について詳しく把握できるでしょう。
その上で提供側との交渉の余地がある場合には、自身の意見を明確に伝えましょう。不合理な条項や過度な制約がある場合には、改善を求めやすいです。
また契約に違反した場合のリスクを理解しておくことも重要です。契約違反によって発生する損害賠償や法的措置を把握しておけば、責任が過大である場合などにサインを拒否しやくなるでしょう。
さらに企業にコンプライアンス部門など法的公平性を図る部署がある場合には、相談することをおすすめします。コンプラ部門ならば社内における公平性を担保するために、従業員に適切なアドバイスやサポートをしてくれる可能性があります。
拒否する方法について
秘密保持契約へのサインを拒否する方法については、拒否の意思を相手方に書面で通知することが重要です。口頭で意思表示してしまうと、もし裁判などに発展した場合に不利になってしまう可能性があります。書面での通知は証拠となりますので、トラブルが発生した場合に有効な手段となるでしょう。
秘密保持契約にサインする・しないメリット
秘密保持契約には、サインすることによって生じるメリットがあります。しかし、しない場合でも考えられるメリットがありますので、それぞれ詳しく解説します。
秘密保持契約にサインする最大のメリットには、所属する企業などの組織が保護される点が挙げられます。企業の機密情報が保護されることで、製品の設計や製造プロセス、マーケティング戦略など競争上の優位性を維持できるため、その企業の従業員にとっても有益となるでしょう。
一方秘密保持契約にサインしないメリットには、情報を自由に使用できる点があります。特に創造的なプロジェクトや研究において、情報の自由な流れは新たなイノベーションを生み出す可能性があります。また提供者と受取者が同じ情報を共有する公平な関係を築くことができますので、情報の不均衡から生じる信頼問題を回避できます。
さらに心理的なメリットとして、制約から解放される点も見逃せません。秘密保持契約は大きな制約を伴いますので、業務に対してブレーキをかけてしまう可能性があります。そのため、業務の遅延や新しい発想の妨げとなるケースもあるでしょう。
ただし、情報の機密性や業務の重要性などによってはサインする方が妥当であるケースもありますので、業務の内容や秘密保持契約書の罰則などを比較検討して妥当であるかどうかチェックするといいでしょう。
秘密保持契約にサインする場合には、内容を精査しましょう
秘密保持契約は、企業の成長やビジネスの発展において必要な情報の漏洩を防ぐために役立ちます。また取引の安全性や信頼性を担保できるメリットも存在します。このような理由から、秘密保持契約にサインするケースもあるでしょう。
しかし、秘密保持契約にサインしないことによるメリットを無視できません。情報の自由な活用や公平な関係性の構築などのメリットもありますので、サインするかどうかはよく考えることが重要です。
秘密保持契約を締結する場合には、契約内容をよく確認しておき、その内容に疑問が残る場合にはサインをしないという方法もあることを理解しておくといいでしょう。秘密保持契約の内容を確認した上で業務内容や損害賠償などに見合っているかチェックしておけば、納得して業務に専念できることが期待できます。