近年件数が増加している企業のM&Aでは、会社合併が盛んに行われています。しかし、会社合併では法的にクリアすべきポイントが多く存在します。そのため、会社合併の手続きをチェックしておくことは非常に重要です。
また大きなハードルとなりえる株主総会の承認を理解しておく必要もあるため、会社合併について詳しく解説します。
目次
会社合併の手続き
会社合併は会社同士だけの問題ではなく、株主や債権者など多くのステークホルダーに大きな影響を与えます。そのため、会社合併ではステークホルダーにも手続きを行う必要がありますので、詳しく解説します。
合併契約
まずは当事者となる会社同士で、合併契約を締結します。取締役会設置会社では取締役会で決議を採り、取締役会がない会社では取締役が決定します。それから両会社で合併に関する条件を詰めていき、代表取締役などの代表者が合併契約を締結します。
合併契約の書類では、それぞれの会社の住所と会社名を記載すると共に、合併会社が消滅会社に対して引き渡す対価や株式などの詳細を記します。対価については、消滅会社の株主に対して支払われるものも含みます。
その後株主総会での承認も必要です。もし株主総会で否認された場合には、契約停止になります。
株主総会における決議
株主総会では、締結した合併契約の詳細を報告します。株主に対して与えられる対価や株式の取り扱い、新会社の組織、事業計画などについて資料をまとめ、提供しなければなりません。多くの場合、事前にこれらの資料を閲覧できるようにしてから、株主の理解を得られるようにして株主総会を開催します。
株主総会当日にも多くの質問や意見が出されますが、その場で決議を採ることが主な目的と言えます。
債権者異議手続き
どちらの会社でもある程度の債務を抱えているはずですので、会社合併で不利益を被ることがないよう債権者からの理解を得なければなりません。特に消滅会社の場合は、会社自体がなくなってしまうため、債務に関して正しく手続きをしないと消滅してしまう恐れがあります。そのため、合併がなされる前に債権者との話し合いが求められます。
具体的には債権者異議手続きを実行して、すべての債権者に対して合併契約の詳細や新会社における事業計画や債務履行スケジュールなどを提出します。債権者異議手続きは、合併の効力発生日よりも前に完了する必要があります。個別に対応する時間を取り、丁寧に対応しましょう。
合併登記
合併が正式に効力を発生するタイミングで、合併登記を行います。消滅会社については確実に以前の会社の商業登記が消滅することを確かめると共に、新会社の役員等の記載が正確であることをチェックします。
株主総会での承認について
会社合併は株主総会の承認を得ないと、無効になってしまいかねません。また株主の理解を得られないと、合併後の経営に支障が生じる恐れがあるため、入念な準備と計画が必要です。
消滅会社の株主総会
消滅会社の株主は保有している株式がどうなるのか、新しい会社となって手持ち資産が目減りすることがないのかといった懸念を感じるでしょう。そこで、会社は株主に対して説明を行う目的で株主総会を行います。
手順は通常の株主総会と同様であり、株主に対して招集通知を出します。もし書面投票や電子投票を認める場合は、その旨を招集通知に記載します。また株主総会参考書類として、合併契約の内容や合併をすべき理由、株主に与える影響などをまとめて、株主に提供する必要もあります。
存続会社の株主総会
存続会社でも、株主総会を開いて承認を得る必要があります。手順や配布する書類も消滅会社と変わりません。
ただし、消滅会社から引き受ける資産の中に自社株式が含まれている場合には、その詳細を報告します。なぜなら議決権ベースにおける株主の比率が変化して、場合によっては合併に伴って消滅会社の株主に、対価として会社保有の株式を譲渡するケースもあるからです。
特別決議による承認が必要
株主総会の承認を得るためには、どちらの会社でも特別決議を行う必要があります。議決権を持つ株主の過半数が出席することが条件であり、かつ出席している株主の議決権ベースで3分の2以上の賛成で可決となります。
会社合併の例外ケース
会社合併には株主総会の承認が必要ですが、以下の2つのケースでは不要となる例外があります。
・略式合併
・簡易合併
略式合併
基本的に会社合併の承認は特別決議の形式で行いますが、略式合併の場合は消滅会社における株主総会からの承認が不要となる場合があります。略式合併とは、どちらか一方の会社が一定の条件を満たしている特別支配会社であるケースにおける会社合併です。
特別支配会社である条件はいくつかありますが、代表的な条件としては会社の総株主が相手方の議決権の9割以上を保有している点が挙げられます。このような状況では株主総会を行っても結論が変わりませんので、承認を省けるのです。たとえば、存続会社が消滅する会社の特別支配会社である場合、消滅会社における株主総会の承認は必要ありません。
簡易合併
もう1つ株主総会の承認が不要となるケースとして、簡易合併があります。消滅会社の株主に対して支払う対価が低く、存続会社の資産に重大な影響を与えない場合に実行されます。
存続会社の規模が非常に大きく、消滅会社の経営規模や資産が小さいケースとも言えるでしょう。大企業がスタートアップ企業をM&Aで吸収する場合などでは、その都度株主総会を開催すると余分な手間やコストがかかるため、手続きを省略できるようになっています。簡易合併では、存続会社における株主総会の承認が不要になる場合があります。
株主総会に関する注意点
基本的に会社合併では株主総会の承認が必要であり、略式合併や簡易合併の例外ケースでは省略できます。しかし、どのような場合でも省略できるわけではありませんので、詳しく解説します。
承認を省略できない議案もある
例外的に合併契約に関する承認が不要となるケースがありますが、株主に不利益が生じえる議案では株主総会で承認を得る必要があります。たとえば、事業赤字や大きな不良債権などを抱える消滅会社を合併する存続会社は事業で不利になる恐れがあるため、株主への不利益となる場合が考えられます。
他にも、譲渡制限株式となっていない株式を持っていた消滅会社の株主に、新たに対価として譲渡制限株式が渡されるケースもあります。この場合でも存続会社にとっては不利な状況となりえますので、株主総会での承認が必要です。
議事録への記載
通常の株主総会と同じように、合併に関する株主総会でも議事録を作成しなければなりません。開催日や場所、話し合った内容といった詳細を記載します。また議案がどのように進められたか、決議がどの形式でなされ、どれだけの賛成票が投じられたか、結果として承認が得られたかを記します。
会社合併は特別決議という厳格な形式で採決されますので、出席者数や賛成数などを株主の人数と議決権ベースで明確な数字として記載しておく必要があります。
議事録の保管
議事録は作成、記名した後に本店に10年間保存することが義務付けられています。支店を持つ企業の場合は、支店に写しを5年間保管します。消滅会社では、自社で行った株主総会の議事録を新会社に保管します。
議事録の保管方法は、紙やデータのどちらでも問題ありません。ただし、株主や債権者による閲覧請求やコピーの要求が考えられるため、データで保管しておくことをおすすめします。
手続きの流れと法的ルールを理解して、会社合併をスムーズに進めましょう
会社合併は会社だけでなく、株主や債権者にも大きな影響を与えます。そのため複雑な手続きが必要であり、株主総会を開いて特別決議による承認を得るハードルが存在します。こうした手続きの流れを把握して、スムーズに合併を完了させましょう。