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「人生100年時代」。英国の組織論学者であり、コンサルタントでもあるリンダ・グラットンと同じく英国の経済学者アンドリュー・スコットの共著「LIFE SHIFT / 100年時代の人生戦略」にて提唱した言葉です。
著書では、世界的に高齢化が進むことにより、先進国では人口の半分が100歳を超えて生きる時代がくることを予測されており、これからは100歳生きることを前提とした新たな人生設計を必要としています。
日本においても、健康寿命、平均寿命ともに右肩上がりで推移しており、直近の統計資料(2019年)では、男性72.68歳、女性75.38歳になりました。
【出典】健康寿命の令和元年値について
さらに、厚生労働省 健康日本21(第二次)では、健康寿命を男⼥ともに2040年までには、3年以上伸ばした75歳以上になることを目指すとされています。
また、この「人生100年時代」を受けて、厚労省でも2017年より議論を重ね、以下の5つの対応を掲げました。
【出典】人生100年時代構想会議
2018年に策定された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においても、2022年7月に再度の改定がされ、多様なキャリア形成を企業が推進することを目的とした内容が、ガイドラインに追記されました。
※このガイドラインは2020年9月にも改定されましたが、その当時は労働時間や競業避止義務などの副業におけるルールを明確にしたものになります。
このように「人生100年時代」の観点から、雇用の長期化が見込まれ、事業者においても副業の解禁など、これまで勤めていた会社という枠を超えて、社外の活動によって従業員がお金を稼ぐ、パラレルキャリアへの注目度が高まっています。
なお、これは若い従業員だけではなく、これまで管理職などを務めてきた経験が豊かにある中高年層にとっても、今後のライフスタイルにおいて重要な選択肢になると思われます。
そこで今回はいきなり独立開業をするのではなく、今のサラリーマンを続けながら、給与(=給与所得)だけではなく、個人事業主として「開業」し、事業としての売上(=事業所得など)を得ることについてご紹介します。
開業、起業、フリーランス、独立、プロボノ、副業、兼業などいろいろな「働き方」に関連する単語を最近耳にすると思います。
私も中小企業診断士として、多くのかたから起業について相談を受けますが、その中でもよくご質問をいただくのが、上で挙げた「起業」と「開業」の違いについてです。まずはこちらを整理してみましょう。
「起業」とは新たな事業や商売を始めることを指します。
対しまして、「開業」もおなじく商売などを始めることを指しますが、個人がお店を設けて商売を始めるニュアンスが強くなります。イメージとしては、個人のかたが長年夢であった花屋さんを始めることなどがこちらにあたります。
「起業」と「開業」の違いは上述のとおりですが、そもそも事業を始めるにはどのようにすればいいのでしょうか?
開業届を提出しないフリーランスを除くと、事業を継続的に行うには、個人事業主か法人かを選択する必要があります。具体的には、個人事業主としてその個人自身が主体となって事業を行うか、法人を設立して経営者となり、事業を大きくしていくかになります。
この個人事業主と法人の違いは、手続きや税金の違いなどいろいろな点が挙げられますが、わかりやすく一言で言うと、「責任の所在」です。
個人事業主はその事業の全責任は開業届を提出した(手続きについては後述します)個人が負うことになりますが、法人はその法人格が主体となって、全責任を負います。そのため、個人事業主の場合は、その個人が死亡した場合は、従業員の有無にかかわらず、そこで廃業となります。
一方の法人は、法人格を有しているので、例え経営者が死亡したとしても、別の役員などが経営者になることにより、その法人は永続的に発展することができます。
ふたつの違いについてふれてみましたが、つぎに個人事業主として開業するメリットとデメリットをみていきましょう。代表的なものはこちらになります。
従業員を雇わずに、一人で個人事業主を開業する際には以下の3つの書類を提出すれば晴れて個人事業主となれます。
まずは、開業届です。税務署に開業届を提出することで、すぐに開業が完了します。ちなみに手数料はかからずに手続きを進めることができます。原則は、事業開始後1か月以内の提出ですが、特に遅れて提出したとしても罰則などは設けられていません。
次に、所得税の青色申告承認申請書です。開業届提出の際にこちらも同時に提出することをお勧めします。これにより、確定申告時に青色申告が利用でき、e-Taxの利用で最大65万円の特別控除を受けられるため、大きな節税効果を得られます。こちらは提出期限があり、申告をする年の3月15日までとなります。これを過ぎてしまうと、その年は白色申告となり、先ほどの特別控除が受けられなくなりますので、ご注意ください。
最後は、事業開始等申告書です。事業開始等申告書は各都道府県税事務所に提出する書類になります。提出期限は各自治体によって異なりますので、事前に問い合わせすることをお勧めします。ちなみに東京都は開業から15日以内になります。ただし、こちらの書類は提出しなくとも罰金や罰則がないため、実際には提出されていない事業者さんが多いのも事実です。
なお、開業届と事業開始等申告書、それぞれの書類を提出する意味としては、国税と地方税の違いです。開業届を提出した税務署では国税を管理し、事業開始等申告書を提出した都道府県税事務所では地方税を管理するためそれぞれの提出が必要となります。
副業であったとしても、所得(売上から経費を引いた数字)が年間20万円を超えると確定申告が必要となります。「確定申告」と聞くと、尻込みされるかたもいるかと思いますが、安心してください。
以前は確定申告の際、税理士に依頼しているかたが多く見受けられましたが、現在は会計ソフトが高度化したことにより、簿記の知識をもたいない個人でも簡単に対応することができるようになりました。
老舗なものから最近のものなどいろいろな会計ソフトがありますので、値段や使い勝手などを確認して、ご自身にあったものを選んでみてください。
開業届には屋号を記入する欄があります。そこに自分の決めた屋号を記載することにより「屋号+個人名」で金融機関の口座を持つことができます。これにより対外的には、顧客や取引先からの信頼感がアップすることが期待でき、対内的には、私的なものと事業のものとのお金の管理がしやすくなります。
なお、屋号は基本的には自由なものを使用することができます。(すでに利用しているものであっても、使用することは可能です)ただし、屋号の前後に「会社」や「銀行」 などの単語が入るものはNGとなりますので、ご注意ください。
労働基準法は企業などと雇用契約を締結し、雇用関係となった労働者を対象とした法律です。そのため、業務委託契約書などを締結して、雇用関係にない個人事業主はこの法律の適用除外者となります。
具体的な例を見てみると、雇用関係にあるサラリーマンは、労働時間が週40時間以内までと労働基準法で守られていますが、個人事業主は週40時間を超えて労働させたとしても違法とはなりません。そのため、長時間労働でのトラブルはご自身で対応しなければなりません。
法人との大きな違いになりますが、個人事業主は登記の必要がありません。登記をしていないということは、取引先としては、その個人事業主の所在地や商売の内容などを公的な手段で確認することができません。そのため、ある程度の関係性をもった状態ならまだしも、新たに出会った個人事業主とは取引を控える傾向があります。
これは融資に対しても同様で、個人事業主の会計は個人生活と事業との管理があいまいになりやすいため、法人よりも融資がうけにくくなります。
事業が大きくなることにより多くの利益を得ることができますが、個人事業主のお財布に入ってくる所得については累進課税を受けるため、税負担は法人よりも大きくなります。さらに、所得が増えることにより、業種によっては個人事業税も課されます。
なお、個人事業税のかかる業種は都道府県ごとに決められているので、各自治体のホームページなどを参考にしてください。
【参考】東京都の個人事業税
それではここからは、個人事業主の開業について実際に相談をいただいた内容をいくつか紹介します。
サラリーマンをしていますが、副業で個人事業主として開業を検討しています。会社に報告しないで開業できればと思うのですが、これってバレますかね?
まず、個人事業主として税務署に開業届を提出するだけではバレません。バレるタイミングとしては、 たまたま同僚に別のところで働いている姿を見られた場合や、事業を始めたことにより収入が増え、それに伴った住民税の増額が会社から追及されることなどが考えられます。ただ、個人事業主として開業する前に、会社へ事前に相談することを強くお勧めします。理由としては、バレないかびくびくしながら事業を続けていくよりも、しっかりと会社へ報告したほうが、よっぽど生産性があがりますし、個人事業主が事業活動を通して、人脈や知識など、外で得たモノを会社に還元することは、両者に大きな利をもたらすからです。それでも会社にいきなり相談するのは気が引けるようでしたら、まずは心の準備として、勤め先のルールが記載されている就業規則を確認してみてはいかがでしょうか。
マイナンバーカードから副業していることがバレるって聞きましたが、ほんとですか?
こちらは以前ちらほらと噂が流れていましたが、事実ではありません。理由としては、勤務先から行政に対して、対象となる従業員の所得状況について情報開示を求めることができないためです。
個人事業主って実際に儲かるものなのですか?
これは一概にYESとは言えませんが、個人事業主に限らず、成功している起業家のほとんどが、事業開始前から具体的な目標があったと言われています。そのため、まずはどのような個人事業主になりたいか目標を定めてみてください。それに対して現状の自分自身はどうなのか、具体的に自分はなにができるのかを棚卸ししてみましょう。例えば、「10~20代の女性をターゲットに、地域で一番おしゃれな花屋さんになりたい」と目標を掲げたとします。そこで現状の自分の強みとして、「交友関係が広い」、「前職での花屋の知識がある」「小さいけど土地がある」、「英語が堪能だ」、「貯金が100万円ある」など、どんどんと書きだしていきます。その目標と現状のギャップからなにが問題で課題なのかを抽出して、一つ一つ解決策を「見える化」していくことが、成功への近道になります。
【課題抽出のイメージ】
今回は、個人事業主の開業についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
前提知識や下準備がなく、いきなり独立開業することは避けるべきだとは思いますが、しっかりと下調べをすることにより、サラリーマンをしながらの個人事業主としての開業は決して難しいことではないと思います。また、開業までの手続きについては、上述したとおりですが、それでも一人では不安というかたは、専門家を利用することをお勧めします。
ここで言う専門家とは、顧問として士業をいきなり雇うのではなく、近くにある商工会、商工会議所や各都道府県に設置されているよろず支援拠点など、公的支援機関に所属している専門家になります。これらの専門家を上手に活用することで、0円で個人事業主の開業サポートを受けることができますので、ぜひ検討ください。
※それぞれの機関については以下のリンク先をご覧ください
また、各自治体では、開業における融資や助成金なども設けています。事業を開始するにはキャッシュが潤沢にあるにこしたことはないので、開業を決意されたら、まずはお住まいの自治体で支援策があるのかどうかを確認してみるのもいいと思います。
それではまた次の記事でお会いしましょう!!
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中小企業診断士。
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昼はGMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社でサラリーマン、夜は高橋国際コンサルティング事務所の代表として、経営コンサルタント業務を行う。
また、地方創生を事業柱とする合同会社Michilabの業務執行社員。
PRESIDENT経営者カレッジではオンライン講師を担当。