企業版ふるさと納税制度の開始以降、多くの企業がこの制度を利用しています。しかし、「本当にメリットがあるのか」という疑問の声も聞かれます。本記事では、企業版ふるさと納税のメリットとデメリットを多角的に分析し、どのような企業にとってメリットがあるのか、またメリットが少ない場合はどのような状況なのかを詳しく解説します。
目次
企業版ふるさと納税とは?
企業版ふるさと納税とは、企業が地方自治体に寄付を行うことで最大9割の税控除を受けられる制度です。この制度は、地域の活性化や特定のプロジェクト(国が認定した地域再生計画に位置付けられる地方公共団体の地方創生プロジェクト)の支援を目的としており、企業が地域貢献を行う手段として利用されています。
企業にとっては、地域との関係を深める機会となり、ブランドイメージの向上にも寄与することができるため、企業と地域社会の相互利益を促進するための重要な手段として注目されています。
企業版ふるさと納税は、2016年(平成28年)4月に創設された制度です。2024年度が最終年度とされていますが、内閣府は5年間の延長を求める内容を2025年度の税制改正要望に盛り込んでいます。
参考:地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税ポータルサイト」
企業版ふるさと納税のメリット:経済的側面
経済的側面から見た企業版ふるさと納税のメリットには以下が挙げられます。
税額控除によるコスト削減
企業版ふるさと納税の最大のメリットは、寄付額の最大約9割が税額控除される点です。具体的には、損金算入によって約3割、法人税関係で最大6割が控除されます。これは通常の寄付金控除と比較して、はるかに大きな経済的メリットとなります。
たとえば、1000万円の寄付を行った場合、最大で900万円の税額控除を受けることができます。つまり、実質的な負担は100万円で済むことになります。この仕組みにより、企業は社会貢献活動を行いながら、同時に税負担を軽減できるのです。
中長期的な事業機会の創出
企業版ふるさと納税を通じて地域の活性化に貢献することは、中長期的には新たな事業機会の創出につながる可能性があります。たとえば、地域の産業振興プロジェクトに寄付を行うことで、その地域の経済が活性化し、結果として自社製品やサービスの需要が増加するというシナリオが考えられるでしょう。
また、地域との関係性を深めることで、将来的な事業展開や人材採用においても有利に働く可能性があります。地域に根ざした企業として認知度が向上すれば、地元の優秀な人材の獲得や地域密着型のビジネス展開がしやすくなるでしょう。
企業版ふるさと納税のメリット:社会貢献的側面
企業版ふるさと納税は、社会貢献的な面も持っています。ここでは主なメリットをご紹介します。
効果的なCSR活動の実現
企業の社会的責任(CSR)が重視される現代において、企業版ふるさと納税は効果的なCSR活動の手段となります。この制度を通じて、企業は地域社会の課題解決に直接的に貢献できるでしょう。たとえば、教育支援、環境保護、文化振興など、さまざまな分野でのプロジェクトに寄付を行うことで、企業の価値観や理念を体現する活動を展開できます。
特に、自社の事業領域や強みと関連するプロジェクトを選択することで、より効果的かつ意義深いCSR活動が可能となります。たとえば、IT企業であれば地域のデジタル化推進プロジェクトに寄付を行うなど、自社のノウハウを活かした支援も可能です。
このようなCSR活動は、企業のブランドイメージの向上や、従業員のモチベーション向上にもつながります。社会貢献に積極的な企業として認知されることで、消費者や取引先からの信頼が高まり、結果として事業にもポジティブな影響をもたらす可能性があります。
ただし、このメリットを最大限に活用するためには、単に寄付を行うだけでなく、その活動内容や成果を適切に社内外に発信することが重要です。また、自社の事業戦略やビジョンと整合性のあるプロジェクトを選択することで、より効果的なCSR活動となります。
地域社会との関係強化
企業版ふるさと納税を通じて地域社会に貢献することは、その地域との関係性を強化する絶好の機会となります。特に、地方に拠点を持つ企業や地方展開を考えている企業にとっては、地域との良好な関係構築は非常に重要です。
寄付を通じて地域の課題解決に貢献することで、地域住民や行政との信頼関係が醸成されます。これは、将来的な事業展開や地域での円滑な事業運営にプラスの影響を与えるでしょう。たとえば、新規事業の立ち上げや施設の建設など、地域の理解や協力が必要な場面で、スムーズに進めやすくなる可能性があります。
また、地域の発展に貢献する企業として認知されることで、地元での採用活動が有利になることも考えられます。地域に根ざした企業として魅力的に映り、優秀な人材の獲得につながる可能性があるのです。
ただし、このメリットは主に地方での事業展開を重視する企業や特定の地域との関わりが深い企業にとって、大きいと言えます。グローバルに事業を展開する大企業や特定の地域との関わりが薄い企業にとっては、このメリットを実感しにくい可能性があります。
企業版ふるさと納税でメリットの多い企業
企業版ふるさと納税は、企業の社会貢献や税制優遇を通じて、さまざまな関係者にとってメリットをもたらしますが、そのメリットは企業の規模や事業内容、経営方針によって異なります。ここでは、どのような企業にとって企業版ふるさと納税がメリットとなるのか、いくつかの具体的な視点から解説します。
地方に事業拠点を持つ企業
地方に事業拠点を持つ企業にとって、企業版ふるさと納税は特に大きなメリットをもたらします。たとえば、工場や支店が地方にある企業は、その地域の発展が自社の事業活動に直結します。寄付を通じて地方公共団体がインフラ整備や地域産業の振興に取り組めば、企業にとっても事業環境の向上という形でメリットを享受できるでしょう。
また、地域住民との関係強化や企業イメージの向上にもつながるため、長期的な視点で見れば、地域に根ざしたビジネスを展開する企業にとっては重要な投資と言えるでしょう。
社会貢献を重視する企業
CSR(企業の社会的責任)活動を重視する企業にとっても、企業版ふるさと納税は非常に効果的な手段となります。地方創生や地域社会の課題解決に直接的に貢献できるため、企業としての社会的責任を果たし、ブランドイメージを高められるでしょう。特に、消費者や取引先からの社会貢献活動への期待が高い企業にとって、この制度を活用することで、外部からの評価を向上させることが可能です。
さらに、社会貢献活動に積極的な姿勢を示すことで、社員のモチベーション向上やエンゲージメントの強化にもつながる可能性があります。
収益性の高い大企業
収益性の高い大企業にとって、企業版ふるさと納税の税制優遇措置は大きなメリットです。企業版ふるさと納税を利用することで、寄付金額の最大約9割が法人税や地方税から控除されます。大企業は多額の法人税を支払っているため、寄付による税額控除は実質的なコスト削減となり、財務的にも有利に働きます。さらに、寄付を通じて得られる社会貢献のメリットと合わせて、企業全体のCSR戦略の一環として活用できる点も魅力です。
地域貢献を通じてビジネス展開を図りたい企業
地方でのビジネス展開を検討している企業にとっても、企業版ふるさと納税はメリットをもたらします。地方に新たな市場を開拓したい、あるいは地方での事業拡大を目指している企業にとって、地方公共団体との連携強化は非常に重要です。
企業版ふるさと納税を通じて寄付を行い、その資金が地域のインフラや産業振興に使われることで、事業拡大に向けた環境整備が進むことが期待できます。また、地域との関係構築を進めることで、将来的なビジネスチャンスが広がる可能性もあります。
地方創生に関心を持つ中小企業
地方創生に関心を持つ中小企業にも、企業版ふるさと納税はメリットがあります。特に、地元や特定の地域に対して強い思い入れを持つ企業は、地方公共団体との協力を通じて地域社会に直接貢献できます。地域の持続可能な発展に寄与することで、地元住民や他の地域企業からの信頼を得られると同時に、企業のブランド価値も向上します。
また、寄付額がそれほど大きくなくても、地域社会にとっては非常に重要な支援となることが多く、中小企業が地域でのプレゼンス(存在感)を強化する手段として有効です。
企業版ふるさと納税のデメリットと留意点
企業版ふるさと納税には、デメリットも存在します。ここでは、デメリットと留意点をご紹介します。
即時的な資金流出による負担
企業版ふるさと納税は、企業が地方公共団体に対して直接寄付を行う形式です。そのため、寄付を行う段階で企業の手元資金が減少することになります。寄付金額は後に税額控除として実質的には戻ってくるとはいえ、そのタイムラグが企業の資金繰りに影響を与える可能性があります。特に、資金繰りが厳しい中小企業や、キャッシュフローが不安定な企業にとっては、即時的な資金流出が大きな負担となるでしょう。
予算管理の難しさ
企業版ふるさと納税は、企業の年度予算に計上されるべき支出項目の一つです。しかし、この寄付がどのように税額控除として反映されるかは、企業の経営状況や他の税制優遇措置との兼ね合いによって異なります。したがって、企業が予算を正確に管理するためには、寄付のタイミングや金額、さらにその税効果を慎重に計算しなければなりません。予算の見積もりが難しくなることで、予期しない支出超過や資金不足のリスクが増大する可能性があります。
事務手続きの煩雑さ
企業版ふるさと納税を実施するには、一定の事務手続きが必要となります。具体的には、寄付先の自治体との事前協議、社内調整、寄付の実行、プレスリリース、税額控除の申請など、複数のステップを踏む必要があります。
これらの手続きは、特に初めて制度を利用する企業にとっては負担となる可能性があります。担当者の人件費や時間的コストを考慮すると、小規模な企業や人的リソースに余裕がない企業にとっては、このデメリットが大きく感じられるかもしれません。
ただし、一度手続きに慣れてしまえば、それほど大きな負担にはならないというケースもあるでしょう。また、最近では自治体側もサポート体制を整えつつあり、手続きの簡素化も進んでいます。
寄付金の使途に関する制限
企業版ふるさと納税では、寄付金の使途が地方創生に資する事業に限定されています。つまり、企業が自由に寄付先や使途を選択できるわけではありません。自治体が策定した地方版総合戦略に位置付けられた事業の中から選ぶ必要があります。
このため、企業が特に支援したいと考える分野や課題に対して、必ずしも直接的に寄付できるとは限りません。たとえば、教育支援に力を入れたい企業があったとしても、寄付先の自治体がその分野のプロジェクトを用意していない場合、希望通りの寄付ができない可能性があります。
また、寄付金の使途が地方創生に限定されているため、グローバルな社会課題への対応や特定の科学技術研究への支援など、より広範囲な社会貢献活動を望む企業にとっては、やや制限的に感じられるかもしれません。
さらに、下記の自治体は寄付の対象外となっています。
- 地方交付税の不交付団体である東京都
- 地方交付税の不交付団体であり、その全域が地方拠点強化税制の地方活力向上地域以外の地域にある市区町村
また、本社などの主たる事務所の立地する都道府県・市区町村への寄付は、制度対象外となる可能性があります。
寄付の見返りに関する規制
企業版ふるさと納税では、寄付の見返りとして経済的な見返りを受けることが禁止されています。これは制度の趣旨を守るための重要な規制ですが、企業によっては活用のハードルとなる可能性があります。
たとえば、寄付を行った企業が、その自治体から優先的に事業を受注するといったことは認められません。また、寄付の事実を過度にPRすることも控える必要があります。このため、寄付を通じて直接的なビジネス上のメリットを期待している企業にとっては、やや物足りなさを感じるかもしれません。
ただし、これらの規制は制度の健全性を保つために必要不可欠なものです。企業は、純粋な社会貢献や地域支援の観点から制度を活用することが求められます。
企業版ふるさと納税でメリットを得にくい企業
企業版ふるさと納税がすべての企業にとってメリットをもたらすわけではありません。以下に、企業版ふるさと納税でメリットが少ない、あるいはメリットがないと考えられる企業の特徴を解説します。
赤字企業や収益が少ない企業
赤字企業や収益が少ない企業にとって、企業版ふるさと納税のメリットはほとんどないと言えるでしょう。この制度の最大の経済的メリットは税額控除にありますが、そもそも税額控除を受けるためには課税対象となる利益が必要です。赤字企業や利益が非常に少ない企業は、法人税をほとんど支払っていないため、寄付を行ってもその分の税額控除が受けられません。結果として、企業にとっては単なる支出となり、メリットが感じられないでしょう。
地方との関わりが薄い企業
地方との関わりが薄い企業、特に大都市圏での事業に集中している企業にとっては、企業版ふるさと納税のメリットが乏しいことがあります。地方創生や地域貢献を目的とするこの制度は、地方と密接な関係を持つ企業にとっては有益ですが、地方に拠点がなく、ビジネス展開も予定していない企業にとっては、寄付を行っても自社のビジネスに直接的な効果が見込めないことがあります。このため、地方との結びつきが弱い企業にとっては、他の投資や資金の活用方法を選ぶ方が賢明だと言えます。
短期的な利益を重視する企業
短期的な利益を重視する企業は、企業版ふるさと納税の長期的な効果を実感しにくいかもしれません。企業版ふるさと納税は、地方への寄付を通じて長期的な地域貢献やブランド価値の向上を目指す制度です。しかし、短期的に結果を求める企業にとっては、その効果が不明確であり、すぐに利益に結びつかないため、コストとしての負担が大きく感じられる可能性があります。特に、株主や投資家から短期的な利益が求められる企業にとっては、この制度は適切でないかもしれません。
資金繰りが厳しい企業
資金繰りが厳しい企業にとって、企業版ふるさと納税の負担は大きなリスクとなります。寄付を行うことで一時的に資金が流出し、その後の税額控除で実質的に戻るとはいえ、その間のキャッシュフローに余裕がない企業は、資金不足に陥るリスクがあります。また、資金繰りに余裕がない企業は、このようなリスクを避けるため、他の手段を検討する方が良いでしょう。
自社の経営状況を鑑みて検討しよう
企業版ふるさと納税は、企業が社会貢献を果たすための有効な手段であり、税額控除のメリットもありますが、その一方でデメリットも存在します。特に、即時的に資金が流出すること、返礼品などの直接的な利益がないことなどが挙げられます。企業がこの制度を利用する際には、これらのデメリットを十分に理解し、自社の経営状況や資金計画に照らして慎重に判断することが重要です。