毀損行為は民事上・刑事上の両方で問題となり、損害賠償請求や刑罰の対象となるトラブルに発展しかねません。
「棄損」の表記を見かけるけど、毀損とはどのように違う?
SNSで誹謗中傷されたけれど、名誉毀損で訴えられる?
など、棄損・破損との意味の違いやSNSやインターネットで話題となる名誉毀損の対応について、知りたい方は多いのではないでしょうか。この記事では、以下のポイントについて解説します。
- 毀損・棄損・破損の意味と違い
- 毀損の種類は大きく分けて2つ
- 毀損の具体例と刑罰
- 毀損を受けたときの対策
毀損に関する正しい知識やトラブルへの対処法を解説するので、法律の学習や日常生活にお役立てください。
目次
毀損(きそん)の意味と種類について
毀損とは、建物や器物などの物を壊し、価値を失わせる行為を指します。SNSにおける誹謗中傷などで名誉毀損が話題となるように、形がなくとも人の心や信用を傷つける行為も毀損に当たります。
毀損と棄損の違いや毀損の種類など、基本的な知識を見ていきましょう。
毀損の読み方は「きそん」| 壊れて価値が失われること
毀損は「きそん」と読みます。また、毀損には形がある物品や建物が壊れるだけでなく、価値が失われるという意味があります。それぞれの漢字の意味を確認してみましょう。
- 毀(キ):こわれる・そこなわれる・けなす
- 損(ソン):そこなう・失う
こわれる、けなす意味がある「毀」の漢字と、失う意味がある「損」の漢字を組み合わせて作られた言葉が「毀損」です。毀損行為は、建造物損壊罪・器物損壊罪・名誉毀損罪・侮辱罪など、さまざまな法律違反となる恐れがあります。
毀損・棄損・破損の違いと言い換え
毀損(きそん)と棄損(きそん)は読み方が同じで漢字が1文字違いますが、意味の違いはありません。
戦前では毀損が正しい表記でしたが、戦後の円滑な教育や社会生活のために漢字が整理された際に、毀の漢字は使われなくなり、棄損と表記されるようになりました。2010年に常用漢字表の制定で、毀の字が採用されたため、現在では毀損と表記するのが一般的となっています。
一方で、破損(はそん)という言葉も存在します。毀損と破損も1字違いの似た言葉ですが、違いは明確です。破損は、形があり触れる物体の一部分が壊れる状態を指すため、形のあるなしに限らず使用する毀損とは異なる用語です。
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毀損(きそん) | 有形・無形問わず、物が壊れて価値が失われること |
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棄損(きそん) | 毀の字が使用されなかった時代に毀損の代わりに使用 |
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破損(はそん) | 物が部分的に壊れること |
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毀損のうち、建物など形がある物が壊れた場合は、破損・損傷・損壊・破壊といった言葉に言い換えられます。
毀損の種類は大きく分けて2つ!形があるもの・ないもの
毀損の種類は、大きく分けると2つに分類されます。
無形とは形がなく非財産的なもので、人の名誉や信用を指し、有形は形がある建造物(船を含む)・器物・車両・文書などを指します。
形がないもの(無形)の毀損と具体例
形がなく触れない無形の毀損には、名誉毀損と信用毀損の2種類があります。ここでは、名誉毀損・信用毀損の詳細・具体例・刑罰を解説するので、参考にしてください。
真偽を問わず事実を不正確に提示し広めると「名誉毀損」
名誉毀損とは、不特定多数の人に真偽を問わず事実を不正確に広め、名誉を傷つける行為を指します。
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
出典:刑法 | e-Gov法令検索
「Aさんには隠し子がいる」
「Bさんは犯罪者である」
といった内容の噂を広めたり、SNSに書き込んだりすると、名誉毀損に該当する可能性があります。名誉毀損が成立する、3つの要件をみていきましょう。
名誉毀損の成立要件
- 公然性がある(鍵付きアカウントも含む)
- 事実を提示している(真偽は問わない)
- 同定可能性がある(匿名でも認められる)
公然性とは、多数の人が認識できる状態で、さまざまな人に聞こえるような大きい声で言いふらす、インターネット上で広める、ビラを配布するなどが該当します。SNSでの鍵付きのアカウントでも、フォロワー数によっては公然性が認められるケースもあります。
事実とは、真偽を確認できる具体的な事実を指し、真実かどうかは問いません。
「Aさんは反社会勢力とつながりがある」などは真偽を確認できるため事実の摘示に該当します。「アホ」「間抜け」などは主観的な評価であり真偽の確認はできないため、事実の摘示に該当しません(侮辱罪となる可能性はあります)。
同定可能性とは、名誉を毀損している情報が誰なのか特定できることを指します。氏名やイニシャルのほか、匿名やハンドルネームであっても「あの人だ」と特定できる場合は同定可能性が認められるケースがあります。
嘘で経済的な信用を傷つけるのは「信用毀損」
嘘の情報を広めたり人をあざむいたりして、人(法人や団体を含む)の財産上の信用に傷をつけるのは信用毀損です。
「Aメーカーの食品が安すぎるのは腐りかけだからだ」
「B病院は、誤診ばかりで潰れるらしい」
などの嘘を広めた場合、Aメーカーの食品の買い控えやB病院の受診抑制につながり、経済的な信用に傷をつけたといえます。信用毀損が成立する要件を確認しておきましょう。
虚偽の風説の流布とは根拠のない嘘を広める行為です。偽計とは、人をあざむく行為であり、たとえば従業員に成りすまして「この会社は不正をしている」と告白するといった、詐欺的な行動を指します。信用毀損は、経済的側面における信用の毀損であるため、個人のほか法人や団体も対象です。
無形の毀損は名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪・業務妨害罪に該当
無形の毀損は、名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪・偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。真偽の確認ができる事実での誹謗中傷は名誉毀損罪となりますが、客観的事実ではない、「ばか」など主観的な評価での誹謗中傷は侮辱罪に該当する可能性があるためです。
また、経済的な信用を毀損すると信用毀損罪が該当しますが、同時に業務を妨害したとして偽計業務妨害罪も該当するケースがあります。無形毀損の具体的な罰則は以下の通りです。
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名誉毀損罪(刑法第230条) | 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金 |
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侮辱罪(刑法第231条) | 1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
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信用毀損罪(刑法第233条) | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
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偽計業務妨害罪(刑法第233条) | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
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参考:e-Gov 法令検索
無形の毀損では、1〜3年の懲役や禁固または30〜50万円以下の罰金となります。
無形の毀損は民事でも損害賠償請求の対象となる
無形物の毀損は、刑事上でさまざまな罪に該当しますが、民事上でも損害賠償請求の対象です(民法709条、同710条、同723条)。
名誉毀損の場合だと、損害賠償は数十万円から100万円が相場ですが、程度によっては100万円以上の高額な損害賠償請求となるケースもあります。
民法709条
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
出典:民法 | e-Gov法令検索
民法710条
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
出典:民法 | e-Gov法令検索
民法723条
(名誉毀き損における原状回復)
第七百二十三条 他人の名誉を毀き損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
出典:民法 | e-Gov法令検索
形があるもの(有形)の毀損と事例
有形物の毀損には以下の種類があります。
どのような行為が毀損に該当するのか確認していきましょう。
建造物や動物含む器物の毀損
建造物損壊は、他人の家や倉庫・ビルといった、動かせない建物を壊す行為です。
器物損壊は、建造物以外の他人の物を壊す行為を指し、ペットにわざとケガをさせる・逃がす行為も含まれます。
- 例①:気に入らない店のシャッターを蹴って壊した(建造物損壊)
- 例②:恋人のスマートフォンをわざと床に叩きつけ破損させた(器物損壊)
- 例③:他人の家の窓や壁に落書きをした(建造物損壊)
損壊とは、物理的な破損のほか、落書きなどの汚れで原状回復が難しい場合も損壊にあたります。
文書やデータの破棄などの毀損
官公庁などで保管されている文書や、権利・義務に関する文書(いずれもデータ含む)を削除するのは、文書の毀損(毀棄)行為です。
文書毀損には、公務員が働く公務所で使用・保管されている文書を毀損する公用文書等毀棄と、公用文書以外で、権利や義務に関する文書を毀損する私用文書等毀棄の2種類があります。
- 例①:親の遺言書を兄弟に見られないように破り捨てた(私用文書等毀棄)
- 例②:警察官が捜査資料を持ち帰りそのまま隠ぺいした(公用文書等毀棄)
文書やデータは、壊れる意味合いの毀損ではなく、隠ぺいや削除で完全になくなる意味の「毀棄」という言葉が用いられます。
有形の毀損は損壊罪・文書毀棄罪に該当
有形の毀損で該当する刑事罰は以下のとおりです。
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建造物損壊罪(刑法第260条) | 5年以下の懲役 |
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器物損壊罪(刑法第261条) | 3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料 |
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私用文書等毀棄罪(刑法第259条) | 5年以下の懲役 |
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公用文書等毀棄罪(刑法第258条) | 3か月以上7年以下の懲役 |
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参考:e-Gov 法令検索
有形の毀損は罪が重く、建造物損壊や文書毀棄は罰金刑がないため、有罪が確定すると必ず懲役刑となります。とくに建造物の破壊により、人にケガを負わせた・死亡させた場合は、傷害罪や同致死傷罪となり、重い罪が課されます。
有形の毀損は民事でも損害賠償請求の対象となる
有形の毀損は、無形物と同様に、民事上でも損害賠償請求の対象です(民法709条、同710条、同723条)。毀損された物の買い替え費用や修理費用、機器などの破損で仕事ができない期間の損害、精神的苦痛などに対し、損害賠償請求が可能です。
毀損は証拠保存が重要!3つの対応策
毀損行為を受けた場合に、知っておくべき3つの対応策をまとめました。ここでは、とくに身近な犯罪である名誉毀損や信用毀損への対応策を解説します。
スクリーンショットなどで証拠をのこす
SNSなどのインターネットで誹謗中傷を受け、名誉や信用を毀損されたと感じたら、スクリーンショットを撮って証拠を保存しておきましょう。
加害者側が問題になるのを恐れて、投稿内容やアカウント自体を削除する・アカウントに鍵をかける・被害者をブロックして投稿が見えないように対処する可能性があるためです。
この4つの情報が分かるようにスクリーンショットで撮影しておくと、サイトへの削除依頼や弁護士、警察への相談がスムーズです。訴えるかどうかは、あとから考えても遅くありません。まずは証拠をしっかりと残しましょう。
処罰感情が強ければ弁護士に相談する
処罰感情が強い場合は、法的な手段を検討するために弁護士に相談しましょう。弁護士は、問題となる投稿内容が、名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪・民事上の不法行為に該当する可能性があるかを判断します。
民事裁判で損害賠償請求を行う場合の費用や、刑事告訴する場合の費用の説明を受けた上で、法的手段をとるか判断しましょう。
問題となる投稿が削除され、それ以上の対応が不必要と考える場合は、投稿があったサイトの運営者やヘルプセンターへ削除依頼を申請します。削除依頼は被害者本人で行えますが、なかなか削除対応されないケースや、海外サイトで削除依頼が難しい場合があります。
誹謗中傷ホットライン(セーファーインターネット協会)では、国内外のプロパイダに対して削除対応を促す通知を無料で行ってくれるため、相談してみましょう。
発信者情報開示請求を行い加害者を特定する
民事裁判を起こし損害賠償請求する場合も、刑事告訴する場合も、まずは発信者情報開示請求を行い、加害者を特定する必要があります。
発信者情報開示請求は被害者本人でも可能ですが、手間がかかるのと、そのあとの裁判等の手続きを踏まえて、弁護士に依頼するのが一般的です。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼する場合の費用は、30万円〜80万円が相場です。加害者が特定できたら、民事裁判や刑事告訴の手続きにすすみましょう。
また、発信者情報開示請求は加害者側にも通知されるため、民事裁判や刑事告訴を恐れて示談を持ちかける可能性もあります。裁判等にかかる費用や処罰感情を総合的に判断して、民事裁判・刑事告訴・示談を検討しましょう。
毀損は身近なトラブル!対処法を知って適切に対応を
ここまで、毀損(きそん)の基本的な意味や罰則・毀損行為を受けた場合の対処法について解説しました。
形の有無に関わらず、人のものを傷つけ価値を失わせる行為は犯罪です。SNSや掲示板など、インターネット上での毀損行為によるトラブルは深刻化しているため、加害者にならないよう注意し、被害を受けた場合は適切に対応しましょう!