電子契約や書類の電子化が民間企業で進められる中で、国や地方自治体においても行政文書の電子化を推し進める動きが強まっています。しかし、多くの地方自治体では、まだ紙に印刷する方法で行政文書や公文書を作成しているのが実情です。電子化が進むのは、まだまだ先のことではないかと考えている人も多いでしょう。
しかし、政府は行政文書・公文書の電子化に関して具体的な指針を示しています。行政文書や公文書は電子化して管理するのが基本となるのも、そう遠くはないかもしれません。
本記事では行政文書・公文書の電子化について、政府が示している指針や現状の課題、実現した場合のメリットなどについて解説してきます。
目次
行政文書・公文書の電子化とは?
行政文書・公文書の電子化とは、電子データで作成したファイルを行政文書や公文書の原本として扱うことです。現在、紙の書類で行政文書や公文書を作成する場合でも、パソコンを使用していますが、WordやExcel、専用ソフトなどで作成したデータを印刷した紙の書類を原本として扱っています。
原本の扱いに関しては、保存期間や保存方法など細かく決められていますが、データに関しては適用されません。しかし電子化されることで、データそのものが原本として扱われるようになれば、データを一定期間決まった方法で保管しなければならなくなります。
決裁などの手続きに関しても、紙の書類に印鑑を押すのではなく、電子署名やタイムスタンプを利用してシステム上で行うという具合です。
行政文書・公文書の電子化の現状
行政文書や公文書の電子化は、あまり進んでいないのが現状です。内閣府の調査によれば、2022年度に新規で作成された公文書のうち電子化ファイルの割合は全体の30.8%程度にとどまっています。
ただし、電子化の進み具合は府省庁や機関によって大きな差が見られ、特に電子化が進んでいるのは海上保安庁や消費者庁、総務省などです。いずれも8割を超えています。海上保安庁にいたっては89.8%と9割に近い水準です。
一方、公安調査庁や厚生労働省、出入国在留管理庁などでは、5%以下でほとんど電子化が進められていません。
出典:内閣府「令和4年度における公文書等の管理等の状況についての報告」
政府が示している基本的な指針
行政文書や公文書の電子化に関して、政府は基本的な指針として次のようなことを示しています。
2026年を目途にすべての行政文書・公文書を電子化する
現状では行政文書や公文書の電子化はあまり進んでいませんが、政府は将来的にすべての行政文書や公文書を電子化することを目標として掲げています。その時期としては、新たな国立公文書館が開館する2026年が目処です。
そのため、今後数年で地方自治体などでも公文書や行政文書の作成や保管、扱いなどがこれまでとは大きく変化する可能性が高いと考えられます。行政文書・公文書の電子化が進んでいない地方自治体においては、今後対応していかなければなりません。
また、行政文書・公文書を電子データで作成したり保管したりするだけでなく、手続きのプロセス全体を電子化することも掲げられています。これにより、利便性や効率性が向上し、不正の防止につながります。
電子化後は電子原本化・フォルダ体系的整理を行う
すべての行政文書や公文書を電子化した後の管理方法としては、当面の間は電子原本化・フォルダ体系的整理を行います。電子データで作成した行政文書の原本をフォルダに保管しておきますが、フォルダの構造や名称を体系化します。また、ファイル名に関しては標準化するというやり方です。そうすることで管理を効率化できて、事後的に参照する際にもすぐに探し当てることができます。
また、フォルダは読み取り専用に設定し、サーバー上で保管する仕組みです。そうすることで、改ざんや削除ができなくなり、複製なども防止できます。さらにファイルによってはアクセス制御も実施してセキュリティを強化するという具合です。
その後はフォルダの管理権限を移管することで集中管理に移行します。
将来的には自動化・システム化された管理方法を目指す
行政文書や公文書の電子化が定着し、本格的な運用をするようになったら、自動化・システム化された管理方法を採ることを目指しています。
電子データで作成したファイルを原本として体系的管理を行い、メタデータを自動的に取得する方法です。データの作成者や日時、分類などがすぐにわかるようになります。
そして、長期保存フォーマットに変換されて行政文書ファイル管理簿と同期されます。自動的に行われるため管理簿に手入力する必要はありません。保管中はアクセスログを取り、電子署名やタイムスタンプなどを用いてセキュリティの強化を図ります。さらにサーバーを冗長化してデータの消失も防止するという具合です。
集中管理への移行は電子上で行えます。廃棄する必要がある場合にも電子上で行う仕組みです。
国立公文書館で行政文書・公文書はどのようにして管理されているのか
保存期間が満了した公文書は、国立公文書館に移管されます。その後は国立公文書館で保管されて一般公開される仕組みです。現状では公文書の一部が電子化されているため、紙の公文書と電子化された公文書が混在しています。では、紙の公文書と電子化された公文書が、それぞれどのようにして管理されているのか見ていきましょう。
紙媒体の公文書の管理方法
紙媒体の公文書は、原本が行政機関から国立公文書館まで運搬されて、紙媒体のまま書庫に入れて保存されます。閲覧する際にも紙媒体のまま見るという形です。また、一部の紙媒体の公文書に関してはデジタル化した上で保存されているため、画面上で見ることもできます。
電子化された公文書の管理方法
電子化された公文書の場合には、データが行政機関から国立公文書館に送信されて、データの状態で保存されます。ただし、受信したデータをすべてそのまま保存するわけではありません。ファイルによってはフォーマット変換が行われます。そして、閲覧する際にもデジタルアーカイブとして画面上で見ることが可能です。
すべての公文書が電子化されれば、国立公文書館では古い公文書を除いて紙媒体の公文書を扱うことはなくなります。
出典:国立公文書館「国立公文書館ニュース Vol.19」
行政文書・公文書を電子化するメリット
行政文書・公文書を電子化することで、どのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
行政の業務効率化
紙媒体の行政文書や公文書を作成するよりも、電子化された状態で作成する方が手間を削減できるのがメリットです。紙媒体だとパソコンで作成したものを印刷してファイリングするなどの手間がかかっていますが、電子化されればデータのままで済みます。後から内容を参照する必要が出てきたときにも、紙の書類だと探すのに時間と手間がかかりますが、データなら時間や手間はかかりません。行政の業務効率化を実現できるでしょう。
不正防止
行政文書や公文書を紙媒体で作成する場合には、改ざんなどの不正をしようとすればできてしまうこともあります。しかし、電子化されていれば、内容の変更などを行うと、その記録が残る仕組みです。データにアクセスできる権限の設定などもできます。そのため、意図的な改ざんは困難になり、不正を防止できるのがメリットです。
進捗状況の可視化
紙媒体で行政文書や公文書を作成して手続きを進める場合には、進捗状況の把握が難しいと言えます。担当者以外は、どこまで手続きが進んでいるのかわからないことも多いでしょう。その点、電子化されていれば進捗状況を可視化できます。関係者にとっても安心できるでしょう。
省スペース化
紙媒体の行政文書や公文書を保管するのには書庫が必要です。文書の多い行政機関では、書庫が庁舎内のスペースを多く占有しているところもあるでしょう。電子化されれば、書庫に保管する必要がなくなります。省スペース化が実現できて、庁舎内を広く使えるようになるでしょう。
コスト削減
紙媒体の行政文書や公文書を作成する際には、用紙代や印刷代などのコストがかかります。1通の文書だけであれば、大した金額ではないかもしれませんが、積み重なるとかなりのコストになります。また、作成後の行政文書や公文書をファイリングするためのファイルも必要です。電子化すれば、そのようなコストはかからないのがメリットです。
行政文書・公文書の電子化を進める上での課題
行政文書・公文書を電子化すれば多くのメリットがあるものの、課題もあります。では、どのようなことが課題になっているのでしょうか。
段階を経て電子化を進める必要がある
これまで紙媒体で行政文書や公文書を作成していた行政機関が、一気に電子化することは難しいのが実情です。電子化するにあたって専用のシステムを導入したり、職員に対して研修を実施したりするなどの準備が必要になります。いざ準備が完了して電子化を実施してもうまくいかないことが出てくることもあるでしょう。最初のうちは紙媒体の書類を作成するよりも時間がかかってしまうこともありえます。
そのようなことを踏まえて、段階を経て電子化していくのが望ましいと言えます。一気にすべての行政文書や公文書を電子化しようとすると、うまくいかずに頓挫してしまう可能性もあります。
電子化した公文書を扱いやすくする環境を整える必要がある
紙媒体の文書に慣れている人の場合には、電子化された文書を扱うのに時間がかかってしまうこともあります。そのような状況だと、電子化のメリットが損なわれてしまうため、行政文書や公文書を電子化する際には、できるだけ扱いやすい環境を整えることが重要です。システムを選ぶ際にもユーザビリティを重視するようにしましょう。
見読性を担保する必要がある
電子化した行政文書や公文書は、後から人が読んで内容を理解できるものでなければなりません。単に記録を残しておくだけだと、内容が失われたり、書き換えられたりする可能性もあります。また、長期的に見ることが可能なファイル形式やデータ保存方法などに留意しておくことが重要です。また、記録を残すとともに、その記録に対する説明も残しておくことが必要となります。
行政文書・公文書の電子化における諸外国の現状
行政文書や公文書の電子化に関して、諸外国ではどのような状況にあるのか見ていきましょう。
アメリカの状況
アメリカではオバマ政権時代の2012年、行政文書や公文書の電子化を必須とする方針が示され、「2023年以降はアメリカ国立公文書記録管理院では、電子フォーマットの文書のみを受け付ける」という目標のもと、公文書の電子化が進められてきました。
また、公文書がアメリカ国立公文書記録管理院に移管される際には、一元化されたシステムが利用されています。保管されている文書は公開されており、オンラインで記録を検索したり閲覧したりすることが可能なデジタル記録も豊富にあります。
イギリスの状況
イギリスでは2013年に国立公文書館への電子記録の移管を開始しました。電子文書を管理するのに必要なツールなども多く開発されています。最近採りではAI技術や機械学習などを採り入れて管理することも検討されています。
オーストラリアの状況
オーストラリアでは既に2016年以降は、行政文書や公文書は電子化することを原則としています。国立公文書館へ移管する文書に関しても、電子化されたもののみを受け入れる方向で取り組みが進められています。さらに古い公文書に関してもデジタル化が進められており、一部の公文書に関してはデジタル化後に原本の破棄まで認めているという状況です。
まとめ:将来的にすべての行政文書や公文書が電子化される予定
行政文書・公文書の電子化は現状ではまだあまり進んでいませんが、政府は2026年までにはすべて電子化する方針です。行政文書・公文書を電子化することで、行政の業務効率化につながり、不正防止などのメリットも生まれます。諸外国では日本よりも行政文書・公文書の電子化が進んでいるところが多くあります。
各行政機関には、段階を踏んで少しずつ電子化を進めていき、電子化された文書を扱いやすい環境を整えることが求められます。
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