入札談合とは「ゼネコン」「カルテル」のように、数十年前から長く存在しています。しかし、実際には刑法などの法律に抵触する違法行為であり、場合によっては法人に億単位の罰金が科せられるケースもあるのです。
本記事では入札談合の概要や科せられる罰則、具体的な事例について詳しく解説します。
目次
入札談合とは
入札談合とは、国や地方自治体などの公的機関が行う入札において事前に関係者が協議しておき、受注者や金額などを決める行為です。また入札には工事の実施や物品の購入などがあり、民間企業に依頼して事業を委託する仕組みとなっています。
入札は、本来より良い内容や金額で事業を行う業者に依頼するために行われます。この競争原理によって、健全な取引が成り立つのです。
しかし、入札談合が行われると公正な競争を阻害するだけでなく、工事金額を過大に上乗せできてしまうなどの支障が生じます。また民間企業は事業の出来栄えやコスト削減などの点を気にする必要がなくなってしまいますので、経営向上へのモチベーションが失われてしまうでしょう。
ゼネコンやカルテルとの違い
入札談合と類似している単語として、ゼネコンやカルテルが挙げられます。それぞれの用語について詳しく解説します。
ゼネコン
ゼネコンとはGeneral Contractorの略称であり、総合的に建設を請け負う事業者を指します。入札談合は建設業界でよく見られるため、ゼネコンは関わっているケースが多いです。特に大手ゼネコンは公的機関も交えた大規模な入札談合に関わることが多いので、話題になりやすいです。
カルテル
カルテルとは、同じ業界に所属する企業が通じ合って、本来それぞれの企業が独自に決めるべき製品の価格や生産数量などを取り決めておく行為です。入札談合と同様に、事業者が協力して健全な取引を阻害する点は共通していますが、カルテルは一般的な経済活動で行わる一方で入札談合はおおむね入札のみに関する行為である点が異なります。
入札談合は2種類ある
入札談合はその内容から、以下の2種類に大別できます。
・事業者間の入札談合
・官製談合
それぞれ詳しく解説します。
事業者間の入札談合
入札では、複数の事業者が参加してその内容や金額から受注する事業者を決定します。しかし、事前に事業者同士が集まって入札で提示する内容や受注する事業者を事前に決めておく行為が入札談合に該当します。
官製談合
官製談合とは、事業者だけでなく、事業を発注する公的機関も入札談合に関与する行為です。本来中立公正であるはずの公務員が健全な取引を阻害するケースであるため、より悪質性が高いと考えられます。
入札談合は法律で規制されている
入札談合は法律で厳格に規制されている違法行為です。その内容や罰則について詳しく解説します。
刑法に該当する
入札談合は、談合罪(刑法第96条の6の2)または公契約関係競売等妨害(刑法第96条の6の1)に該当する違法行為です。
第九十六条の六 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。
引用元:刑法|e-Gov 法令検索
罰則として、3年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金、または両方が科されます。また違反した事業者は指名停止処分を受けるのが通例であり、一定期間入札に参加できなくなります。
独占禁止法でも禁止されている
入札談合は独占禁止法でも禁止されており、不当な取引制限として扱われます(独占禁止法第3条)。まず独占禁止法第2条 第6項では、以下のように規定されています。
⑥ この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
引用元:昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)|e-Gov 法令検索
この条文における『不当な取引制限』が入札談合に該当します。そして同法第3条で禁止されており、罰則として5年以下の懲役か500万円以下の罰金のどちらかが科されます。また両罰規定(役員や従業員が法人の業務で違法行為を犯した場合、その個人だけでなく法人も罰せられる規定)から、法人には5億円もの罰金が科されます。
独占禁止法に違反した場合でも指名停止処分を受けることがありますが、他にも違法行為に対する排除措置命令や課徴金納付命令が出されるケースもあります。
官製談合も対象となる
先ほどの2つの法律は主に事業者間の入札談合が対象ですが、官製談合を規制する官製談合防止法という法律もあります。官製談合では、本来公平であるはずの公務員が違法行為に関与したことから、官製談合に関わった公務員には5年以下の懲役または250万円以下の罰金が科されます(官製談合防止法第2条第5項)。また公契約関係競売等妨害(刑法第96条の6の1)も適用されますので、より重い罰則が科されます。
社会的信用の失墜にも
入札談合は入札の健全性や競争原理による企業の成長などを損ねる違法行為であるため、発覚した場合には関わった企業の社会的信用を失墜させてしまうリスクも懸念されます。特に現代ではテレビや新聞だけでなく、SNSによって拡散されてしまうケースも多いため、取引先だけでなく個人の顧客にも影響する可能性も考えられます。
入札談合の事例
入札談合についてより深く理解するために、実際にどのような入札談合が行われてどんな罰則が科せられたのかご紹介します
独立行政法人国立病院機構の医薬品発注における入札談合
令和5年3月に公正取引委員会から独立行政法人国立病院機構(NHO)が発注する医薬品の入札において、参加した6社が独占禁止法に該当することが公表されました。その6社は入札前に受注社を決定しておいて、それ以外の事業者は受注予定者の金額を上回る入札価格を提示していました。
この入札談合に対して、公正取引委員会は参加事業者に対して排除措置命令と課徴金納付命令を下しました。具体的には、今後受注予定者を決めておかないことや定期監査が命じられ、またほとんどの事業者に対して課徴金の支払いが命じられて、5077万円~1億9119万円を納付することになりました。
【参考】(令和5年3月24日)独立行政法人国立病院機構が発注する九州エリアに所在する病院が調達する医薬品の入札参加業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令について | 公正取引委員会
警察官用制服類の入札談合
令和2年6月に公正取引委員会から山形県が発注する警察官用制服類の入札において、独占禁止法第3条に違反した5社に対する罰則が公表されました。それらの事業者は、警察官用制服類の入札で受注価格を引き上げて価格の下落を防止するために、受注予定者以外の事業者は受注予定者に協力することを合意していました。
また山形県から見積もり価格の提示依頼があった場合には、受注実績等から受注予定者を決定して、予定価格が前年度の落札金額より高くなるように協力していたのです。この入札談合に対して、公正取引委員会は3社に対して排除措置命令を下し、別の1社には課徴金として141万円の納付命令を下しました。
【参考】(令和2年6月11日)山形県が発注する警察官用制服類の入札等の参加業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について | 公正取引委員会
入札談合はどうやって行われている?
入札談合は違法行為であるため、外部に情報が漏洩しないように厳重な体制が行われていると言われています。例えば、入札に参加する事業者の代表取締役や担当者などを何らかの名目で呼び出し、会議の内容は記録に残らないようにレコーダーやメモなどは一切禁止されているようです。
しかし、それぞれの事業者が提示する価格や入札の結果などから露呈しますので、隠匿することは実際には困難と言えるでしょう。
企業生命を脅かす入札談合
入札談合は健全な取引や企業の成長を妨げる悪質な行為であり、刑法や独占禁止法などの法律で明確に禁止されています。しかし、それでも入札談合が発覚するケースは後を絶ちません。
両罰規定によって個人・法人ともに厳しい罰則を受ける違法行為であり、社会的信用の失墜もあいまって企業生命に関わる重大な問題ですので、企業全体で入札談合に参加しない取り組みを実施することが求められています。