高齢の親がいる人の中には、介護に関する悩みに直面している人も多いかもしれません。親の身体的機能が衰えて日常生活が送れなくなると介護が必要になりますが、自身が40代や50代前半なら働き盛りの年齢です。介護に専念するというわけにはなかなかいかないでしょう。そのため、どうやって親の仕事と介護を両立させるか悩みを抱えているのではないでしょうか。
本記事では、親を介護しながらできる仕事や両立させるポイントについて解説していきます。
目次
親の介護と仕事の両立が難しい理由
当初は仕事と介護を両立させるつもりだった人の中にも、実際にやってみると大変で、仕事を辞めざるを得なくなってしまうケースもあるようです。では、なぜ親を介護しながら仕事を続けていくのが大変なのか、主な理由について見ていきましょう。
上司や同僚からの理解を得にくい
親を介護していると、残業を断ったり休みを取ったりしなければならないことが増えます。1回や2回であれば、上司や同僚も理解を示してくれることが多いでしょう。しかし、頻繁な場合、次第に理解を得られなくなってしまう可能性があります。休みが多くなれば業務を引き継いてもらう必要も生じるため、職場の中には不公平だと感じる人もいるかもしれません。
仕事の内容によっては、社内の上司や同僚だけでなく、社外の取引先などにも迷惑がかかってしまう場合もあります。
そのような状況が長く続くと、次第に職場にいづらい雰囲気になってしまうでしょう。
育児とのダブルケアになる場合もある
晩婚化の影響もあり、40代くらいの年齢だと、未就学児の子供がいて育児をしている人もいるでしょう。そのような状況下で、親の介護が必要になるケースも珍しくありません。
介護と育児はどちらも大変なものですが、その2つを同時進行で行うことになります。さらに仕事も両立させるとなると、相当大変になるでしょう。
終わりが見えない
高齢になった親の介護は、ケガや病気が治るまでの一時的な身の回りの世話をする場合と違って、終わりが見えません。そのため、精神的な負担が大きくストレスを抱えてしまう人も少なくありません。ひどい場合には介護殺人などの事件に発展してしまうケースもあります。
仕事でストレスを抱えた上で、さらに帰宅後は介護でもストレスを抱えるとなれば、非常に厳しい状況です。
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とはいえ介護離職にも大きなリスクがつきまとう
介護と仕事の両立が厳しいために、仕事を辞めて介護に専念しようと考えている人もいるでしょう。実際、そのような選択をする人も多く、介護離職と呼ばれています。
介護離職は2013年以降に大きく増加しており、2013年から2017年にかけては毎年9万人程度が介護離職しています。男性よりも女性の離職者が多いですが、直近では男性の割合も増えてきています。
参考:内閣府ホームページ「介護離職の現状と課題」
介護離職をすると、介護に専念できるため肉体面や精神面でのきつさはいくぶん和らぐでしょう。しかし、次のような理由から介護離職はリスクが大きく、あまりおすすめできません。
再就職が難しくなる
今後ずっと介護に専念するのではなく、状況が少し落ち着いたら再就職をしようと考えている人もいるのではないでしょうか。
しかし、介護離職をして介護に専念している期間は無職として扱われます。再就職活動の際に、無職の期間があると採用上不利に扱われることも多く、介護のためにやむをえず仕事を辞めたことを説明しても理解してもらえない場合もあるかもしれません。
また、介護に専念している間は、仕事上のスキルが向上しないため、即戦力となりにくくなります。そのような理由から、長期間介護離職した人の採用を控える企業もあります。
このように、介護離職後は再就職のハードルが高くなり、以前までと同水準の収入を得られる仕事に就くのは難しくなるでしょう。
収入が減少する
当然のことながら、介護離職すれば給与収入がなくなります。収入がゼロになってしまったり、他に収入源があったとしても大幅に減ってしまったりすることは大きなリスクになります。
また会社員の場合、厚生年金からも脱退しなくてはならないため、将来受け取る年金の金額が減ってしまうリスクも考えられます。
社会とのつながりがなくなる
働いていれば、何かしら社会とのつながりを持つことができます。しかし、介護離職してしまうと、仕事を通じた社会とのつながりが失われてしまいます。孤独な環境になることが多く、仕事と介護を両立させるよりもかえってストレスを抱えてしまうかもしれません。
親の介護と両立しやすい仕事の条件
先述した通り、介護離職のリスクは高いため、親の介護が必要な場合でも、介護に専念するのではなく仕事と両立するほうが望ましいといえるでしょう。ただし、仕事によって介護との両立の難易度に差があります。それでは、どのような仕事であれば、親の介護と両立しやすいのでしょうか。
時間的な融通が利きやすい
親を介護していると、親が突然体調を崩すことなどもあり、通院に付き添わなければならないことが多くあります。そのため、一般的なサラリーマンのように、決まった時間に毎日出社してフルタイムで働くのは難しいのが実情です。
逆にいえば、ある程度時間に融通が利き、休みを取りやすい仕事であれば、親の介護をしながらでも働きやすいでしょう。
在宅で行える
最近では在宅でできる仕事も増えています。会社に出社して仕事をする場合と比べて、通勤に時間がかからず、仕事中でも親に何かあったらすぐに対応できます。
理解を得られやすい
毎日同じ時間に出社してフルタイムで働く仕事でも、職場からの理解が得られるかどうかで介護との両立のしやすさが違ってきます。休みを取ることが多かったり、残業ができなかったりしても問題ない職場なら、介護との両立もしやすくなるでしょう。
自分が休んでも他の人への影響が小さい
仕事を休むことが多くなると、自分が担当している仕事を代わりに対応してもらわなければならなかったり、取引先とのやり取りにも不都合が生じたりするなど、上司や同僚、取引先などに少なからず影響が出てしまいます。
そのため、自分が休んでも他の人への影響が小さい業務や時間の融通が利く業務が中心であれば、気兼ねなく休みを取れるため、親の介護と両立しやすいと言えます。
親の介護と両立しやすい仕事の具体例
それでは、親の介護と両立しやすい働き方の具体例を紹介します。
派遣
派遣の仕事は、勤務日数や時間が正社員と同じものもあれば、少ない勤務日数や短時間で働けるものもあります。また、基本的に残業はありません。残業がある仕事の場合には、契約締結時にきちんと説明され、雇用契約書にも明記されます。残業なしの派遣先のみを紹介してもらうことも可能です。
さらに、派遣の仕事は、パートやアルバイトなど、他の非正規雇用の仕事と比べると、時給が高めなため、フルタイムでなくても比較的多く稼げます。また、派遣先でトラブルに遭ったときに、派遣会社がサポートしてくれるのもメリットです。
パート・アルバイト
フルタイムで働くのが難しい場合には、パートやアルバイトで働く選択肢もあります。パートやアルバイトは、時間の融通が利きやすく、親の介護と両立がしやすい働き方です。もし、自宅近くで希望する条件に合うパートやアルバイトの求人があれば、応募してみても良いかもしれません。
ただし、パートやアルバイトは時給があまり高くありません。その上、労働時間も短いとなれば、収入も必然的に少なくなってしまいます。
とはいえ近年、最低賃金は大幅に増加しています。
参考:最低賃金、全国平均1054円 上げ幅50円は過去最大
在宅勤務の会社員
新型コロナウイルスが流行して以降、在宅勤務を導入する企業が急増しました。現在でも、在宅勤務の制度を設けている企業は多数あります。
もし、現在の勤務先で在宅勤務の制度を設けているのであれば、上司や人事部門に相談してみましょう。在宅勤務がメインの勤務形態にしてもらえることができれば、転職をする必要はなく、現在の勤務先に籍を置いたままで済みます。
在宅勤務は、会社員であっても自由度は高めで、親の介護と両立しやすいでしょう。
在宅ワークのフリーランス
フリーランスというのは特定の企業に雇用されず、個人事業主として仕事を請け負って収入を得る働き方をする人のことです。最近では働き方が多様化しており、フリーランスとして働いている人も珍しくありません。
フリーランスなら、仕事の量などは基本的に自分の都合に合わせて調整できます。仕事をする時間や休む日なども自由です。
そして、フリーランスとして行っている仕事の内容によっては、在宅で完結させることもできます。たとえば、WebライターやWebデザイナー、Webマーケターなどは在宅ワークの形態で働いている人が多い職種です。
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親の介護と仕事を両立させるコツ
親を介護しながら仕事をするのであれば、自分だけで無理をするのではなく、公的な制度や親族などの支援も視野に入れておきましょう。
公的な支援制度を利用する
介護が必要になった人やその家族のために、国ではさまざまな支援制度を設けています。公的な支援制度を活用することで、家族にかかる負担を軽減できることも多々あります。
たとえば、雇用保険には介護休業給付金という制度があります。家族の介護のために仕事を休む場合に給付金を受け取れる制度です。ただし、常時介護を要する場合が対象で、同一の被介護者に関して最大で93日間(最大3回に分割可能)などの制限もあります。それでも、親の介護をしながら働く人にとっては大きな助けになるでしょう。介護休業給付金の制度を利用することで、介護離職せずに済む場合もあります。
なお、介護休業給付金は、現在仕事をしている人が介護で仕事を休んで、後に復帰することを支援する制度です。そのため、すでに介護離職してしまっている人は利用できません。
介護休業給付金の他に介護休暇という制度もあります。家族の介護をするために年間で5日まで休暇を取得できるというものです。介護休業給付金を取得するほどの状態でなくても、通院の付き添いで休むときなどに取得できるため活用しましょう。
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家族や親戚を頼る
親の介護の問題を自分1人で抱えてしまうのは極力避けましょう。きついと感じたら、家族や親戚などに相談することで、介護を分担できるようになるかもしれません。たとえば、兄弟が交代で介護すれば、負担を軽減できます。
そのためにも、親がまだ元気なうちに、介護問題について家族で話し合っておくのがおすすめです。
自治体や専門家などに相談する
遠方に住んでいたり、あまり仲が良くなかったりするなど、家族や親戚を気軽に頼れない人もいるでしょう。その場合には、自治体や専門家に相談してみるのがおすすめです。
たとえば、介護について担当している自治体の部署で相談を受け付けていることがあります。また、地域包括支援センターなどでも解決策を提示してもらえる可能性があります。
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まとめ:派遣や在宅ワークなどは介護と両立しやすい
親を介護しながら仕事も両立させるのは非常に大変です。しかし、介護離職はリスクが高いため極力避けましょう。働く条件や環境などによっては、親の介護と両立できる仕事もあります。
休みを取りやすい仕事や時間の融通が利きやすい仕事だと、親の介護と両立しやすくなります。正社員やフルタイムだと厳しいかもしれませんが、短時間の派遣なら親の介護と両立できる場合があります。在宅ワークなども選択肢の1つです。公的な支援制度などもうまく活用しながら、乗り切っていきましょう。
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