会社の経営者や経理・総務・購買といったバックオフィス担当者は、普段の業務で、印紙税の納付のために収入印紙を利用することが多いのではないでしょうか。
印紙税の発生する文書に収入印紙の貼付を忘れてしまうと、過怠金というペナルティとなる税金が課されてしまいます。そこで、本記事では、収入印紙が必要なケースや額面、使用方法などを解説します。この機会に改めて収入印紙への理解を深め、印紙税の支払いミスをなくしましょう。
目次
収入印紙の基礎知識
収入印紙の額や必要となる書類については知っていても、購入場所や使用方法を知らない方も多いのではないでしょうか。まずは、収入印紙の概要について解説します。
そもそも収入印紙とは
収入印紙とは、税金や手数料を支払う目的で、書類に貼り付ける切手のような紙(証票)のことです。利用の例としては印紙税や不動産登記時の登録免許税、手数料の代表例としては国家試験の受験手数料や免状の交付申請手数料などが挙げられます。
一般的には印紙税の支払いのために収入印紙を使用するケースが多いため、この記事では印紙税を例にとって見ていきましょう。
印紙税の納税額の収入印紙を購入して書類に貼り付け、消印をすることが、印紙税を納税したことの証明となります。印紙税の課税対象となる書類には、領収書や契約書、約束手形などがあり「印紙税法」という法律で定められています。詳細については、次の見出しでご確認ください。
収入印紙の購入方法
収入印紙は、財務省によって発行され、委託を受けている日本郵便株式会社によって販売されています。
具体的には、郵便局や法務局、コンビニエンスストアなどで購入できます。また、タバコ販売店や酒店など、郵便マークの看板がある個人商店でも購入できる場合もあります。収入印紙を入手するのは難しいことではありません。
収入印紙の使用方法
書類に収入印紙を貼り付け、消印を押すことで印紙税の支払いが完了します。消印とは、収入印紙と書類の双方にまたがって押印(割印)ないし署名を行うことです。押印する位置は、収入印紙の上下左右いずれでも構いません。署名する場合は、水やこすれなどで消えないようにボールペンや万年筆を使うようにしましょう。
書類によっては、収入印紙の貼付箇所を指定しているものもありますが、書類の左上の余白部分に貼ることが一般的です。
収入印紙が必要な主な書類と印紙税額
収入印紙は、領収書・契約書・約束手形・株券や出資証券など、幅広い種類の書類に用いられます。ここでは、どのような書類が貼付の対象なのか、そして、どれくらいの印紙税額(=貼る収入印紙の額)となるのかをご説明します。
5万円を超える金額の領収書
商品やサービスに対する「金銭又は有価証券の受領事実を証明する領収書」には、収入印紙が必要です。ただし、すべての領収書に収入印紙を貼付しなければならないわけではありません。受け取り金額が5万円未満の領収書であれば非課税であり、収入印紙の貼付も不要です。スーパーやコンビニエンスストアでの買い物で、レシートに収入印紙が貼られているのを見ることはほとんどないのは、このためです。
原則として金額に消費税は含みませんが、消費税額が領収書に記入されている場合は、あくまで本体価格のみ、税抜きの金額で判断されます。仮に金額が5万1,000円でも、税抜きの金額が5万円を下回っていれば非課税です。
記載金額によって、以下の通り印紙税額は異なります。
記載金額 | 税額 |
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5万円未満 | 非課税 |
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5万円以上100万円以下 | 200円 |
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100万円超200万円以下 | 400円 |
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200万円超300万円以下 | 600円 |
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300万円超500万円以下 | 1,000円 |
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500万円超1,000万円以下 | 2,000円 |
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【出典】国税庁「No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書」
印紙が必要な契約書
請負契約書、不動産売買契約書など、一部の契約書にも収入印紙の貼付が必要です。
請負契約に関する契約書
請負契約とは、受注者(請負人)が受注した業務の完成を約束する一方、発注者がその完成の対価として報酬の支払いを約束する契約を指します。建設工事のように有形のものに限らず、警備、機械保守、清掃などの無形の役務提供も含まれるのが特徴です。具体的には、工事請負契約書、物品加工注文請書、広告契約書、会計監査契約書、プロスポーツ選手や俳優の専属契約書などが挙げられます。
領収書と同じように、請負契約書に対する印紙税も契約金額に応じて以下のように変動します。
記載された契約金額 | 税額 |
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1万円未満のもの | 非課税 |
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1万円以上100万円以下 | 200円 |
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100万円を超え200万円以下 | 400円 |
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200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
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300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
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500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
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1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
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5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 |
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1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
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5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
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10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
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50億円を超えるもの | 60万円 |
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契約金額の記載のないもの | 200円 |
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【出典】「No.7102 請負に関する契約書」(国税庁)
※建設業法第2条第1項に規定する建設工事の請負に係る契約に基づき作成される契約書は2024年3月まで税額が軽減されています。
継続的取引の基本となる契約書
請負契約以外の契約書でも、契約当事者による印紙税支払いの対象となるものがあります。特定の相手との間で、継続的に生じる取引の契約書です。「特定の相手」および「継続的に」というのがキーワードであり、相手が不特定であったり単発であったりする場合は含まれません。また継続的であっても、契約期間が3カ月以内で、更新の定めのないものも含まれません。
具体的には、売買取引基本契約書、代理店契約書、業務委託契約書、銀行取引約定書などが該当します。印紙税額は、一律で4,000円です。
約束手形又は為替手形
約束手形・為替手形とは、売上や仕入れの決済に用いる手形(一定金額の支払いを約束する書類)を指します。発行人が受取人に一定金額の支払いを約束するためのものが約束手形、発行人が第三者に委託して受取人に一定金額を支払ってもらうためのものが為替手形です。ただし、銀行間での口座振替が普及した現在では、為替手形の利用はほとんどありません。
これらの手形に対する印紙代は、金額の記載の有無で変わります。金額の記載がある場合は、その金額に応じて印紙税がかかります。詳細は国税庁のページをご確認ください。
【出典】
「No.7103 約束手形又は為替手形」(国税庁)
「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」(国税庁)
金額の記載のない手形については、振り出しの際は非課税であり、後になって金額を補充した際に補充した人に対して上記の金額の納税義務が発生します。また振出人の署名がなく、引受人の署名がある場合ですと、引受人が「手形作成者=納税義務者」です。
収入印紙が不要であるケース
5万円未満の領収書や単発契約の契約書など、収入印紙の貼付のいらないケースをご紹介してきました。ご紹介した以外にも、収入印紙が不要のケースがありますので、ここでご紹介します。
クレジットカードを利用した領収書
税抜き代金が5万円以上であっても、クレジットカードを利用した領収書に対しては収入印紙を貼付する必要はありません。これは、クレジットカードによる取引の場合、現金や有価証券の直接的なやり取りが発生せず、「信用取引」にあたるためです。
電子領収書のメリットとは?
国税庁は、「クレジット販売の場合には、信用取引により商品を引き渡すものであり、その際の領収書であっても金銭又は有価証券の受領事実がありませんから、表題が「領収書」となっていても、(中略)この領収書には印紙を貼付する必要はありません」と見解を示しています。ただし、領収書には「クレジットカードを利用した」旨の記載が必要となります。
【出典】「クレジット販売の場合の領収書」
電子契約
印紙税の課税対象は紙で作成した書類であるため、電子契約に対する収入印紙の貼付義務はありません。例えば、請負契約であってもパソコンやスマートフォンなどを通じた電磁的記録としてやり取りされ契約を締結した場合は、印紙税がかかりません。
国税庁は、課税対象となる文書の「現物の交付がなされない以上(中略)印紙税の課税原因は発生しない」と見解を示しています。
【出典】「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」(別紙1-3、国税庁)
電子契約には、印紙税がかからないほかさまざまな導入メリットがあります。
電子契約の導入手順を知りたい方必見!
【この資料で分かること】
・電子契約の導入手順のイメージがつく
・どの書類から電子化するか、ワークフローの設定はどうするかなど、現在の契約業務フローを電子化に置き換えるイメージができる
詳しくは、電子契約書を利用するメリットと注意点にてご紹介しております。また、費用対効果シミュレーションページより、具体的なコスト削減額などご確認いただけます。
無料の「お試しフリープラン」もございますので、費用対効果や使いやすさを検証いただいた上で電子契約への移行が可能です。
なお、書面による契約から電子契約に移行する際には、その契約が対象となっているかどうかを確認しておく必要があります。電子契約が使える文書や契約類型についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
収入印紙の気になる疑問
収入印紙や印紙税に関連して、よくある疑問点とその回答や注意点を見ていきましょう。
- 印紙税を払わないとどうなる?
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印紙税を納めないと、印紙税法の規定に基づき、故意・過失を問わず、過怠税として印紙の額面金額の3倍の支払いが書類の発行者に対して課せられます。本来納付すべき印紙税に、印紙税の2倍の過怠税が徴収されるということです。
例えば、税抜きで10万円の領収書にかかる収入印紙の貼付を忘れた場合、本来は200円の収入印紙が必要なため、領収書の発行者に600円の納税が課せられます。税務調査などによって納税漏れが発覚すると企業のレピュテーションリスク(ネガティブな評判が広まるリスク)につながりますし、納税額が大きいと納付を忘れた際の負担も高額になりますので、注意してください。
- 収入印紙を間違えて貼ったらどうすればいい?
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収入印紙の額が不足していた場合は、貼り忘れと同様に過怠税を支払うことになります。
反対に、過剰な金額の収入印紙を貼付したり、貼付不要な書類に収入印紙を貼付したりした場合は、還付されます。税務署に問い合わせて、還付可能であれば還付手続きを行いましょう。その際、収入印紙を貼り間違えた書類や、印鑑を持参します。
- 収入証紙との違いは?
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収入証紙は、地方公共団体が使用料や手数料等を徴収するための手段として発行する証票です。収入印紙が国税への支払いを目的としたもので、収入証紙は地方税を支払うことを目的としたものです。収入証紙は、税事務所や指定金融機関などの証紙販売所で購入できます。ただし、東京都や広島県など収入証紙を廃止している地方公共団体もあります。
まとめ
収入印紙は、税金や手数料の支払いを証明する重要な証票です。書類の種類や取引・契約金額に応じて、収入印紙の要不要や価格が異なります。利用する際は国税庁のホームページで最新の情報を確認し、過怠税の支払いや還付の手続きなどを余儀なくされることのないようにしましょう。