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暴力団などの反社(反社会的勢力)と取引を防ぐために行われるのが「反社チェック」で、別名「コンプライアンスチェック」とも呼ばれています。ここでは反社チェックを行わなければならない理由や、反社との取引によって発生しうるリスクなどを紹介します。また、実際に反社チェックを行う方法や、もし取引先が反社と判明した場合の対応方法など、健全な企業活動に欠かせない反社チェックについて具体的に解説します。
反社チェックとはどのようなものなのでしょうか。基礎知識を得るため、「反社(反社会的勢力)」がどのようなものか、反社チェックについて解説します。
企業が契約や取引を始める前に、相手が反社(反社会的勢力)に関係していないか見極める作業のことです。反社とは暴力団などが経営する企業、フロント企業などのことで、暴力団などの資金を得るため、その多くはその事実を隠して経済活動を行い、一般の企業に接触しようとしています。
政府は2007年に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を発表しました。指針には「反社会的勢力による被害を防止するための基本原則」として5つの原則が明記されています。
・組織としての対応
・外部専門機関との連携
・取引を含めた一切の関係遮断
・有事における民事と刑事の法的対応
・裏取引や資金提供の禁止
この指針を受け、反社会的勢力排除=反社の資金源を断つことを目的に、各都道府県では2009年から2011年にかけて「暴力団排除条例」を制定しています。暴力団排除条例では、反社との取引を防ぐため、以下の対応を求めています。
・契約締結時に暴力団関係者であるか否かの確認
・契約書への暴力団排除に係る特約条項追加
・暴力団関係者への利益供与禁止
例えば東京都暴力団排除条例では「疑いがあると認められる場合、暴力団関係者でないかを確認するよう努める」と定められており、取引前の反社チェックを推奨しています。
反社に含まれる範囲は広くあいまいなため、取引を行おうとしている企業が反社に該当するのか見極めることは難しいものです。一般的に暴力団関係者のみを対象としているように思えますが、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(法務省)」によると、反社とは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人(半グレ集団、詐欺集団)」や、「暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等」を指すと規定されています。
また、警視庁の東京都暴力団排除条例によると、「暴力団員と社会的に避難されるべき関係を持つもの」も暴力団関係者と定義されています。具体的には「暴力団員と知りながら頻繁に飲食をともにする場合」「結婚式など多数の暴力団員が集まる行事に出席している場合」なども暴力団関係者となります。
このように反社を見極めることは大変難しいため、さまざまな反社チェックの方法を組み合わせた判断が必要です。
反社チェックは企業のコンプライアンスだけの問題ではありません。もし取引を行ってしまったときにトラブルが生じることも。改めてその必要性を解説します。
・反社と取引を行ったときに起こるリスク
反社と取引を行った場合、反社に対して資金提供を行ったとみなされる恐れがあります。暴排条例違反で罰則が科されたり、行政指導が行われたりする可能性も考えられます。さらに、上場廃止や銀行からの融資停止といったリスクを受ける可能性や、コンプライアンス違反企業といったレッテルを貼られる場合もあります。
取引先企業が反社であることを分かっていながら、それを隠蔽して取引を行った場合には、それ相応のペナルティが科されます。例えば2015年、割当予定であった企業が反社であることを知りつつ、名古屋証券取引所に報告しなかったとして、ある上場企業が上場廃止となりました。
・反社と知らずに取引を行った場合にもリスクがある
東京都暴力団排除条例では、取引相手が反社であることを知らずに契約、取引した場合は利益供与違反には当たらないとしています。具体的には「送迎に利用すると説明を受けてマイクロバスを貸したところ、相手が暴力団員だったことが後から判明」といったケースです。
しかし反社と知らずに契約した場合、条例などの違反に当たらないとしてもリスクがあります。たとえ自社がクリーンな経営を行っていたとしても、反社との取引によって反社との付き合いがある会社などと風評が立つことで企業の信用が傷つき、今度の経営に大きな損害を与える可能性があるのです。反社との取引は相手が反社であることに気が付かなくても大きなリスクとなり、企業の存続の危機に直結するものなのです。
そのほかにも反社との取引は大きなリスクを招く恐れがあります。具体的には「(反社である)われわれと付き合いがあることを公表する」などと脅迫や恐喝が行われたり、不当要求されたりなどのトラブルが起こるといった被害です。
こうした被害は、会社ばかりか従業員が長期にわたって危険にさらされる可能性もあります。反社による不当要求は、人に与える恐怖感が大きいことから従業員だけでは拒否できず、要求に応じざるを得ない状況になると同時に、企業はそうした事態に気が付きにくいからです。
反社チェックが重要なものであることを説明しましたが、それではどういった場合に反社チェックを行えばよいのでしょうか。
まず、新規取引の場合、取引企業や税理士、弁護士などといった取引企業の外部関係者を対象に反社チェックをします。既存取引先との継続取引の場合は一定期間ごとに反社チェックを行いましょう。
自社の役員就任時には就任前に反社チェックを行います。このとき、本人だけでなく、親族や親族が経営する企業なども対象とすることが重要です。同様に従業員を雇用する場合も、入社前に反社チェックを行いましょう。
株主を増やす、変更する場合も反社チェックを忘れてはなりません。株主になる前に、その個人の反社チェックを行い、株主になろうとするものが法人の場合には、その代表者や役員、組織の外部関係者を反社チェックします。
実際に反社チェックをする場合、どのような方法で行えばよいのでしょうのか。ここでは自社で確認する方法や、第三者機関での調査方法などを解説します。
・反社条項の反応を見る
東京都暴力団排除条例では「暴力団排除に係る特約条項」を契約書に定めるように努める旨を定めています。この特約条項は、反社であることが発覚した場合、契約を解除し関係を遮断するためのものです。もしこの項目に対して、契約を結ぼうとした企業が条項の排除や修正を求めるといった不審な反応をした場合、反社の疑いがあると見て反社チェックの調査を行います。
なお「暴力団排除に係る特約条項」は、警視庁などのWebサイトにモデル条項として公開されているため参考にできます。このモデル条項には「反社会的勢力の排除」という項目に「催告なしで本契約を解除できる」契約解除の条件が書かれています。例えば「相手が反社だと判明した場合」のほか、「第三者を利用しての暴力的な要求」といった範囲の広い内容や、「再委託先が反社であった場合」など、反社が契約しにくい内容です。
また、取引前に「反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書」を提出してもらうのも有効な方法です。相手が提出を渋る、確約書の提出が遅い、といった場合も反社の疑いがあると考える必要も出てくるでしょう。
・新聞のデータベースやインターネットで検索する
「データベーススクリーニング」と呼ばれる、新聞のデータベース検索やインターネットのキーワード検索を活用した反社チェックです。
新聞記事のデータベースを使って法人名や取締役などの役員、株主の氏名などを検索します。新聞記事のデータベースは新聞各紙が提供しているものを利用するほか、新聞記事を横断的に検索できるサービスや、新聞記事を使った反社チェックに特化したサービスなどもあります。
同様に、インターネットの検索エンジンでも法人名や取締役などの氏名を検索し、過去のトラブルや関係などを調査します。このとき、「暴力団」「総会屋」「検挙」「摘発」などといったキーワードを加えることで、検索結果を絞り込めます。以下に検索を行うときに使えるネガティブワードの例を紹介します。
*インターネットでのキーワード検索時に使用するネガティブワードの例
暴力団 総会屋 検挙 摘発
逮捕 違反 脱税 行政処分 行政指導
詐欺 不法 違法 被害 脅迫 恐喝
横領 漏洩 着服 粉飾 迷惑 不正 など
なおインターネットでの検索の場合、比較的新しい情報は得られるものの、過去に起こった古い情報が見つからない可能性があります。このため、インターネットでの検索以外にも、古い情報が得られる新聞記事のデータベースを併用してチェックする方が望ましいでしょう。
・企業情報を確認する
取引予定の企業情報を法人登記で確認できます。法人登記は国税庁の「法人番号公表サイト」で簡単に検索可能です。法人番号公表サイトは商号または名称、本店所在地または主たる事業所の所在地から、法人番号を検索できるサイトです。検索した結果、法人番号がない、もしくは短期間に商号や本社所在地を変更している、といった企業は注意する必要があります。状況に応じて本店所在地などをインターネットで検索し、反社と関わりのある場所でないか検索したり、実際に事務所へ足を運んだりして、不審な点がないか確認します。
もし許認可事業者であれば、許認可取得の有無も確認しましょう。古物商であれば各都道府県の公安委員会、不動産関連であれば「国土交通省 企業情報検索システム」、人材派遣サービスでは「厚生労働省 人材サービス総合サイト」などで検索が可能です。
また、過去に行政処分を受けていないか、各監督省庁のWebサイトを検索し、確認しておきましょう。
・業界団体に問い合わせる
自社が所属している業界によりますが、利用できる独自の反社データベースが構築されている団体があり、反社であるか照会できる場合があります。不動産流通推進センターや、日本証券業協会、全国銀行協会などは独自の照会システムを保有しています。
また、業界を問わず独自の反社データベースを照会できるサービスを提供している団体もあります。Webでの即時照会や、大量の企業データを照会するといったサービスなどが用意されています。
・取引条件を再確認する
取引を始めようとした流れを改めて確認し、不審な点がないか確認しましょう。例えばその取引を紹介してくれた人物や会社の調査です。契約しようとしている会社そのものの反社チェックでは何も見つからなくても、紹介してくれた人物や会社が反社であった場合、契約しようとしている会社も何らかの関係をもっている疑いがあるからです。
また、取引条件も重要です。世間の相場から大きく外れた破格の好条件である場合や、相手が契約を急いでいる場合などは入念なチェックが必要です。
自社でチェックを行った際、怪しい企業だと判断した場合には、信用調査会社や興信所などに依頼し、より詳細に反社チェックを行いましょう。調査会社の調査方法は官公庁情報や各種メディアの情報などの調査のほか、内偵調査までを含む詳細なものや、独自に反社データベースを構築してそれを元に検索する簡単なものまでさまざまです。
専門調査機関に依頼する際は、実際にどのような内容の調査を行うか事前に確認し、費用などとともに検討する必要があります。顧問弁護士などがいる場合は、弁護士に調査機関を紹介してもらうのも安心です。
行政機関に照会することで反社チェックを行うことも可能です。例えば警視庁の場合では組織犯罪対策第三課への相談や、公益財団法人暴力団追放運動推進都民センターで相談が可能です。
最寄りの警察署に相談する場合は、確認したい相手の氏名、生年月日、可能であれば住所が分かる資料や、「暴力団排除に係る特約条項」を定めた契約関係資料、反社の疑いがあると判断した資料を準備しておきましょう。
反社チェックを行った結果、反社と判明した場合はどのような対処を行えばよいのでしょうか。ここでは相談先や契約解除といった具体的な対応方法を紹介します。
契約を結ぼうとしている相手や、既存の取引先が反社の可能性があると判断した時点で、上司や営業担当などといった関係部署に報告、相談しておきましょう。
反社だということ確定した場合は、反社チェック時に収集した情報を整理した上で、顧問弁護士や最寄りの警察などに対応を相談します。
もし反社と判明し取引を中止する場合は、その事実をそのままを相手に伝えてはいけません。社内審査の結果、自社の基準によって取引ができないと相手に伝え、自社の審査基準については非公開であることを伝えるまでにとどめておきましょう。なお警視庁では、警察に相談の上、相手が反社だと分かった場合、相手が取引の中止や契約解除に応じないときには警察からの情報に基づくことを相手に伝えてもよいとしています。こうした状況になった場合は、冷静に警察に相談することも重要です。
反社チェックを行う場合、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。ここでは注意すべきポイントを2つ紹介します。
●反社チェックは継続的に行う
反社チェックは新たに取引を始めるときにだけ行えばよいのではありません。例えば取引開始時には問題のなかった既存取引先の代表者や株主が、いつのまにか反社会的勢力に関わる人間に変わっている、といったことも考えられるからです。このため、反社チェックは定期的に続けることが大切です。
反社チェックの頻度を高めることで、反社会的勢力と関わるリスクを減らすことができます。しかし、だからといってあまり頻繁に行うと、担当者の負担を増やしてしまうことに他なりません。担当者の業務負荷を考慮し、適切な頻度を定めて行いましょう。
●ツールに頼り切らない
反社チェックを効率化するために反社チェックツールを導入したとしても、これに頼りきりではチェック漏れが発生し、知らず知らずのうちに反社会的勢力と関わりをもってしまう可能性があります。反社チェックツールは便利ですが、人間のチェックがなければチェック結果は不十分なものになります。例えば同姓同名であった場合など、あいまいなものは人間が判断すべきです。
すべてツール任せにすることはできないと考え、情報の収集部分はツールに任せ、判断が難しい部分を人間がチェックを行い、そして定期的にツールの調査結果を人間が精査する、といった対応が不可欠です。
反社チェックは反社会的勢力へ資金提供を行わないため、契約前に行うべき重要なものです。もし反社との取引をしてしまうと、意図的ではなかったとしても、コンプライアンス違反企業などといった風評被害によって自社の信用が大きく揺らいでしまう場合もあります。また反社チェックの目的として忘れてはならないのが、従業員を守るために行うということです。もし知らず知らずのうちに反社との取引を行っていた場合、担当する従業員が脅迫行為などを受けていても、会社としてそれを見つけることは難しく、長期にわたってその従業員が被害に遭うばかりか、同時に自社が損害を受けることも考えられます。自社はもちろん、従業員を守るためにも反社チェックの実施は必須と言えるでしょう。
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