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生産性向上は、いまや会社の業績を上げたり、ビジネスを拡大したりするといった目的だけに行われるものではありません。慢性化する人材不足やニューノーマル時代のビジネス成長に不可欠な取り組みです。しかし、具体的にどのようにしたら生産性を向上させられるのかわからないという経営者も少なくないでしょう。
そこで、今回は生産性向上を成功させるために、生産性向上の意味や考え方といった基本的な内容から、具体的な進め方や取り組みに活用できる支援、助成金まで、徹底的に解説します。
企業や行政が課題として掲げている「生産性向上」。実際に生産性を向上させようと議論や行動を始める前に、まずは「生産性」がどのような意味なのか、きちんと理解しておきましょう。
生産性という言葉を辞書で引くと「生産過程に投入される生産要素が生産物の産出に貢献する程度(デジタル大辞泉(小学館))」と書かれています。一方、ヨーロッパ生産性本部(EPA)では生産性を「生産要素の有効利用の度合い」と定義しています。
ものを作る行為には「投入(材料や人的コスト、設備などの投資)」が必要となります。そこから生み出される「産出(成果物)」に対して、どのくらい投入コストを必要としたか、この割合こそが生産性です。
生産性は何らかのアウトプット(産出)を、インプット(投入)で割り算することで求められるのです。例えば、アウトプットを売上と考えた場合、100万円の売上を5人で達成したならば、1人当たりの売上=生産性は20万円となります。
金銭的コスト以外の要素も数値化できます。例えば、掃除という業務で、アウトプットを掃除量とみなした場合を考えてみましょう。100平方メートルの部屋を2人で5時間かけて完了させた場合、1人当たり1時間の掃除量、すなわち生産性は「100平方メートル÷2人÷5時間」で求められるため、10平方メートルと計算できます。
このように、生産性としてどのような成果を当てはめるかによって計算内容は異なるものの、アウトプットを出すために要したインプットを比較することにより生産性が求められる点は、共通しています。
後述しますが、生産性にはいくつかの計算方法や種類があります。これは生産性にどんな要素や成果を期待するかによって異なるためです。社内で生産性を議論する場合、ますどのようなゴールを目指すのかを具体的に定め、その上で生産性や生産性の向上を議論することが重要です。
生産性向上とは、アウトプットに占めるインプットの割合を小さくすることです。これと同じような意味の言葉に業務効率化がありますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
業務効率化は生産性向上と比べると「無駄なものを減らす」という側面が強いニュアンスがあり、生産性におけるインプットとアウトプットの関係でいうと、インプットに対して重きを置く考え方です。例えば、5時間かかっている掃除業務を、機械の導入やオペレーションの見直しなどを行い、4時間に短縮できた場合、1時間の業務効率化を実現できたことになります。
掃除量÷人=5時間
掃除量÷人+機械=4時間
→機械の導入により1時間の業務効率化を実現
業務効率化を実現できたときに、より少ないインプットで同量のアウトプットを達成できた場合には、生産性も向上できたことになります。業務効率化とは、生産性向上における手段のひとつです。生産性向上にはアウトプットを増やすかインプットを減らす、またはその両方が必要ですが、業務効率化はインプットを減らすという考え方なのです。
次に、生産性向上がもたらすメリットについて、アウトプットとインプットの両面から考えてみましょう。
企業においてアウトプットを考えた場合、まず思いつくのが売上です。売上の増加は会社の成長はもちろん、自社の競争力向上にもつながります。
売上を増やすことを考えた場合、限られた経営資源を有効に使って、最大限に効果を得ることが求められます。例えば、作業の自動化やコミュニケーションなどを円滑に行うために、ITツールを導入するといった方法も有効です。従来の売上=アウトプットはそのままに、作業時間であるインプットを短縮できれば、結果的に売上の増加を期待できるからです。
少子高齢化によって労働人口が減少している現在、人手不足に陥っている企業は少なくありません。それに加え、新型コロナウイルスの感染拡大も重なり、法律違反にならないものの長時間労働に依存している企業もあるでしょう。しかし、こうした労働環境は生産性にとってマイナスの面しかありません。このため、企業は効率的な仕事の仕方を実践し、労働環境の改善を行う必要に迫られています。
例えば、情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を実現するテレワークの導入や、作業自動化ツールの導入により、その作業に携わっていた人員を他の業務に回すといった、少ない人材でこれまでと同じアウトプットを維持するのです。これらは結果的に労働環境の改善を実現できるばかりか、国が推し進める働き方改革にも合致しています。企業が生き抜くためには、少ない人材と時間を最大限に活かし、効率的に業務を行う必要があるのです。
生産性を定義は数多く存在していますが、ここではよく使われる4つの指標と、その計算方法を紹介します。
アウトプットを「付加価値」と考える生産性です。付加価値とは事業の粗利を指し、労働者数との関係を見ることで、付加価値労働生産性が計算できます。
付加価値労働生産性=粗利÷労働者数
生産されたモノやサービスの量をアウトプットとし、生産数と労働者数との関係を見ることで物的労働生産性が計算できます。
物的労働生産性=生産量÷労働者数
物的生産性
生産性を測定するためにはいくつかの方法がありますが、ひとつは生産するものの大きさや重さ、あるいは個数などといった物量を単位とする場合で、物的生産性といいます。生産物の価格は、物価の変動や技術の進歩などによって変動するため、生産現場などにおける純粋な生産効率を測るときには、金額ではなく物量を単位として生産性を測定することが求められます。生産能力や生産効率の時系列的な推移を知るときなどにも、物的生産性が利用されます。
付加価値生産性
生産性を測定する方法としては、企業が新しく生み出した金額ベースの価値、つまり付加価値を単位とする場合もあります。これを付加価値生産性といいます。付加価値とは、生産額(売上高)から原材料費や外注加工費、機械の修繕費、動力費など外部から購入した費用を除いたものです。一般に、企業は原材料など外部から購入したものを加工したりして製品を販売しますが、その際にさまざまな形で手を加えることによって新たに付け加えた価値を金額で表したものが付加価値になります。
アウトプットを生産量とし、インプットをイノベーションや生産の効率化といた質的な要素を当てはめて計算しようと試みるものです。資本や労働力以外の要素も成長に寄与しているという考えが背景にあります。
機械や土地などの資本1単位に対し、算出できた価値を指し、企業が効率よく設備投資を行っているか分析できます。機械の稼働率向上や土地の有効活用などで資本生産性を向上させることが可能です。
生産性の向上は、単純に新たなツールやビジネスモデル、フレームワークなどを導入しても実現できません。自社の現状を直視して適切なゴールを定め、社内調整などの地道な作業が必要です。
目標として売上やコスト削減量を定めることは必要ですが、それ以上に大切なのが現状把握です。生産性向上のためにアウトプットを増やそうとしたり、インプットを減らそうとしたりしても、現在の業務にどのような無駄があり、どのような改善の余地があるのか、しっかりと業務フローを可視化する必要があります。業務フローが「見える化」されることで、業務のどこにボトルネックがあるのかわかりやすくなるため、生産性が低下する具体的な原因を発見しやすくなります。
ただし、こうした作業は経営層だけで行っても意味がありません。現場の人間を交え、一丸となってプロジェクトを進めましょう。現状を一番よく知っているのは現場の人間であり、今後どのような施策を行うにせよ、現場の協力なくしては生産性向上を成し遂げることはできないからです。
また、現状の「見える化」作業は、どのような業務内容をどのような流れで進めているか、図や表、文章で書き起こして情報を共有すると、把握漏れを防げるばかりでなく、生産性向上の議論もはかどります。
現状把握が終われば、ようやく現状の課題分析や対策の議論に進めます。現状について問題がある部分を緊急性や重要度とともに確認し、それぞれの対策方法を考えるのです。ここで重要となるポイントは「優先順位」です。
それぞれの対策=タスクを、重要性と緊急性の大小で4種類のマトリックスに分けます。思いついた改善策を一度に全て実現しようとするのではなく、重要度と緊急度の高いコア業務から取り組むようにしましょう。
実際に対策を実施するときに導入を考慮したいものがITツールです。生産性の向上には作業を自動化することや、紙の書類のやり取りによって発生しているコストの削減が欠かせません。ここでは生産性向上に直結する便利なITツールをいくつか紹介します。
RPA(Robotic Process Automation)は、自動化ツールなどとも呼ばれる、パソコンなどで日頃行っている定形作業を自動化してくれるツールです。例えば、RPAツールを導入すれば、毎日定期的にデータをダウンロードしてExcelに保存、フォーマットを整えて共有フォルダにアップロードするといった作業や、スケジュール調整作業、請求書の作成などといった定型業務を、人の手を介さずに自動化できるのです。ツール導入によって、作業を行っていた従業員は売上貢献に直結するコア業務に集中できるため、生産性向上に役立ちます。
SFA(Sales Force Automation)は、営業担当に対して支援を行うツールで、営業支援ツールなどとも呼ばれます。既存顧客や、見込顧客に関する情報を記録/管理し、過去の商談内容や進行中の案件の情報、担当者情報やアポイントメント、スケジュールなどを一元管理できるもので、複数の営業担当間はもちろん、経営者も最新の営業情報を共有できるため、生産性の向上につながります。
CRM(Customer Relationship Management)は、顧客満足度と顧客ロイヤルティの向上を通じて売上の増加を目指す手法のことで、顧客関係管理とも呼ばれます。また、これを支援するツールをCRMツールと呼びます。顧客管理はもちろん、顧客に対してアンケートを取ったり、一斉にメールを配信したり、WEBサイトのアクセス解析をしたりする機能があります。
社員がそれぞれ受け取った顧客の名刺をデータ化し、社内で一元管理できるツールです。名刺は1枚1枚が顧客情報ともいえる大切なものです。名刺管理ツールを導入すれば、紙の名刺では実現できなかった顧客情報の管理や分類などが容易になります。なお、前述した営業支援ツール、SFAと連動できるツールもあります。
従来紙で行ってきた契約書などのやり取りを、PDFなどの電子データで行えるようにするシステムです。契約書以外の書類の管理や、これまで交わされてきた紙の書類を取り込んで管理する機能、印鑑に代わる法的効力のある電子契約が可能な機能を持つものもあります。郵送や印刷といった時間的コストを削減でき、生産性向上につながります。これらの機能を全て搭載している「電子印鑑GMOサイン」の導入がおすすめです。
電子メールや電話に代わってビジネスでの普及が進んでいるのがチャットツールです。リアルタイムのコミュニケーションはもちろん、スマートフォンでの利用や、データの添付なども可能です。プロジェクト単位でグループを作成することができ、電子メールのように宛先を間違えるといったトラブルも少ないのも利点です。また、コミュニケーション時の文章量も少なくなることから、生産性向上に役立つといえます。
仕事に対するモチベーションが高い社員は、そうでない社員と比べて生産性が高い傾向にあります。このため、社員のモチベーション向上は、それすなわち会社やチーム全体の生産性向上につながるのです。
モチベーションを高めるには、数値など明確に基準のわかるもので適正に評価をすることが重要です。また、人材配置も社員と一緒に考えることが大切で、会社の方針だからと一方的に決定するのはできる限り避けるべきでしょう。面接を重ねて、本人に適切な部署や役割に配置するようにしましょう。
生産性を向上させるためは、障害となる問題をなくすことが重要です。
労働時間が長くなればなるほど、従業員の集中力は低下してしまいます。また、心身ともに疲労が溜まってしまうため、長期的に見ても生産性は低下するといえます。もちろん仕事に対するモチベーションにも悪影響を与えてしまいます。
マルチタスクとは、複数の仕事を同時に並行して行うことをいいます。マルチタスクはタスクを切り替える回数が多く、別な仕事を行おうとするたびに作業を思い出し、集中力のリセットをしなくてはならないため、集中力の低下が起こり、生産性が低下しやすいのです。
これらは、人手不足が原因となっていることが多い問題です。しかし、これまで解説してきたようなITツールの導入などによって解決しやすい問題ともいえます。生産性の向上を目指すためにITツールを導入すれば、従業員を長時間労働やマルチタスクから開放でき、結果的にモチベーション向上にもつながり、とても重要なことになります。
生産性を向上させるには、ITツールや機器の導入、従業員の待遇改善といった投資が欠かせないといっても過言ではなく、それには当然コストが必要です。こうした生産性向上への取り組みを支援するため、政府は主に中小企業を対象とした助成金や補助金を用意しています。ぜひ参考にしてください。
中小企業の生産性向上を支援し、企業内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引き上げを図るために創設された助成金です。生産性向上のために行った設備投資などによって、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、設備投資などにかかった費用の一部を国が助成します。
対象となる設備投資は、「POSレジシステム導入による在庫管理の短縮」や、「リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮」、「顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化」、「専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上」など、物理的なものからコンサルティングまで広く対象となっています。
詳しくはこちら
中小企業が自社の課題解決やニーズに合ったITツールを導入するときにかかる経費の一部を補助してくれる制度です。経済産業省中小企業庁が定めるITツールに限られますが、ソフトウエア費や導入関連費用が対象となります。
詳しくはこちら▷IT導入補助金2024公式サイト
これまで「生産性向上」は、企業が成長しビジネスを拡大させるための取り組みでした。しかし、少子高齢化によって労働人口が減少し、慢性的な人手不足に悩まされる現在、生産性向上は企業が生き残るために必須の取り組みといえます。
また、こうした取り組みは新型コロナウイルスによってもたらされた新しい日常「ニューノーマル」に適合する点も多いことが特徴です。企業がアフターコロナを生き抜くためには、いち早く生産性の向上に取り組む必要があります。
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