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派遣契約とは、派遣元企業と派遣先企業との間で締結される契約です。2015年の労働者派遣法の改正により、派遣契約が更新される際には派遣期間に2種類の「3年ルール」が適用されるようになりました。
本稿では、派遣元企業と派遣先企業が締結する派遣契約の種類、3年ルールのほか、派遣契約のメリット・デメリットについて解説します。
労働者派遣法第26条では、「労働者派遣契約」について、「当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう」としています。
すなわち、派遣元企業が労働者を派遣する申し込みをし、それに対して派遣先企業が承諾するか、派遣先企業が労働者派遣を受ける申し込みをし、それに対して派遣元企業が承諾することによって成立する契約ということになります。
法律上は、文書であるか否か、また有償・無償は問われませんが、通常、派遣ビジネスでは派遣契約は文書で締結され、有償となっています。
派遣ビジネスにおいては、派遣元企業と派遣先企業の間で“基本契約”と“個別契約”の2種類の派遣契約が締結されます。
派遣先企業が派遣先企業に反復継続的に労働者派遣をする旨の契約です。
基本契約を踏まえ、個別具体的に労働者派遣をする際に、個別に就業条件等を定める契約です。労働者派遣法第26条の意味する労働者派遣契約に該当するのは、こちらの個別契約とされています。
実際に派遣契約を締結する場合の手続きの流れについてみていきましょう。
基本契約は、派遣契約に限らず、売買契約や下請契約など、特定の取引先と反復継続的に取引を行うときによく締結されるものです。その目的は、その後の取引に共通する基本的事項を定め、個別契約での手続きを簡便にすることにあります。
しかし、前述のように、労働者派遣法第26条の派遣契約は基本契約ではなく個別契約を指すため、基本契約で定めたからといって法定された契約事項を個別契約で省略することはできません。
その意味で、派遣契約における基本契約には、法定されていない契約事項や、個別契約と重複するとしても改めて確認しておくべき基本事項などを記載するとよいでしょう。
具体的には、第26条の法定事項となっていない派遣料金(派遣料金の決定、派遣先の都合による休業が生じた際の損害金の取り決め)のほか、派遣労働者の行為により損害が生じたときの損害賠償、法令順守・守秘義務など相互の義務、知的所有権の帰属、契約解除事項、反社会的勢力の排除などの禁止事項が該当します。
労働者派遣法の改正で設けられた3年ルールでは、後述のように、同一の派遣先企業(事業所)に派遣できる期間は原則3年が限度となっています。この派遣受入期間が終了した日の翌日を「抵触日」と呼んでいます。
派遣労働者の受入状況は派遣先企業の管理下にあるため、事業所の抵触日については、派遣先企業から派遣元企業に通知することになっています。
新規に派遣契約を締結する際、派遣先企業は派遣元企業に対してあらかじめ事業所抵触日の通知を行う必要があります。派遣元企業は、この通知がなければ派遣契約を締結することはできません。
派遣先企業は、労働者派遣の役務の提供を受ける事業所(派遣先企業名)、事業所所在地、受け入れた場合の抵触日(3年後の翌日:受入日が2022年4月1日の場合は2025年4月1日)を通知します。通知は、書面の交付、電子メール、電子メールへの書面データ添付のいずれかの方法によって行います。
個別契約で定める事項は法で定められています。具体的には、派遣労働者が従事する業務の内容、従事する事業所の名称・就業場所、派遣期間・就業日、就業の開始・終了時刻・休憩時間、安全・衛生、苦情の処理、雇用安定措置など、派遣労働者の労働条件・待遇などに直接かかわる事項となっています(労働者派遣法第26条第1項各号)。
派遣先企業は、派遣就業に関して派遣先管理台帳を作成し、その台帳に派遣労働者ごとに所定の事項を記載しなければなりません(労働者派遣法第42条)。
派遣先管理台帳は、派遣先企業が労働日、労働時間等、派遣労働者の就業実態を的確に把握するとともに、台帳の記載内容を派遣元企業に通知することにより、派遣元企業の適正な雇用管理に資するためのものです。
記載事項は多岐にわたり、派遣労働者の氏名、派遣元企業の名称のほか、派遣元企業から通知を受けた派遣労働者に係る健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無など17項目に及びます。派遣先管理台帳は、3年間保存しなければなりません。
派遣契約の3年ルールには、①派遣先事業所単位の期間制限と、②派遣労働者個人単位の期間制限の2種類があります。
派遣労働には雇用の安定やキャリア形成が図られにくい傾向があるため、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限定することを原則とするとともに、派遣労働自体を臨時的・一時的な働き方として位置付けることがこれらの制限の目的となっています。
同一の派遣先企業に対して派遣できる期間は原則、3年が限度となります。ただし、次のようなケースは例外として3年の期間制限を受けません。
なお、派遣先企業が3年を超えて受け入れる延長も可能ですが、派遣先企業ごとの業務に係る労働者派遣の役務の提供が開始された日から事業所単位の期間制限抵触日の 1カ月前の日までの間(意見聴取期間)に、所定の手続きを行う必要があります。
具体的には、意見聴取期間内に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合(過半数労働組合)、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)の意見を聴かなければなりません。
同一の派遣労働者を、派遣先企業における同一の組織単位に派遣できる期間は、3年が限度となります。
例えば、ある派遣労働者を派遣先企業の人事課採用係に派遣していた場合、3年後、同じ人事課の教育係に派遣することは、同一の組織単位に該当するため認められません。
人事課ではなく、総務課であれば組織単位が異なるため、同一の労働者を派遣することは可能です。
派遣労働者がキャリアを節目で見つめ直し、キャリアアップの契機とすることで、派遣労働への固定化の防止を図る狙いがあります。
なお、派遣労働者個人単位の期間制限にも、派遣先事業所単位の期間制限の場合と同様に例外がありますが、基本的には延長はできないことになっています。
派遣契約は外部のリソースを活用する手法ですが、類似するものに業務委託契約があります。
業務委託契約とは、外部の個人・法人に自社の業務を委託する際に締結する契約です。
民法上の「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3つは業務委託契約にあたるとされています。
請負契約とは、仕事の完成を約束する契約です。Web制作、広告制作のように契約書で定めた期限までに仕事を完成させ、成果物に対して報酬が支払われます。
派遣契約と異なり、請負を依頼した側は、仕事の完成に至るまでの作業方法や工程について、請け負った側に指揮命令することはできません。
また、請け負った側が企業である場合、請負企業の従業員が依頼企業の事務所などで業務を進めることもありますが、この場合も依頼企業には指揮命令権はありません。このとき依頼企業が指揮命令を行うと「偽装請負」にあたり労働者派遣法違反となるため、注意が必要です。
委任契約とは、法律行為をともなう事務処理を委託する場合に締結する契約です。
例えば、不動産業者に、自分が所有する土地の売買を委託する行為などがこれに該当します。委託した業務の遂行に対して報酬が支払われますが、請負契約と同様、委託側と受託側には指揮命令関係はありません。
なお、受託者は、業務の遂行を目指すことで足り、成果物に対する責任は負いません。
準委任契約とは、法律行為以外の業務を委託する場合の契約です。委任契約と同様、成果物の完成を目的とせず、業務の遂行に対して報酬が支払われます。文書管理、システムの保守・運用などが該当します。委託側と受託側に指揮命令関係がないことは、請負契約や委任契約と同じです。
業務委託契約の3つの形態についてみてきましたが、その他、実務上、派遣契約との相違を明確にしておくべきものについて触れておきましょう。
契約社員は、事業主(企業)が直接雇用する労働者であり、外部リソースではありません。「パートタイマー」「嘱託社員」など、企業によってさまざまな呼び方がありますが、通常、有期労働契約である点は共通しています。
このうち、1週間の所定労働時間が通常の労働者と同じ有期契約労働者は、「フルタイム有期契約労働者」として、「有期契約労働者の雇用管理の改善に関するガイドライン」の対象となるため注意が必要です。
ガイドラインでは、事業主が講ずべき事項、雇用管理の改善を図るため配慮することが望ましい項目が定められています。
SES契約とは、システムエンジニアリングサービス契約のことです。システム、ソフトウェアまたはアプリケーション等の開発・運用業務等を委託する、いわゆる業務委託契約の1つであり、準委任契約に該当します。
実務では派遣契約と混同されることもありますが、派遣契約と異なり、受入先企業とシステムエンジニアの間には指揮命令関係はありません。
受入先企業が指揮命令している場合は、偽装請負になり、労働者派遣法違反となります(労働者派遣法第5条など)。
派遣契約を締結して企業が外部リソースを活用するメリット・デメリットはどのような点にあるのでしょうか。
派遣契約と業務委託契約の大きな違いは、受け入れる側の企業が直接、指揮命令できるかどうかです。
外部リソースを活用する場合に、業務委託契約では指揮命令を行うことはできません。しかし、派遣契約であれば、直接雇用の社員と同様に自社の経営方針のもとで業務に従事してもらうことが可能です。また、派遣契約によって必要な人材を必要な期間だけ派遣してもらうこともできます。
派遣契約の場合、派遣先企業に派遣労働者への指揮命令権があるわけですが、それは同時に、派遣先企業は派遣社員に指揮命令する社員の配置を必要になるということです。また、派遣社員は派遣先企業に帰属しているわけではありませんから、日常業務の指揮命令を行う担当者を配置するだけでなく、必要に応じて経営方針などを理解してもらうための研修などを実施することが大切です。
派遣契約についてよくある疑問点について、いくつか確認していきましょう。
派遣契約の途中解約は、契約内容を踏まえ、双方の合意のもとで行うことができます。ただし、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元企業に解約の申し入れをすることになります。
労働者派遣法では、派遣契約を解約する場合、派遣先企業は派遣先の関連企業での就業を斡旋するなど、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが必要とされています(労働者派遣法第29条の2、派遣先指針)。
就業機会の確保を図ることができない場合は、少なくとも中途解約によって派遣元企業に生じる損害の賠償を行わなければなりません(労働者派遣法第29条の2、派遣先指針)。
派遣社員に時間外労働や休日労働を命じることは可能です。ただし、その前提として、派遣元企業において時間外労働や休日労働のための労使協定(36協定)が締結され、協定書が労働基準監督署に届けられていることが必要です。
この36協定の範囲を超えて派遣先企業で時間外労働や休日労働をさせた場合、派遣元企業が労働基準法に違反することになるため、注意しなければなりません。
派遣先企業としては、派遣元企業の36協定の内容をしっかり把握しておくよう心がけましょう
派遣契約の基礎知識について解説してきました。他の継続反復的な取引と同様、基本契約と個別契約を締結することになりますが、派遣契約においては、個別契約が労働者派遣法の規制対象であることを知っておくことが重要です。
また、外部リソースを活用する手法としては業務委託契約もありますが、派遣契約との法的な相違、メリット・デメリットを理解したうえで活用することが大切です。
なお、2021年1月から労働者派遣契約についても電子化が認められ、それまで書面で作成することとされていた労働者派遣契約書を電磁的記録で作成できるようになりました。
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