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人を採用するとき、企業が労働条件などを事前に提示し、労働者がその条件に合意するという段取りを踏みます。この一連の流れを雇用契約といいますが、その際に交わされるのが「雇用契約書」です。新たに従業員を雇うとき、またアルバイトやパートなどの契約期間更新のタイミングなど、雇用契約書を取り交わすタイミングは多々あります。それから、雇用契約書と似たものに「労働条件通知書」というものがあります。両者はどのように違うのでしょうか。
そこで本記事では、雇用契約書と労働条件通知書の違いから雇用契約書の作成方法まで詳しく解説してます。さらに記事内では雇用契約書のテンプレートや2020年の民法改正による影響もご紹介。くわえて、2024年4月に改正される労働基準法についての情報もお伝えしています。人事・労務担当の方はぜひ最後までご覧ください。
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雇用契約書とは、雇用契約の内容を記載した書面です。雇用契約については、民法第623条以下に規定されていますが、労働関係の法令は数多く作られ、これらの法令により大きく修正されています。労働契約法では、労働契約の成立について、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意すること」と規定します(労働契約法第6条)。
雇用契約書の作成は、法律上の義務ではありませんが、雇用契約書を作成しておくことは、労働トラブルを回避する上で非常に有効です。労働条件通知書が企業から一方的に労働者に通知されるものであるのに対し、雇用契約書は、双方が署名または記名押印をするため、企業、労働者ともに契約内容について承諾していると認定されるからです。
労働トラブルにおいては、「言った、言わない」といった話になることが少なくありません。雇用契約書を作成しておけば、その契約書に書かれている内容を「知らなかった」という言い訳は通用しなくなります。
雇用契約書と似たものに「労働条件通知書」というものがあります。労働条件通知書と雇用契約書はどのように違うのでしょうか。
労働条件通知書とは、使用者が労働者を採用する際に通知しなければならない事項を記載した書面です。労働基準法では、労働条件について明示することが義務付けられており、次に示すように絶対的記載事項(必ず記載しなければならない事項)が存在します。
以上の労働条件については、必ず書面または電磁的方法により通知しなければなりません。
なお、2024年4月には労働基準法改正による労働条件明示のルール追加によって、新しく以下の4つの項目の記載が必要となります。
2024年4月労働基準法改正に関する最新情報や労働条件明示の新ルールに対応した労働条件通知書の作成方法について、次の記事で詳しく解説しています。
雇用契約書とは、既に説明したように、雇用契約の内容を記載した書面です。労働条件通知書が会社から労働者に対する一方的な通知であるのに対し、雇用契約書は、会社と労働者の双方が内容を確認して署名または記名押印するものという違いがあります。
もし、雇用契約書に、労働条件通知書の絶対的記載事項が記載されている場合には、雇用契約書と労働条件通知書の両方を作成する必要はなく、雇用契約書だけの作成も認められます。
雇用契約書を作成するのは、将来的に労使間のトラブルを避けるために、当事者間の約束事を形に残すことが目的です。そのため、契約書は双方の署名または記名押印が必要になります。書面の場合には2通作成して、使用者、労働者の双方が各1部を保有することになります。
雇用契約書の要件は、使用者と労働者が雇用契約を締結した旨の記載、締結の日付、当事者の署名または記名押印です。ただ、労働トラブルは労働条件が原因になることが多いため、労働条件通知書と兼用となっている「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成するのが一般的です。そのため、今回は、労働条件通知書兼雇用契約書のテンプレート(正社員用)を紹介します。
労働条件通知書兼雇用契約書
○○株式会社(以下「甲」という。)と■■(以下「乙」という。)は、次の通り契約する。
第1条(甲の義務)
甲は、乙を社員として採用し、就業規則その他の規則、規定に従い賃金、その他の債務を履行する。
第2条(乙の義務)
乙は、就業規則、その他の規則、規定を遵守し、誠実に職務を履行する。
第3条(機密保持)
乙は、業務上知り得た機密について、在職中はもちろん、退職後も漏えいしないことを誓約する。
第4条(雇用期間)
雇用期間については、採用日である○年○月○日より定年までとする。
第5条(就業場所)
甲の本店または支店の内、甲が指定する場所とする。
第6条(従事する業務の内容)
(*例1)経理に関する業務
(*例2)3か月の試用期間の満了後、適性を見て本配属先を決定する。
第7条(始業、終業時刻、所定外労働等)
始業時刻は、9時00分、終業時刻は、17時00分とする。なお、所定外労働、休日労働をさせる場合がある。
第8条(休憩時間)
休憩時間は、原則として12時00分から13時00分の60分間とする。ただし、業務の都合上前後1時間ずらして60分間の休憩とする場合がある。
第9条(休日)
土曜日、日曜日、国民の祝日、年末年始(12月29日から1月3日)は休日とする。
第10条(休暇)
年次有給休暇は、年間20日とする。なお、有給休暇は、1日単位の他、1時間単位の時間休を取ることができる。
第11条(賃金の計算方法)
基本給については、月給○円とする。各種諸手当については、賃金規定に従い支払うものとする。
法定労働時間を超えたときは、基本給の1.25倍を支払う。時間外労働が1か月60時間を超えたときは、基本給の1.5倍を支払う。
休日労働をした場合には、基本給の1.35倍を支払う。
深夜労働(22時00分から5時00分)をした場合には、基本給の1.25倍を支払う。
第12条(賃金の支払い方法)
本人名義の銀行口座に振り込む方法により支払う。
第13条(賃金の締切日、賃金の支払日)
賃金の締切日は毎月末日とし、賃金の支払日は、翌月20日とする。
第14条(退職に関する事項)
定年は、満65歳とし、継続雇用はないものとする。なお、乙が自己都合により退職する場合には、退職する14日前までに届ける必要がある。
身体、精神の障害により業務の遂行ができないと認められるとき、就業規則に違反するなど、企業秩序を乱した場合、勤務成績が著しく不良で就業に適さないと判断される場合には、甲は乙を解雇することができる。
上記契約の成立を証するため、本契約書2通を作成し、甲乙各1通を保有するものとする。
○年○月○日
(甲)東京都千代田区○○1−1−1
○○株式会社
代表取締役 ○○○○ 印
(乙)東京都港区○○2−2−2
■■ 印
雇用契約書を作成する場合には、雇用形態に合わせた内容にする必要があります。正社員の場合には転勤の有無やその範囲などについて定めることが重要です。また契約社員の場合には、契約期間と更新の有無や更新の限度などを定める必要があります。そしてパートやアルバイトの場合には、昇給の有無、ボーナスの支給の有無、退職金の有無などについて記載する必要があります。
その他、雇用形態に関わらず、業務内容、労働時間、就業場所、賃金など、労働条件通知書の絶対的記載事項については必ず記載する必要があります。
形式面では、書類の内容を明らかにするために冒頭に「雇用契約書」と記載し、各条項及び契約を締結した日付を記載した上で、企業と労働者の両者が署名または記名押印します。本人を特定するため、企業名と労働者名だけでなく、本店所在地と住所も記載する必要があります。
民法が120年ぶりに改正され、2020年4月に施行されました。民法は、私人間について適用される法律で、雇用契約についても書かれています。民法改正によって、雇用契約にどのような影響があるのでしょうか。
入社する際に、労働者の将来の損害賠償責任を担保するため、身元保証人を求められることがあります。身元保証契約書を会社に提出したことがある方もいるのではないでしょうか。ただ、身元保証契約は、将来の不確定な損害を保証するものであるため、保証人の負担が大きいとされてきました。そのため、改正民法では、極度額を定めなければ効力が生じないとされました(民法第465条の2)。
労働災害が発生した場合など、会社と労働者との間で損害賠償責任が発生する場合があります。改正前は、将来において取得すべき利益について利息相当額を控除(中間利息控除)する旨の規定がありませんでしたが、改正民法では、新しく中間利息控除について明文化されました。
なお、控除される利息相当額は法定利率(国が利息の利率を定める仕組み)であり、法定利率は3%となっています。ただし、3年毎に利率は改定されます。
改正前の民法では、賃金債権の消滅時効の期間は1年間とされていました(旧民法第174条)。もっとも、1年間では短いため、労働基準法では民法の特則として2年間とされていました(旧労働基準法第115条)。しかし、民法改正により、短期消滅時効の規定が廃止され、①債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間、または、②権利を行使することができるときから10年間と延長されました(民法第166条第1項)。
この改正に伴って、労働基準法の一部を改正する法律が施行され、消滅時効期間も5年間とされましたが、当分の間、3年間とする例外が設けられました(労働基準法第143条第3項)。当分の間がどれ位の期間なのかはわかりませんが、現在は賃金の請求権を行使することができるときから3年間で消滅時効を迎えるということです。
改正前は、雇用契約が中途で終了した場合の報酬請求権についての規定はありませんでした。改正民法では、①使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事できなくなったとき、②雇用が履行の途中で終了したときは、既に従事した履行の割合に応じて報酬を請求することができると規定されました(民法第624条の2)。
(1)雇用期間の定めのある雇用の解除(民法第626条)
改正前民法では、雇用の期間が5年を超え、またはその終期が不確定であるときの契約解除について、商工業の見習いの特則がありましたが、改正民法ではそれが削除されました。また、改正前民法では、契約の解除をする場合の予告期間が、労働者も使用者も「3か月」でしたが、改正民法では、労働者側から解除する場合については2週間に短縮されました。
(2)雇用期間の定めのない雇用の解約(民法第627条)
改正前民法では、期間によって報酬を定めた場合の解約の申し入れについて、次期以後でなければできないとされていましたが、改正民法では、労働者については制限がなくなり、使用者からの解約申し入れのみ、次期以後でなければできないとされました。
労働者(被雇用者)には、①雇用保険被保険者証、②年金手帳、③住民票の写し、④マイナンバー、⑤給与振込先の預金通帳の写し、⑥扶養控除等(異動)申告書などを用意してもらう必要があります。その他、必要に応じて、健康保険被扶養者(異動)届や通勤手当の申請書などの提出を求めましょう。また、資格が必要な業務については、資格を保有していることを証明する合格証書や学歴を証明する卒業証書の写しなどを確認することも重要です。
雇用契約書は、法律上作成が義務付けられているわけではありませんので、雇用契約書を交わさなかったとしても問題は生じません。ただ、労働問題が発生した場合には、雇用契約書がないと契約内容を双方が合意していることを確認できません。「言った、言わない」といった話になり、問題の解決が長引いてしまうため、作成しておくことが望ましいといえるでしょう。
雇用契約書は、正社員であっても必須の書類ではありません。むしろ、契約社員やパートの方が、例外的取り扱いが多いため、雇用契約書が作成されるケースが多いといえます。もちろん、正社員であっても雇用契約書があった方がよいことは間違いありません。なお、雇用の形態にかかわらず、労働条件通知書の交付は必要です。
今回は、雇用契約書とはなにか、労働条件通知書との違い、雇用における民法改正の影響について解説してきました。雇用契約書は、法律上、作成が義務付けられているわけではなく、雇用契約書を作るかどうかは任意です。しかし労使間でトラブルになった場合に、雇用契約書には高い本人性の確保が認められます。
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