契約書の中でも、最も基本となるのが「売買契約書」です。契約書の作成は、民法上、効力発生要件ではないため、必ずしも売買契約書を作成することが必要というわけではありません。
しかし、不動産や自動車など高額な売買契約では、必ず「売買契約書」が作成されます。その理由は、契約を確実に履行してもらわないと大きな損害が発生するからです。
そこで、今回は、主な売買契約書のテンプレートを紹介しながら、作成方法や注意点などについて解説します。
目次
売買契約書の定義
売買契約書は、売主がある財産権を買主に対して移転することを約し、買主がその代金を売主に支払うことを約した書面です。民法上は、「有償」、「双務」、「諾成」契約ということになります。
民法には、贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解という13種類の典型契約が定められていますが、その中でも「売買契約」が最も基本となる契約形態といえます。
売買契約書の主な種類とテンプレート
売買契約書が作られるのは、不動産や高額な機械などを売買する場合です。今回は、この2つのテンプレートを紹介します。なお、このテンプレートは最低限の記述であり、実際にはもっと細かく規定されます。
不動産売買契約書
不動産の取引では、必ず「売買契約書」が作成されます。不動産の場合も口頭で契約することは可能なのですが、それを第三者に対抗(自分が買ったと主張)するためには、登記をする必要があります。登記をするためには、登記原因証明情報として売買契約書が必要になるため、不動産では必ず売買契約書が作成されます。
不動産の売買契約では、通常は不動産会社が売買契約書を作成してくれます。自分で作る場合には、次のようになります。
土地売買契約書 |
売主○○○○(以下「甲」という)と買主○○○○(以下「乙」という)は、次の通り、土地売買契約を締結する。
第1条(売買の目的物)
甲は、乙に、次の土地を売り渡し、乙はこれを買い受けるものとする。
所在 東京都○○区○○1-2-3
地番 ○番
地目 宅地
地積 ○平方メートル
第2条(代金の支払い)
乙は、甲に対し、○年○月○日に、本件所有権移転登記手続と引き換えに、売買代金を支払う。
第3条(引渡し)
本件土地は、売買代金の受領と引き換えに、甲から乙に引き渡す。
第4条(公租公課の負担)
本件土地に発生する公租公課は、土地の引渡しの前日分までを甲が負担し、それ以降は乙が負担するものとする。
第5条(所有権の移転時期)
本件土地の所有権は、売買代金を受領したときに、甲から乙に移転する。
甲と乙は、以上の通り合意したので、本書面を2通作成し、各自保有するものとする。
○年○月○日
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甲(売主)
住所
氏名
乙(買主)
住所
氏名 |
機械売買契約書
機械売買契約書については、不動産売買契約書と異なる部分のみ記載します。第4条以下及び署名は、不動産売買契約書と同じです。
機械売買契約書 |
第1条(売買の目的物)
甲は、乙に、次の機械を売り渡し、乙はこれを買い受けるものとする。
○社○○機 1台
製造番号○○○○
第2条(代金の支払い)
乙は、甲に対し、○年○月○日までに、売買代金を支払う。
第3条(引渡し)
本件機械は、○年○月○日に乙の本店所在地に搬入し、設置する。
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売買契約書の作成方法
上記テンプレートにある通り、主な記載事項としては、①売買の目的物、②代金の支払い、③引渡し、があります。①を定めるのは、売買する目的物を特定するためです。仕様などを記載して定めることもあります。②を定めるのは、買主の義務である代金の支払い方法を確定させるためです。③の引渡しは、売買の目的物がいつ買主のもとに来るかを明確にするためです。
この他、印紙の負担をどうするのか、契約書に違反した場合の損害賠償、不完全履行の場合の措置、誠実義務、合意管轄などを定めるのが一般的です。
売買契約書のうち、不動産、鉱業権、無体財産権、船舶、航空機、営業、地上権、賃借権の譲渡に関する契約書については、印紙税が発生します。収入印紙の額は、契約の金額によって200円から60万円の範囲で定められています。例えば、3,000万円の土地を売買する場合、印紙税は2万円になります。
売買契約書を作成するときの注意点
今回テンプレートで示した内容は、買主、売主ともに平等に作られています。しかし、一方当事者に有利に作られていないか注意する必要もあります。例えば、公租公課の負担は、引渡し後は買主が負担するのが公平ですが、はじめから契約書に「公租公課は買主の負担とする」と規定されているような場合には、いつから買主が負担するのか明記してもらう必要があります。
また、2020年に施行となった民法では危険負担と瑕疵担保責任についての改正があったため、古いテンプレートを参照する場合には改正後の民法に対応しているか確認する必要があります。
特に、特定物の引渡し不能の場合、旧民法では、危険負担の債権者主義が採られており、債権者が責任を負うこととされていましたが、改正によって、債権者は履行を拒み、債務者の帰責性に関わらず契約を解除することができるようになりました。そのため、特定物売買において旧民法どおり債権者主義を維持したい場合には、契約書にその旨を記載しておく必要があります。
瑕疵担保責任については、債務不履行と同様に、売主の帰責事由が必要になったことから、それを排除したい場合には契約書に書いておく必要があります。
売買契約書で困ったときの対処法
訂正が必要になった場合
売買契約書を締結した後で、契約書の内容が間違っていることに気づいた場合、訂正箇所が少ない場合であれば、契約書を訂正し、訂正印を押せば済みます。大きく変わる場合や重要部分に変更が生じた場合には、改めて契約書を作成するか、別途覚書を作成するのが一般的です。
契約書を紛失してしまった場合
契約書を紛失してしまっても売買契約の効力に変わりはないため、慌てる必要はありません。紛失に備えて、コピーを取っておくとよいでしょう。コピーがない場合には、相手に連絡してコピーをもらうなどの対応が考えられます。
まとめ
今回は、売買契約書のテンプレートを紹介しながら、売買契約書の作成方法や注意点などについて解説しました。契約というものは、当事者同士で決めるものであり、絶対的な答えがあるわけではありません。
ただ、①売買の目的物、②代金の支払い、③引渡しなどについては必ず書く必要があります。それ以外の損害賠償、不完全履行の場合の措置、誠実義務、合意管轄などは、これまでの経験上、定めておいた方がよいというものです。
もし、売買契約書を作成する必要が生じた場合には、今回のテンプレートを参考に作ってみてください。