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企業がサービスを提供するときに、利用者に対して提示する「利用規約」にはどのような意味があるのでしょうか。
サービス開始以降、一度も利用規約を見直していないということは少ないかと思いますが、ここでは利用規約についてのおさらいと、利用者から同意を得る方法や利用規約の作成方法、さらに改正後の民法での利用規約に関係するポイントについても解説します。
利用規約を解説する前に、「契約」という行為について考えてみましょう。契約は口頭でも成立しますが、口頭ではあとから契約内容を確認することは難しく、トラブルになったときに言った言わないの争いに発展しかねません。そこで、契約を締結する際は「契約書」という書面を作り、そこに契約条件を記載するとともに互いに承諾したことを証するための署名・捺印を行うのが一般的です。
次に「利用規約」についてです。これは一見契約書ではないように見えますが、何らかのサービスの利用を希望する人が、あらかじめ提示された利用規約の内容承諾することでサービスが利用できるようになる、いわば「利用者の承諾待ち契約書」のような位置づけです。利用規約の内容に承諾してサービスを利用した場合は、契約が成立したとみなされるのです。
利用規約は当事者双方が同意し、押印や署名をおこなうような契約書ではありませんが、サービス提供者が条件をあらかじめ提示し、利用者がその条件を承諾したらサービスが利用できるという条件を具体的に記載したものです。改正後の民法において利用規約は「定型約款」(ていけいやっかん)として規定されていました。
「約款」とは「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」とされており、「保険約款」や「運送約款」、「宿泊約款」などもこれに該当します。
利用契約と契約書には大きな違いが2つあります。ひとつは内容の変更の仕方です。契約書は当事者双方が同意した内容が記載されるため、契約書の内容を変更するには双方の同意が必要です。しかし、利用規約はサービスの提供者が一方的に定めるため、内容の変更も提供者側が一方的に行うことが可能です。変更は利用規約に同意した、すなわち契約が成立したあとからでも可能です。
もうひとつは内容の開示です。契約書は当事者のみが利用するものであるため開示するようなものではありませんが、利用規約は、利用前に利用希望者が確認できる必要があるため、広く公開されることが求められます。
民法が2020年4月1日に改正されました。ここでは改正後の民法が利用規約に及ぼす影響について解説します。
改正後の民法では、これまであやふやであった利用規約の扱いが明確になりました。具体的には、利用者が利用規約を読まず、利用規約に同意した場合でも、利用規約の内容が適用されるか否かです。
改正後の民法では、次の2点について、利用規約の条項が適用されると明記されました。
1.利用者との間で、利用規約を利用契約の内容とする合意をした場合
2.提供者側が予め利用規約を利用契約の内容とすることを利用者に表示していた場合
このため、たとえば2を満たしている場合は利用者が利用規約の内容を読んでいなかったとしても、利用規約の内容が適用されます。
前述のように、利用者が利用規約の内容を読んでいなかったとしても、利用規約の内容が適用されますが、例外があります。それは利用規約内に利用者の利益を一方的に損ねる条項がある場合です。
たとえば、長期間にわたって解約ができないとする不当条項などが挙げられるでしょう。もし既存の利用規約に不当条項が見つかった場合は、削除するか、利用者に対して条項ごとに個別に同意を得る必要があります。
サービスの提供者は、利用者から請求があった場合、遅滞なく利用規約の内容を表示する義務が定められました。なお、すでに電子メールなどで利用規約を送付している場合や、電子メール内に利用規約の公開URLを送付している場合、この義務は適用されません。
そのため、請求されてから対応するのではなく、あらかじめ以下のような対応をしておくと良いでしょう。
・利用規約をWEBサイトに公開し、利用者全員に電子メールでURLを送付する
・利用規約を利用者全員に電子メールで送付する
前述のように利用規約はサービスの提供者が一方的に変更できますが、その変更方法のルールを定め、利用規約に明記する必要が義務付けられました。まず、提供者が利用規約を変更できる内容は、次のようなものに限られます。
利用規約の変更が、契約目的に反する内容ではなく、かつ変更内容の相当性や変更を行う可能性についての定めの有無、変更に関わる事情などに照らし合わせ、合理的である場合
以上から、たとえば「法改正によって新たに違法とされた行為を、利用者の禁止事項として追記する」ことは、変更できる内容です。
次に、利用者の同意を得ずに利用規約を変更する条件は以下のような手順が必要です。
利用規約変更後の内容と、効力発生時期をインターネットなどによっての利用で周知すること
改正後の民法で影響を受ける利用規約は、次のようなサービスを提供している場合、とくに注意が必要です。また「利用規約」という題名ではないからといって対象外ではないことにも注意が必要です。
早い段階で内容や運用ルールの見直しをしておきましょう。
利用規約の法的効力は、前述した改正後の民法によって明確になりました。法的効力に関する部分をまとめると次のようになります。
なお、利用規約に利用者が一方的に不利益になるような不当条項が存在する場合は、削除するか個別に同意を得る必要があるため、今一度自社で作成した利用規約を見直しておきましょう。
それでは実際に使われている「電子印鑑GMOサイン」の利用規約(2021年2月12日版)一部を例に、作成方法のポイントを解説します。
第1章 総則
第1条(本利用約款の目的)
本利用約款は、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社(以下、「当社」という。)が提供する電子印鑑GMOサイン(以下、「本サービス」という。)の利用条件について定めることを目的とします。
まずこの利用規約について目的を明記します。また、ここではこの利用規約がどのサービスに関するものであるか、はっきりさせる必要があります。
第2章 利用契約の成立
第2条(申込の方法)
1.本サービスを申し込む場合には、当社が別途指定する方法によって、当社に対して申込を行うものとします。
2.本サービスの申込に際しては、本利用約款のすべての内容を確認してください。当社は、本サービスの申込があった場合には、本利用約款に同意したものとみなします。本利用約款は民法548条の2が定める定型約款に該当し、本サービスの利用者(以下、「お客さま」という。は本サービス上において、本利用約款を利用契約(次条第1項において定義される。)の内容とする旨を同意したときに、本利用約款の個別の条項についても同意したものとみなされます。
次に申込みに関する注意事項を明記します。また、この利用規約が民法における定型約款であることを記載するとともに、改正後の民法で要件となった部分である、この利用規約が利用契約の内容であることも明記します。
第3条(契約の成立)
1.本サービスの利用契約(以下、「利用契約」という。)は、お客さまが当社所定の情報を当社に提供することで申込みを行い、これに対して当社が電子メール等当社所定の方法で承諾の意思表示を行ったときに成立するものとします。
2.当社は、お客さまについて次の各号に掲げるいずれかの事由があるときは、本サービスの申込に対して承諾を行わないことがあります。
(1)本利用約款に違背して本サービスを利用することが明らかに予想される場合。
(2)当社に対して負担する債務の履行について現に遅滞が生じている場合又は過去において遅滞の生じたことがある場合。
(3)本サービスの申込に際して当社に対し虚偽の事実を申告した場合。
(4)申込の際に未成年者、成年被後見人、被保佐人又は被補助人であって、自らの行為によって確定的に利用契約を締結する行為能力を欠き、法定代理人その他の同意権者の同意又は追認があったことが当社において確認できない場合。
(5)第23条(反社会的勢力の排除)第1項に定める反社会的勢力に該当する場合。
(6)本人確認を行うことができない場合。
(7)前各号に定める場合のほか、当社が業務を行ううえで支障がある場合又は支障の生じる恐れがある場合。
次に契約の成立についての記載です。例では、利用者が提供者に必要な情報を提供することで申込みとし、提供者が電子メールなどで承諾の意思を送付した時点で成立すると定めています。加えて、仮に申し込みがあったとしても、提供者側がサービスの利用を承諾しないことがある場合は、その条件についても記載します。
第3章 本サービスの内容
第4条(本サービスの内容)
1.本サービスは、クラウドサーバー上で電子契約の締結、保管及び管理を行うことのできるクラウド型電子契約サービスです。その詳細については、当社のウェブサイトに記載するものとします。
2.当社は、お客さまから特に申出があったときは、当社が別に定めるオプションサービスを前項のサービスに付加して提供します。オプションサービスを利用するお客さまは、本利用約款のほか、当該オプションサービスに関する規則についても遵守してください。
3.当社は、機能の追加、拡張又は削除等、本サービスの内容を変更することがあります。(略)
サービスの内容を明記します。もしサービス内容が変更になる可能性がある場合は、サービス内容の変更時に利用者とのトラブルを避けるためにも、その旨を明記しましょう。
第4章 お客さまの義務
第6条(ID等の管理)
1.当社は、本サービスにアクセスするために必要なユーザーID及びパスワード(以下、「ID等」という。)をお客さまに対して発行します。
2.お客さまは、ID等を善良な管理者の注意をもって適切に管理し、これらが他に漏れないように注意を尽くさなければなりません。当社は、本サービスにアクセスしようとする者に対してID等の入力を求めることによってその者のアクセスの権限の有無を確かめる場合で、正しいID等を構成する文字列と入力されたID等を構成する文字列が一致するときは、その者にアクセスの権限があるものとして取り扱います。(略)
利用者がサービスを利用する上で守らなければならない点について明記します。たとえば、利用者がサービスを利用するためのIDを適切に管理することや、第三者に提供することを禁じるといった旨を記載します。その他禁止事項や提供者に届け出た情報の変更方法などについても必要に応じて記載しましょう。
第5章 免責
第13条(不可抗力)
当社は、天災、疫病の蔓延、悪意の第三者による妨害行為又は本サービスの提供に際して当社が利用する第三者のソフトウェアの 不具合 や機器の故障等、当社に責任のない事由により、お客さまが本サービスを利用することができなくなった場合であっても、これによりお客さまに生じた損害について、一切の責任を負いません。第14条(管理作業による中断等)
1.当社(当社が作業を委託する第三者を含む。)は、次の各号に掲げるいずれかの事由があるときは、お客さまに事前の連絡をすることなく、当社の裁量で本サービスの提供の一時的な中断、クラウドサーバーの調査、設 定変更、修理その他の管理作業を行うことができるものとします。(1) クラウドサーバーの保守又は点検等を行う場合。
(2)本サービスの提供に必要なソフトウェア等(以下、「本ソフトウェア等」という。)のアップデート又はア ップグレード等を行う場合。(3)クラウドサーバー、本ソフトウェア等の不具合等の修理又は修正等を行う場合。
(4)電子証明書の認証局が電子証明書発行システムの保守、点検又は修理等を行う場合。(5)その他、運用上又は技術上の理由で止むを得ない場合。
2.当社は、前項の管理作業によってお客さまに生じた損害について、第15条(責任の制限)に定める範囲でのみ責任を負います。第15条(責任の制限)
1. 当社は、本サービスを利用して締結された電子契約及び本サービス上で保管される文書の内容について一切 関知せず、本サービスの提供の一時的な中断、本サービスの全部若しくは一部の停止、又はデータ等の滅失、 損傷、漏洩、その他本サービスに関連してお客さまに生じた損害について、当社の故意又は重過失によるもの である場合を除き、一切の責任を負いません。また、当社の故意または重過失によりお客さまに生じた損害に ついては、直接かつ現実に発生した損害についてのみ賠償するものとし、その賠償額は、当該損害が生じた月 から遡って1か月の間において、サービス利用料金としてお客さまが当社に対して実際に支払った金額の範囲 に制限されるものとします。当社は、本項に定める損害の賠償の他、データ等の復旧その他一切の責任を負いません。2.当社は、次の各号に掲げる事項、その他本サービスに関する事項についていかなる保証も行わず、いかなる担保責任も負いません。
(1) 正当な権限を有する者が本サービスを利用して電子契約を締結したこと。(2) 本サービスが中断、停止又は廃止されないこと。
(3) 本サービスが一定の品質を備えること。(4) 本サービスの内容又は機能が特定の利用目的にかなうこと。
(5) 本サービスを利用することが第三者の権利を侵害するものではないこと。第16条(消費者契約に関する免責の特則)
1. 本利用約款の条項のうち、次の各号に掲げる条項は、個人のお客さま(事業として又は事業のために本サービスを利用するお客さまを除く。)については、当社の責任の全部を否定するのではなく、当該損害が発生した 本サービスの利用期間に係る1か月分のサービス利用料金に相当する金額を限度として、当社がその損害をお 客さまに賠償するものと読み替えるものとします。(1) 当社の債務不履行によりお客さまに生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項。
(2) 本サービスにおける当社の債務の履行に際してなされた当社の不法行為によりお客さまに生じた損害を賠 償する民法の規定による責任の全部を免除する条項。(3) 本サービスの目的物に不適合があるとき(利用契約が請負契約の性質を有する場合には、本サービスによ る仕事の目的物に不適合があるとき)に、その不適合によりお客さまに生じた損害を賠償する当社の責任の 全部を免除する条項。
2.本利用約款の条項のうち、次の各号に掲げるものは、個人のお客さま(事業として又は事業のために本サービスを利用するお客さまを除く。)については、適用しないものとします。(1) 当社の債務不履行(故意又は重大な過失に限る。)によりお客さまに生じた損害を賠償する責任の一部を免 除する条項。
(2) 本利用約款における当社の債務の履行に際してなされた不法行為(当社の故意又は重大な過失に限る。)によりお客さまに生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項。サービスを提供するにあたっての免責事項について明記します。このほか、責任の制限や、消費者契約に関する免責の特則、料金について、サービスの利用期間及び終了に関する情報などがあれば記載します。
第29条(本利用約款の変更)
1.当社は以下の場合に、当社の裁量により、本利用約款を変更することができます。
(1)本利用約款の変更が、お客さまの一般の利益に適合する場合。
(2)本利用約款の変更が、利用契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものである場合。
2.当社は前項による本利用約款の変更にあたり、変更後の本利用約款の効力発生日の前に相当な期間をもって、本利用約款を変更する旨及び変更後の本利用約款の内容とその効力発生日を当社のウェブサイトに掲示し、またはお客さまに電子メールで通知します。
3.当社がお客さまに変更後の本利用約款の内容を通知し、変更後の本利用約款の効力発生日以降にお客さまが本サービスを利用した場合、お客さまは本利用約款の変更に同意したものとみなします。
利用規約を変更する場合があることを明記します。ここでは改正後の民法で義務付けられた、変更後の効力発生日や、その通知方法などについても具体的に記載する必要があります。
利用規約を作成する場合、利用者が一方的に不利益になるような条項は記載できません。たとえば、高額なキャンセル費用、長期間にわたって解約ができないといった文言などの不当条項、関係のない商品の購入など、利用するサービスにとって想像できないような保守管理条項などの不意打ち条項が該当します。
こうした条項は、無効と判断されることもあるので注意が必要です。必要に応じて弁護士は法務部門のチェックを受けましょう。
前述のように、利用規約に同意することが契約条件であることを明記した上で、利用規約を表示する必要があります。
Webサイトであれば、「利用規約に同意する」といったボタンやチェックボックスを設けることで問題ないでしょう。また、書面での契約であれば、契約書へ「利用規約に同意する」旨を記載するほか、同意書を提出してもらう方法があります。
利用規約の変更は、改正後の民法の解説で触れたように、以下のような内容と条件において変更できます。
利用規約の変更が、契約目的に反する内容ではなく、かつ変更内容の相当性や変更を行う可能性についての定めの有無、変更に関わる事情などに照らし合わせ、合理的である場合
利用規約変更後の内容と、効力発生時期をインターネットなどによって周知すること
利用規約はサービスを提供する側が、利用者との契約を行うときに提示する契約条件がまとめられたものです。サービス提供者は利用者に対し、利用規約への同意が利用契約の条件であることを明記し、明確に同意したことを確認しなければなりません。
改正後の民法では、これまであやふやであった利用規約の扱いが明確になりました。すでに公開している利用規約が民法に合致しているか早急に確認し、必要があれば改定しましょう。
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