近年、耳にすることが増えたレピュテーションリスクとは何を意味している言葉なのでしょうか。SNSが普及した現代、企業の法令違反や不祥事、一般消費者による評判は素早く、かつ広範囲に広がってしまいます。企業はどのようにすれば、レピュテーションリスクを回避、あるいは最小限に抑えることができるのでしょうか。
目次
レピュテーションリスクとはどんなものなのか
レピュテーションリスクとは、悪い評判によって顧客や従業員が離れ、企業価値が下がることです。レピュテーション(reputation)とは評判や世評、評価という意味です。評判リスク、風評リスクと言い換えることもできます。
かつての企業価値は財務指標で測られることが一般的で、目に見える価値こそが重要でした。しかし、現代は企業の倫理、社会的な役割も重視されるようになっており、企業の振る舞いにも顧客、社会は注目しています。企業の法令違反はもちろん、社員の不祥事や顧客への問題のある対応などSNSの普及により悪評が瞬時に拡散されます。そのため、一瞬で取り返しのつかない事態に陥ることも多くなっているといえるでしょう。
かつては企業やブランドのイメージはCMやマスコミの報道などで作られていました。しかし、現代はSNSや動画配信サイトなどでも評判が作られ、しかもマスコミの報道やテレビCMよりも素早く広く拡散します。
レピュテーションリスクが生まれる3つの原因
なぜレピュテーションリスクが生まれるのか、なぜ企業の悪評が流れるのか原因を分析することが大切です。レピュテーションリスク発生のおもな原因は3つあります。
企業の違法行為に起因する
1つめは企業の違法行為に起因する原因です。企業の違法行為や不祥事などによる評判の低下は、レピュテーションリスクに占める割合も大きく、分かりやすい原因です。たとえば、バイトテロなど従業員による不適切な行為や発言で企業イメージが低下します。従業員が盗撮や盗難、横領など重大な犯罪行為を行い、企業のイメージが損なわれることもあります。もちろん、バイトテロや従業員の犯罪はすべてが会社のせいだとはいえません。しかし、一定の対策ができることは事実なため、企業と無関係ともいえないでしょう。
内部告発により違法な長時間労働やハラスメント、補助金や給付金の不正受給などが明るみに出て企業イメージが低下することもあります。近年よく見られる個人情報の流出、産地偽装などの不祥事も企業の評判に影響します。
違法ではないが企業の行動に起因する
2つめは違法ではないが企業の行動に起因する原因です。よくみられるのは、提供するサービスや商品の質の低下です。たとえば、小麦粉の価格が値上げされるたびに大抵のお菓子やスパゲティなどは容量を小さくして販売しています。それ自体は極端に値段を上げないための企業努力であり、仕方のないことです。しかし、消費者が快く思わず企業の評判が下がることがあります。顧客やクレームへの不適切な対応により悪評が立つことも珍しくありません。
第三者の行為
3つめは第三者の行為による原因です。たとえば、根拠のない悪評が立ち風評被害を受けることがあります。第三者の行為が原因の場合は、悪意がある場合もあれば勘違いの場合もあるため、企業としては対応が難しい問題です。悪意はなくとも消費者の勘違いによりデマが生まれてしまうことはあります。たとえば、ある有名ビールメーカーは、ウイルスの名前と似ているからということで企業イメージが下がり、一時生産が停止する事態になりました。このようにSNSでネガティブな意見が一度流れてしまうと、企業がイメージを維持するのは難しくなります。
レピュテーションリスクが及ぼす悪影響は?
レピュテーションリスクの及ぼす悪影響は顧客離れです。顧客が離れれば、当然、売上は落ちていきます。時には取引を打ち切られたり、融資を止められたりすることすらあります。その結果、企業は経営難に陥ってしまうでしょう。大手企業の場合はCMを打ち切られるというケースも珍しくありません。CMが打てなくなれば、一般消費者の企業に対するイメージがますます低下していきます。その結果、求人が少なくなり、優秀な人材確保が難しくなるといった影響が出ることも考えられます。
レピュテーションリスクの事前対策
レピュテーションリスクとは悪評が流れたり、評判が落ちたりして企業のイメージが損なわれることです。そのため、発生させないように事前対策を行うことこそが大切です。
コンプライアンスの徹底
対策の1つめはコンプライアンスの徹底です。企業不正が明るみに出れば、レピュテーションリスクは高くなります。社内における不正をなくすためにコンプライアンスを徹底しましょう。
管理体制・社内教育の徹底
企業にできる事前対策の2つめは、管理体制・社内教育の徹底です。しっかりとした管理を行い、軽はずみなバイトテロの発生を防がなければなりません。勤務中のスマホ使用禁止、SNSのリスク研修を行うなどの対策が必要でしょう。また、従業員の不満が溜まるとSNSで企業に対する不満が拡散されるリスクが高まるため、働きやすい環境の整備、風通しの良い環境を作るといった対策が必要です。内部告発窓口を設けることも重要な対策となるでしょう。社内の問題は社内の段階で処理するようにしましょう。もちろん、内部告発者に不利益が及ばない体制作りは必須です。
顧客対応の見直し
顧客対応はクレームの原因になるため、顧客対応の見直しも必要でしょう。顧客に丁寧に対応することに加え、クレーマーに対しては毅然と対応するよう方針をしっかり打ち出すべきです。
情報収集体制を整える
情報収集体制を整えることは重要です。悪評が立っているかどうか、普段から情報収集しておけばリスクを最小限に抑えられるでしょう。情報収集する際は、既存マスコミ(新聞報道など)とネットのバランスが大切です。X(旧Twitter)の評判ばかり気にしすぎると、判断を誤ってしまいます。メディアによって見る層、利用する層が違います。既存の新聞やニュースも大切なため、バランスをとって見ていくことが重要です。
情報発信体制を強化する
情報発信体制を強化することも重要です。ビジネスにおいては守りだけではなく、攻めの姿勢を持つことも大切です。自社のサイト、SNSで普段から積極的に情報発信していれば、悪評やデマが発生した時に素早く対応できます。また、値上げやサービス内容の変更がある場合、きちんとネット上で説明すると良いでしょう。
レピュテーションリスクのための情報収集方法
ニュースやweb上の評判、SNSの情報を受動的に受け取るだけでなく、積極的な方法で情報収集を行うことも可能です。取引先や顧客に対して定期的にアンケート調査を行い、自社のサービスや商品に満足しているか、改善点はあるか調べることができます。従業員にもアンケートを行い、労働環境や待遇への満足度を測ることができます。取引先や従業員へのアンケートを行う場合は本音が出づらいため、匿名性にする方が良いでしょう。アンケート結果は社内で共有し、改善へ向けて意見を出し合いましょう。
悪評が立った時の事後対策は?
企業の悪評が立っていることに気づいたら、まずはどのくらい広がっているか見極めましょう。原因が企業側にある場合は、きちんと説明し、謝罪が必要な場合は早めに謝罪します。被害者がいる場合はきちんと補償することも必要です。
デマの場合はきちんと説明して訂正しなければなりません。誠実かつ迅速な対応こそが重要です。悪評やデマに気がついた段階で弁護士に相談すべきです。誹謗中傷の域に達している場合は、法的手段も考えざるを得ません。そのような場合には、刑法230条の名誉毀損罪や刑法233条の業務妨害罪で刑事告訴することができるでしょう。
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法|e-Gov 法令検索
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法|e-Gov 法令検索
または、発信者を特定して損害賠償請求することもできます。いずれにしても、悪評は放置せず、すぐに何らかの対応策を考えるべきです。