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債権回収とは
債権回収とは、文字通り債権を回収する行為です。債権とは負債を抱える債務者に対して支払いを求める権利であり、金銭や物品、労力などが債権に含まれます。しかし、債権回収の多くは金銭の支払い時に用いられます。
期限までに債務が弁済されなかった場合に債権回収を行いますが、その方法は多岐に渡ります。債権回収のフェーズまで進むと、債務者側と何らかのトラブルが既に起こっているケースがほとんどです。そのため、法律に基づいて適切かつスムーズに債権回収を進められるようにしなければなりません。会社経営の場合であれば、取引先企業の代金未払いや売掛金の未払いといったトラブルが起こりやすいです。
債権回収の事例
債権回収の事例は数多く存在します。中でもよくあるケースとなるのが、貸し付けた金銭が期限通りに支払われない場合です。個人間、企業間ともによく起こるケースであり、債権回収を適切に実施しなければ最悪踏み倒される事態にもなりかねません。また、離婚した元配偶者が、養育費を期限までに支払われなかった場合も、親権を持つ側には請求権に基づく債権回収が可能になります。
債権回収の手続き方法
債権回収の手続きにはいくつか方法があります。債務者側に支払いの意思があるのかなど、状況に応じて適切なものを選択しましょう。
電話やメールでの取り立て
多くの場合、最初に取られる方法が、電話やメールでの取り立てです。債務者との信頼関係が続いていたり、話し合いの余地が残っていたりする場合はこの方法で支払いの意思を確認します。場合によっては期限を改めて再設定するといった対応へ進みます。仕事が忙しい場合など、債務者側が返済を忘れていたケースもあるため、まずは電話やメールといった手軽な方法で確認を取ることがおすすめです。
内容証明郵便による催告
電話やメールで連絡したものの曖昧な返事をされる、もしくは応答がないなど、支払いの意思がないと判断できる場合もあるでしょう。そのような場合には、内容証明郵便を送って催告する方法があります。内容証明郵便とは、郵便局が差出人や受取人、日時を証明してくれる特殊郵便です。送付の事実が証明できるため、正当な請求として債務者側に通知できます。
自宅への訪問
電話やメール、内容証明郵便を送っても一向に返事がない場合も考えられます。このような場合で、債務者側とある程度関わりを持っているのであれば、自宅へ訪問してみるのも一つの方法です。それほどの親交がない債務者の場合、自宅への訪問は大きなトラブルに発展する可能性もあるためおすすめできません。しかし、なるべく法的手段へと発展させたくない場合は、連絡を取るために自宅へ伺うのも手段の一つです。
支払督促
債務者に対して再三請求をしたにもかかわらず回収の目処が立たない場合は、法的手段を検討しましょう。その中で最も利用しやすい手段が支払督促です。支払督促では、裁判所から債務者に対して直接支払いの督促をしてもらえます。債権者側も簡易的な書類を準備するだけでよく、手数料も訴訟時に比べると低額で抑えられます。支払督促を送ってから2週間経過しても異議申し立てがない場合は、仮執行宣言が付され、強制執行の申し立てが認められます。支払督促には債務者側から異議申し立ても可能であり、異議申し立てが適法と認められた場合は訴訟手続きへと移行します。
訴訟対応
債務者に返済の意思がない場合、訴訟を提起する方法もあります。訴訟と聞くと長引くイメージがありますが、債務者側に争う意思がない場合は数回の裁判期日で判決になるケースも少なくはありません。また、支払いを求める金額が60万円以下の場合は、簡易裁判所にて少額訴訟を提起することも可能です。少額訴訟の場合は原則として1回で審理を終え、即日で判決が下されます。
強制執行
仮執行宣言が付されても対応が見られない、訴訟で支払いを命じられても応じない場合も考えられます。このような場合には、債務者の財産を差し押さえて債権の返済に充当する強制執行手続きが可能です。強制執行には仮執行宣言付支払督促や訴訟での判決といった債務名義が必要になり、事前にこれらを確定させなければ実行できません。
恐喝まがいの取り立ては禁止
債権回収にあたって禁止されているのが、恐喝まがいの取り立てです。借金の取り立てといえば、怖い人が家に訪れて恐喝されるといったイメージがありがちです。しかし、これは貸金業法第21条で、取立て行為の規制として禁止されている行為です。
(特定公正証書に係る制限)
第二十条 貸金業を営む者は、貸付けの契約について、債務者等から、当該債務者等が特定公正証書(債務者等が貸付けの契約に基づく債務の不履行の場合に直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載された公正証書をいう。以下この条において同じ。)の作成を公証人に嘱託することを代理人に委任することを証する書面を取得してはならない。
引用元:貸金業法|e-Gov 法令検索
貸金業法第21条に基づけば正当な理由がない場合に、不適当な時間帯に電話連絡や自宅訪問などを行うことも禁止されています。また、債務者が返済しないことを第三者へと吹聴する行為も認められていません。違法な債権回収行為を行ってしまうと、債務者側から損害賠償請求権を行使されるリスクもゼロではなく、自身の債権回収が出来なくなるかもしれません。債権回収は法律に基づいて、適切な手続きのもと行うようにしましょう。
債権には時効がある
債権には消滅時効があるため注意しましょう。消滅時効とは、一定の期間に権利が行使されない場合、その権利が失効される制度です。債権の消滅時効は2020年4月1日以降、権利行使できることを知った時点から5年、もしくは権利を行使可能な時点から10年のいずれかを超過することで完成になります。
消滅時効が完成すると、債務者側は消滅時効の援用が可能になり、債権を消滅させることができます。こうなってしまうと債権回収は不可能になるため、債権者側はなんとしても完成を阻止しなければなりません。消滅時効を阻止する方法には完成猶予、更新の2種類の措置があります。それぞれの方法を利用して時効完成を阻止しましょう。
完成猶予
時効完成となる期間になっても、時効を完成させないようにする手続きが完成猶予です。正当な事由が認められれば、時効の完成が猶予されます。改正民法の施行前は停止という名称でした。たとえば、債務者への取立てに関する裁判や強制執行といった手続きが長引いて消滅時効が完成する場合は、手続き終了時まで完成猶予を適用させることができます。通常、訴訟や強制執行といった手続きは債権者側も手間がかかります。そのため消滅時効の完成が迫っている場合は、まず内容証明郵便などで支払いの催告を行います。催告を行うことで、時効の完成が6カ月猶予されるため、その間に準備を進めていくのが定石です。完成猶予は、時効の完成を先延ばしできるものと覚えておきましょう。
更新
消滅時効の期間を取り消して、期間を初期に戻すのが更新です。改正民法の施行前は中断という名称でした。たとえば、裁判による判決や和解・調停によって債務者が債務について承認した場債務の一部を支払った場合は、更新が適用されて時効も初めからのスタートになります。債権の回収が長引く場合は、定期的に時効の更新に該当する手続きを取れば消滅時効の完成を防ぐことができます。更新は、時効をリセットできるものと覚えておきましょう。
債権回収をスムーズに進めるための注意点
債権回収は、場合によって複雑な手続きを求められて手間がかかります。スムーズに進められなければ、消滅時効が完成するなどのデメリットも発生しかねません。以下の内容に注意したうえで債権回収を進めましょう。
契約内容や時効は事前に確認する
債務者と交わした契約内容や債権の消滅時効については、事前にしっかりと確認しておきましょう。契約書に記載された支払いについての情報や、実際の支払履歴など状況をまとめることで、債務者に対してどういった請求が可能であるかが明確になります。中には契約にない不法行為で債権が発生しているケースもあるため、その場合何が原因で債権が発生したのかなどを法的に分析する必要があります。こうした調査の時間を十分に取るためにも、事前確認が重要なのです。
一括が厳しい場合は分割払いも検討する
債務者が一括返済は厳しいと言っている場合もあるでしょう。そのような場合には、契約を変更して分割払いを検討するのも、債権回収の可能性を少しでも高める一つの方法です。
分割払いで支払えるのであれば、訴訟や強制執行といった信頼関係に大きく響く手続きにまで進むことを避けられます。このようにすれば、債権者側としても気持ち的には楽になります。もちろん、自身の財務状況が困窮している場合などは、無理に妥協せず適切な対応で臨みましょう。
第三者からの情報取得手続で財産を特定する
最終手段として強制執行を申し立てる際は、差し押さえられる財産を特定する必要があります。不動産はもちろん、車や有価証券など、あらゆる情報や手がかりから財産を調査しなければなりません。自身での調査が難しい場合は、第三者からの情報取得手続を申し立てることが可能です。申し立てにより、債務者以外の第三者から債務者所有の財産について情報提供を受けられます。この制度を有効活用して財産差し押さえを行いましょう。
債務者が自己破産した場合はどうなる?
裁判所に申し立てることで、抱えている借金を全て免除してもらえる手続きが自己破産です。自己破産における免責が認められると、債務者はその時点で債権の返済義務がなくなるため、債権回収が実施できません。破産者が財産を所有している場合は、債権者に平等に分配される決まりが破産法には定められています。しかし、個人債務者の場合は、大きな配当を得られるほどの財産を所有しているケースは少ないため、貸した金額が高いほど債権者は損をする傾向にあります。
債権者側は債務者の免責に対して異議申し立ても可能であり、異議の妥当性や債務者側の悪質性が認められれば免責が認められなくなるケースもあります。また、破産手続き開始前に訴訟を起こして強制執行に移るといった手段を取ることもできます。自身が大きく損害を被らないよう、迅速に行動することが大切です。
債権回収は法に基づいて適切に
決められた期限を超過している以上、債権回収を行うことは債権者の当然の権利です。相手が返済に応じない場合は法的手段を取ってでも返済してもらう必要があります。しかしながら、度を超えた債権回収を行ってしまうと、債務者から逆に訴えられるケースもあるため、法に基づいて慎重に進めるようにしましょう。手続き方法も多様であるため、債務者との関係や状況に基づいて対応することが大切です。