再就職手当とは、雇用保険の被保険者が一定の条件を満たした場合に受け取れる手当です。早期の再就職を促進するために支給されるもので、転職活動中の経済的な不安を軽減する上で、大変役立つ制度です。しかし、再就職手当のしくみや受給条件は複雑で、わかりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では、再就職手当とは何か、どのような条件で支給されるのか、計算方法、そして具体的なメリットについて、徹底解説します。
目次
再就職手当とは?
再就職手当は、失業者が新たな仕事を見つけて再就職する際に受け取ることができる手当の一つです。具体的には、失業手当(失業保険)を受給している期間中に、一定の条件を満たして早期に再就職した場合に支給される手当です。この手当は、失業者が早期に職に就くことを奨励し、再就職の意欲を高めることを目的としています。
再就職手当と失業手当の違い
再就職手当と失業手当は、どちらも雇用保険制度で定められた手当ですが、目的や支給タイミングが異なります。
失業状態における生活を安定させ、再就職活動を支援することを目的としています。制度上の正式名称は「基本手当」ですが、一般的に失業手当や失業保険、失業給付などと呼ばれています。
失業手当は、離職後ハローワークに求職申し込みをしてから、自己都合による離職の場合は7日の待期期間+2カ月(状況によっては3カ月)の給付制限を経てから支給されるものです。一方、会社都合による離職の場合は給付制限がなく、7日の待期期間を過ぎれば支給が開始されます。なお、離職理由や被保険者期間、離職時の年齢によって支給される日数が異なり、90日~330日の所定給付日数が定められています。
早期かつ安定した再就職を促進し、生活の安定と自立を支援することを目的としています。
再就職手当は、再就職したのち、ハローワークで申請を行ってからおよそ1カ月半~2カ月後に手当が支給されます。
再就職手当は何に使っても良いの?
再就職手当は、受給者が自由に使うことができます。これは特定の用途に制限されておらず、受給者の裁量に任されています。以下に、再就職手当の一般的な使い道とその理由をいくつか挙げますので、参考にしてみてください。
生活費の補填
再就職後、新しい仕事での給与が支給されるまでの期間に生活費が必要です。家賃や光熱費、食費など、日常生活に必要な経費を賄うために再就職手当を使えます。再就職直後の経済的な不安を軽減できます。
再就職に伴う費用
再就職に伴う費用、たとえば、通勤定期券の購入や引っ越し費用、新しい職場で必要な服装や道具の購入などに使用できます。これらの初期費用をカバーすることで、スムーズに新しい職場に適応することが可能です。
貯蓄や投資
再就職手当を、将来のための貯蓄や投資に回すことも一つの選択肢です。緊急時の予備費として貯蓄したり、資産形成のために投資したりすることで、経済的な安定を図ることができます。
スキルアップや自己投資
新しい職場でのスキルアップのために、資格取得や研修、自己啓発のためのセミナー受講などに再就職手当を使うことも有益です。自分のキャリアをさらに発展させることができます。
再就職手当の受給条件
再就職手当は、基本手当の受給資格を持っている方が安定した職業に就いた場合に、基本手当の支給残日数分が支給されるものです。手当の支給を受けるには、以下の要件にすべて該当する必要があります。
①基本手当の所定給付日数の1/3以上を残して再就職すること
再就職手当を受け取るには、基本手当の所定給付日数のうち、1/3以上を残して再就職する必要があります。たとえば、所定給付日数が90日の場合、30日以上を残して再就職することが条件となります。
②受給資格決定日以降の待期期間(7日間)を経過していること
失業給付の受給資格決定日から7日間の待期期間を経過していることが必要です。この待期期間中に再就職した場合、再就職手当は支給されません。
③離職した前の事業所に関わりがないこと
離職した前の職場に関わりがない会社に就職したときのみに支給されます。再び同じ会社に就職した場合や、前職からの紹介で就職した場合は、支給対象外となります。
④1年を超えて雇用される見込みがあること
再就職先で1年以上継続して雇用される見込みがあることが必要です。契約期間が1年未満である場合や、明らかに短期間で雇用が終了する見込みがある場合は支給されません。
⑤ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職していること
離職理由により給付制限がある場合は、求職申し込みをしてから、待期期間満了後1カ月の期間内は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職する必要があります。
⑥原則、雇用保険の被保険者であること
原則として、再就職先で雇用保険への加入が必要です。
⑦再就職手当の支給を受けたことがないこと
過去3年以内の就職において、再就職手当を受け取ったことがある場合、同じ受給資格期間中に再度受け取ることはできません。
⑧受給資格決定前から採用が決定していないこと
受給資格決定前から採用が内定していないことが要件です。前職を退職する時点で、新しい就職先に内定していた場合は対象外です。
出典:厚生労働省「再就職手当のご案内」
再就職手当の支給額はいくら?
再就職手当は、所定給付日数の1/3以上の支給日数を残して就職した場合には、支給残日数の60%、所定給付日数の2/3以上の支給日数を残して就職した場合に、支給残日数の70%が支給されます。
スクロールできます
所定給付日数 | 支給残日数 | 再就職手当の額 |
支給率 60%の場合 | 支給率 70%の場合 |
90日 | 30日以上 | 60日以上 | 基本手当日額 × 所定給付日数の支給残日数 × 60%または70%
※上限有 ※1円未満の端数は切り捨て |
120日 | 40日以上 | 80日以上 |
150日 | 50日以上 | 100日以上 |
180日 | 60日以上 | 120日以上 |
210日 | 70日以上 | 140日以上 |
240日 | 80日以上 | 160日以上 |
270日 | 90日以上 | 180日以上 |
300日 | 100日以上 | 200日以上 |
330日 | 110日以上 | 220日以上 |
360日 | 120日以上 | 240日以上 |
出典:厚生労働省「再就職手当のご案内」
なお、再就職手当に関する基本手当日額には以下のような上限額があります。
- 離職時の年齢が60歳未満:6,395円
- 離職時の年齢が60歳以上65歳未満:5,170円
※令和2024年9月時点
再就職手当の額の計算方法
再就職手当の額は、以下のように計算されます。
再就職手当の額 = 基本手当日額 × 残り日数 × 支給率
例:次の条件で計算します。
残り日数が60日の場合(所定給付日数の3分の2以上→支給率70%)
再就職手当の額 = 5,000円 × 60日 × 70% = 210,000円
残り日数が40日の場合(所定給付日数の3分の1以上かつ3分の2未満→支給率60%)
再就職手当の額 = 5,000円 × 40日 × 60% = 120,000円
このように、再就職手当の額は再就職した時点での残り日数と支給率に応じて決まります。具体的な金額については、ハローワークに相談することをおすすめします。
出典:厚生労働省「再就職手当のご案内」
再就職手当の手続き方法
ここでは、再就職手当を受け取るための手続き方法をご紹介します。
必要書類
再就職手当を申請するには、以下の必要書類を準備する必要があります。
- 再就職手当支給申請書(ハローワークで配布)
- 採用証明書(就職先事業主が発行)
- 雇用保険受給資格者証
- 失業認定申告書(直近のもの)
- 本人確認書類(免許証、マイナンバーカードなど)
- 口座振込依頼書(金融機関の口座情報が記載されたもの)
上記は基本的な書類であり、状況によって追加書類が必要になる場合があります。
手続きの基本的な流れ
再就職手当の手続きは、以下の3つのステップで行われます。
STEP
就職先で採用証明書を取得
就職が決まったら、採用証明書を就職先事業主から発行してもらいましょう。
STEP
ハローワークに申請
採用証明書を取得したら、ハローワークに再就職手当を申請します。
STEP
審査・決定
ハローワークが申請書類を審査し、再就職手当の支給が決定されます。審査には約1カ月かかります。再就職手当の申請期限は、就職した日の翌日から1カ月以内です。期限を過ぎてしまうと、支給を受けることができなくなるので注意が必要です。
再就職手当のメリット
再就職手当の主なメリットをご紹介します。
早期再就職を促進する
再就職手当は、早期再就職を促進する効果も期待できます。再就職手当の支給残日数が多いほど、支給額も高くなります。そのため、早期に再就職すればするほど、より多くの再就職手当を受け取れるのがメリットです。これは、転職活動中のモチベーションを高め、早期の再就職を目指すインセンティブとなるでしょう。
万が一、1年以内に離職しても返金しなくていい
再就職手当には、「1年以上継続して雇用される見込みがある」という条件が課せられていますが、万が一、1年以内に離職することになったとしても、返金する必要はないとされています。
再就職手当を受給するデメリット
再就職手当には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。
失業手当の減少
再就職手当の額は、失業手当の支給残日数から算出されます。つまり、再就職が早ければ早いほど、失業手当を受け取れる日数は減ってしまうのです。再就職手当は失業手当の6割または7割となるため、一般的には、失業手当を満額受け取った方がお得だといえます。
早期に再就職することでの経済的安定を優先するか、失業手当の全額受給を優先するかは、個々の状況に応じて慎重に判断する必要があります。
手続きの煩雑さ
再就職手当を受け取るための手続きは煩雑であり、多くの書類を準備しなければならない点がデメリットです。再就職が決まった際には、再就職手当支給申請書や雇用保険受給資格者証、採用証明書など、さまざまな書類を用意してハローワークに提出する必要があります。これらの手続きを完了させるためには、再就職先の協力が必要となり、企業によっては手続きに時間がかかることもあります。
また、ハローワークでの審査が完了するまでの期間もかかるため、再就職手当を受け取るまでの間に一定の待期期間が発生する点も注意が必要です。
早期再就職のプレッシャー
再就職手当は早期再就職を奨励する制度ですが、その一方で求職者に対して早期に仕事を見つけなければならないというプレッシャーを与えることがあります。とくに、自分に適した職場を慎重に選びたいと考えている求職者にとって、早期再就職のプレッシャーは精神的な負担となる場合があるでしょう。
このプレッシャーによって、求職者が焦って不本意な職場に再就職してしまうリスクも存在します。結果として、短期間での再離職や職場環境のミスマッチが生じる可能性があり、長期的なキャリア形成においてはマイナスの影響を与える可能性があるでしょう。このように、再就職手当が早期再就職を奨励する一方で、求職者にとっては慎重な職場選びを妨げる要因にもなり得るのです。
受給条件の制約
再就職手当を受け取るためには、さまざまな受給条件を満たす必要があり、これがデメリットとなることがあります。たとえば、所定給付日数の1/3以上を残して再就職することや1年以上継続して雇用される見込みがあることなど、厳格な条件が設定されています。これらの条件を満たさない場合、再就職手当を受給することができません。
また、過去3年以内に再就職手当を受け取ったことがある場合も受け取ることはできません。さらに、失業保険の受給資格決定日以降に再就職先が決まっていることが条件となるため、失業保険の受給資格決定前に再就職先が見つかった場合は手当の対象外となります。このように、受給条件が厳しいため、すべての求職者が再就職手当の恩恵を受けられるわけではないという点もデメリットといえるでしょう。
再就職手当を上手に活用しよう
再就職手当を受給するためには、本記事で紹介した基本的な要件をすべて満たす必要があります。また、受給額の計算方法や手続き方法なども理解しておきましょう。再就職手当は、早期の再就職を後押しする貴重な制度です。 ぜひ、この制度を活用して、希望の転職を成功させてください。