固定資産に修理や改良などを行い、そのために費用を要した場合、それらの費用は資本的支出と収益的支出のどちらかに分類されます。しかし、両者の支出区分の意味や、両者が適用される状況について、深く理解している人は少ないかもしれません。

当記事では、資本的支出と収益的支出について、両者の意味や違い、判断基準などについて深く掘り下げていきます。

資本的支出の定義

資本的支出とは、固定資産に対する修理や改善が、その固定資産の耐久性を増強させ、その価値を引き上げた場合に発生します。

具体的には、ビルの改築や、より性能の高い部品への交換などが含まれます。これらは単なる修繕ではなく、改築や高性能化によって固定資産の価値が増大したり、使用期間が伸びたりといった効果を狙った支出です。その場合に限り、通常は修繕費となる支出が資本的支出となります。

資本的支出が発生したとき、その費用は固定資産の取得価額に加算されます。その後は、年次費用として、減価償却費に計上されます。

資本的支出の例

建物の外壁の塗装を新しくすることを考えてみてください。年月の経過とともに塗料がはがれてしまったため、塗り替えた場合、要した費用は通常、修繕費として扱われます。

しかし、使用した塗料がこれまでよりも防水性能や断熱性能に優れていた場合はどうでしょうか。塗り替えの結果、建物全体の価値や耐用期間が増したと考えられるため、その支出は資本的支出とみなされるのです。

さらに詳しい資本的支出の事例として、以下のようなケースを国税庁が示しています。

1つ目は、建物に新たに避難階段を設置するために発生した費用です。これは、物理的に機能を追加したケースとなります。

2つ目は、建物の使用目的を変更するために改装を行った場合です。たとえば、居住に使用していた部屋を事務所用に変更するケースが挙げられます。増改築やリフォームも、資本的支出になり得るでしょう。

3つ目は、機械の部品をより高品質や高性能のものに取り換えた結果、通常の交換費用を超えた場合です。業務用の機械設備やコンピューターなどを高性能化したケースが考えられます。

1 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額

2 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額

3 機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額

引用元：No.5402 修繕費とならないものの判定｜国税庁

収益的支出の定義

収益的支出とは、固定資産のメンテナンスや元の状態への復旧に関係する費用を指します。資本的支出と違って、収益的支出は固定資産の価値を増大させません。したがって、支出した全額をその期間の経費として処理することになります。

たとえば、建物の外壁にできた亀裂を修復して元の状態に戻すといったケースが考えられます。これは、先に資本的支出の例として挙げたような、建物の性能を向上させる修復ではありません。劣化した部分を元の状態に戻すだけです。そのため、建物全体の価値が増えるわけではなく、耐久性が向上するわけでもないことに注意が必要です。このようなケースが収益的支出となります。

資本的支出と収益的支出の違い

資本的支出と収益的支出の違いを判断するための基準は非常に重要です。しかし、固定資産の修理や改善に関しては、その状況によりさまざまな費用の発生が考えられます。そのため、すべてのケースに具体的な例を当てはめることはできません。判断が難しい場合、慎重な対応が求められます。

実施方法や目的により判断が必要

ある修繕費が資本的支出となるか収益的支出となるかは、資産の価値や機能がどのように影響を受けるかに基づいて決定されます。

先述のように、資本的支出は資産の価値や機能を向上させるものです。新しい建物の建設、既存の建物の増築、新たな設備の追加、あるいは既存の資産の性能向上などに伴う出費などが該当します。一方、収益的支出となる修繕費は、既存の資産の価値や機能を保つための出費で、大きな変更や改善は含まれません。しかし、資本的支出の一部が修理を含んでいる場合は、一定の条件下で修繕費として計上することができます。

たとえば、一戸建て住宅を自宅兼事業所として使用しているケースは少なくないはずです。この場合、住宅部分と事業所部分を問わず、その建物に改良を施すと資本的支出とみなされます。耐震性を向上させるための構造改良やオール電化、断熱材の追加、バリアフリー対応への改築などが具体例として挙げられるでしょう。

一見、修繕費に思えるような工事でも、その実施方法や目的により、資本的支出となることもあります。たとえば、以下のようなケースが該当します。

・トタン屋根から瓦屋根への改装
・雨漏りの修理で屋根全体を防水対応へ変更
・高級塗料を使った防水や断熱効果を追加する外壁塗装

収益的支出となるケース

通常は資本的支出とみなされる出費でも、一定の条件下では収益的支出として計上することが許されています。以下におもな条件下による区分を紹介します。

・修理や改良がおおむね3年以内のサイクルで行われ、それが資産の価値や機能を向上させる場合、修繕費とみなされます。
・全額で修理や改良にかかった費用が20万円未満の場合では、修理などによって機能や価値が向上したかどうかに関係なく、修繕費として計上できます。ただし、税込みまたは税抜きでの計算により、20万円の閾値は変わることがあるので注意が必要です。
・修繕費と資本的支出の線引きが難しい場合であっても、費用が60万円未満であれば修繕費として計上できます。
・費用が前年末の資産取得価額のおおむね10％以下となるときは、修繕費として計上可能です。
・法人には特例があり、修理・改良費の30％、または取得価額の10％のうち、どちらか少ないほうを修繕費とし、残りを資本的支出として計上することが許されています。

このように、資本的支出と修繕費の違いは、その出費が資産の価値や機能にどのように影響を与えるか、または特定の金額または比率に基づいているかどうかによります。上記で示した例は一般的なものであり、実際の状況によっては異なる結果が生じることもあるため、注意が必要です。

ある特定の支出が資本的支出と収益的支出のいずれであるのかを判断する際には、その支出が固定資産の価値にどのように影響を及ぼすのか、その支出が一時的なものか、長期的なものかを考慮することが重要です。確信が持てない場合は、専門の会計士や税理士に相談することをおすすめします。

経営戦略においても重要な資本的支出

資本的支出は、新製品開発や設備改善など、自社の成長と競争力強化のための重要な投資です。この投資は、市場環境や経済状況に応じて適切なタイミングで行わなければなりません。その際には、資本的支出によるリターンとリスクを考慮し、キャッシュフローに及ぼす影響を理解することが重要です。このことにより、企業の成長戦略を効果的に実行し、財務健全性を維持することが可能となります。

また、行った投資の情報を投資家に報告することで、投資家との信頼関係構築に寄与し、資金調達を成功に導くことも期待できるでしょう。したがって、資本的支出の適切な管理と戦略的な投資は、事業主にとって企業の持続的な成長を支える重要な要素となります。

企業経営において重要な資本的支出と収益的支出の見極め

資本的支出と収益的支出の適切な区別は、企業の財務状況の正確な評価にとって非常に重要です。これらの支出をどう判定するかによって、財務報告や税務処理、資本予算計画などにも影響を与えます。適切な支出の分類と計上は企業の健全な経営を支える重要な要素です。当記事を参考に、資本的支出と収益的支出について知識を深めてください。