訂正印とは、一般的に書類や文書の誤りの修正に使用される印鑑のことを指します。とはいえ、そもそもなぜ訂正印が必要なのか、なぜ訂正印でなければならないのかなど、わからないことも少なくないでしょう。
この記事では、訂正印の意義と正しい使用法についてくわしく解説します。訂正印の重要性を理解し、正確な文書作成にお役立てください。
目次
訂正印とは
訂正印の役割を確認しましょう。なぜ修正液や消しゴムではなく、印鑑で訂正しなければならないのかなど、訂正印の意義を押さえておいてください。
訂正印の役割
訂正印とは、契約書や公文書で発生した誤字、脱字、間違いを修正した際に押印した印影のことです。
この印は、修正箇所が後から不正に変更されたものではないこと、つまり、もともとの記述者が自らの意思で訂正したことを証明する役割を果たします。
たとえば、契約書作成時に金額を間違えて記入したとしましょう。その金額を正しく訂正するには、単に誤った数字を消して正しい数字を書き直すだけでは不十分です。なぜなら、その訂正が後から無断で行われたものでないか疑われる余地があるからです。そこで、訂正箇所に訂正印を押すことで、修正が本人によるものであることを示す必要があります。
修正液や消しゴムではなく訂正印が求められる理由
間違った部分は修正液や消しゴムで訂正することもできます。しかし、修正液や消しゴムで訂正された部分は、もともとそこに何が書かれていたのかがわからないのが大きな問題です。それゆえ、文書の信頼性を問われる可能性があります。
たとえば契約書であれば、修正液や消しゴムを使って間違った箇所を訂正すると、元の内容が分からなくなってしまいます。また、契約条件が後から無断で変更されたことを疑われる可能性が出てきてしまいます。これは、契約者間の信頼関係を揺るがす深刻な問題です。
それに対して、訂正印を使用すれば、元の内容がどのようなものであったかや誰がいつ修正を加えたかが明らかになります。訂正印は、もともとの記述者が自らの意思で訂正したことを確認し、その事実をほかの関係者に伝えるための手段です。
印鑑を押す行為自体が訂正内容に対する同意や確認を示す行為となり、それにより無断で変更されたという疑惑が払拭されます。もし、訂正印がなければ、誰がいつ訂正したのか、本当にもともとの記述者が訂正したのか、といった疑問が生じる余地があるのです。
このように、訂正印の存在と適切な使用は、文書の信頼性を維持するために非常に重要な役割を果たします。
訂正印の正しい押し方
訂正印とは、訂正した箇所を明示し、その訂正が無断でないことを示すために求められます。重要なのは、訂正箇所と訂正内容が一目で確認でき、かつ、訂正印で訂正した文字が読みにくくならないようにすることです。
一般的な訂正印のやり方
住所で「東区」と書くべきところを、「西区」と書いてしまったとしましょう。この場合の訂正手順は以下のとおりです。
「西区」という誤りの記載に対して二重線を引きます。次に、そのすぐ近くに訂正印を押します。ここで重要なのは、訂正印を押す位置を調整し、訂正した文字が読めなくならないようにすることです。それから、正しい情報である「東区」を新たに記述します。
これが一般的な訂正印のやり方です。こうすることで、訂正が本人によるものであることが明確に示され、文書の信頼性が保たれます。
文字を削除する場合
「契約」と書くべきところを「契約書」と書いてしまった場合、余分な「書」を削除するために、その部分に二重線を引きます。訂正印はその二重線の近くに押してください。このとき、新しい文字を書く必要はありません。
文字の間に追記する場合
「契約成立日」を書くべきところで「契約日」と書いてしまったとします。この場合、「契約」と「日」の間に「成立」を追記する必要があるので、まずVの字で追記箇所を明示して、そこに「成立」と書きます。そして、追記した「成立」の近くに訂正印を押して完了です。
縦書きの文書での訂正の場合
横書き文書で間違った部分を訂正する場合、該当箇所に二重線を引き、二重線のすぐ上や下に正しい文字を書きます。そして、間違った部分のすぐ近くに訂正印を押します。
縦書き文書の訂正も基本的には横書きと同様です。間違えた部分に二重線を引き、その右側か左側(一般的には右側)に正しい文字を書き、間違えた部分の近くに訂正印を押します。
金額を訂正する場合
金額を訂正する場合は、特に慎重に行う必要があります。間違えた数字だけでなく、金額全体を対象にすることが必要です。たとえば、「5,000円」と書くべきところを「500円」と書いてしまった場合、次の手順で訂正します。
「500円」という誤った金額全体に二重線を引きます。次に、誤った金額の近くに「5,000円」と新たに記述します。そして、訂正箇所の近くに訂正印を押して完了です。
加えて、訂正箇所の近くに、訂正内容をはっきり書いておくと誤解の余地がなく安心でしょう。
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訂正印として適切な印鑑とは
訂正印は、書類上の誤字脱字を正すための重要なツールですので、適切なものを選ぶことが必要不可欠です。具体的にどのような印鑑を訂正印として選ぶべきか、基本を押さえておきましょう。
訂正印の大きさ
訂正印のサイズについて特別な規定はありませんが、一般的には5~6mmが望ましいとされています。小さい印影は、訂正箇所を正確に指し示すために効果的だからです。このぐらいの大きさであれば、誤字脱字の訂正箇所以外に影響を与えず、文書の可読性を保つことができます。
訂正印の形状
形状については、丸形や小判型などが適切でしょう。どちらでもかまいません。ただし、会社内など同じ組織で訂正印の形状が決まっている場合は、そちらに従ってください。
訂正印の刻印内容
刻印内容に関しては、一般的には姓が用いられます。訂正印のサイズの制約上、3文字程度が刻印の限界となるでしょう。
名前が長い、あるいは複雑な漢字を含む場合は、印鑑の形状を楕円にするか、もしくは印鑑を作成する際に専門家に相談することをおすすめします。
訂正印の書体
訂正印の書体に特別な規定はないものの、誰が訂正したのかが明確になるよう、楷書体、隷書体、古印体といった明瞭な書体の選択が推奨されます。実印で使われる篆書体などは、読み取りにくく、誤解を招く可能性があるため、避けたほうがよいでしょう。
訂正印の素材
素材の選択にも注意が必要です。訂正箇所が狭い場合や行間が少ない場合でもスムーズに捺印できる素材が推奨されます。そのため、黒水牛、薩摩本柘、ブラストチタンなどの捺印性に優れた素材がよいでしょう。
シャチハタと朱肉の違い
シャチハタタイプの訂正印は、その便利さから広く利用されていますが、一方で朱肉を使う訂正印もその特性から適した場面が存在します。それぞれのメリットとデメリットを見ていきましょう。
シャチハタタイプの訂正印
シャチハタタイプのメリットとして、持ち運びが便利なことが挙げられます。インクが内蔵されているため、朱肉を別途用意する必要がありません。外出先や移動中でも手軽に利用できます。
また、朱肉を必要としないので使用も簡単です。誤って朱肉をこぼすなどのトラブルを避けられます。加えて、内蔵インクの性質上、一定の色調と濃淡を保てるのもメリットです。
一方、インクが消耗することがデメリットとして挙げられます。長期間使用しているとインクがなくなり、交換や新規購入が必要になります。
また、シャチハタタイプにもさまざまな種類の印鑑がありますが、朱肉を使用する印鑑と比較すると、形状やサイズの選択肢が限られることもデメリットです。
最大のデメリットは、公的文書や法的効力を持つ重要な文書に対して、シャチハタタイプの訂正印の使用が制限される、あるいは推奨されない場合があることです。
朱肉を使う訂正印
朱肉を使う訂正印のメリットは、社会的、法的に高い認識度です。実際、契約書などの重要な書類にはこちらが使われることが多いです。
また、朱肉を使う印鑑の場合、ニーズに応じて素材やデザイン、サイズを選ぶことができます。さらに、適切に手入れをすれば何十年と長く使えるのもメリットです。
一方、扱いが難しいことがデメリットの1つに数えられるでしょう。朱肉を均一につけるためのテクニックが必要です。また、朱肉がこぼれると服や文書を汚す可能性があります。
そのほか、印鑑と朱肉をセットで持ち運ぶ必要があることもシャチハタタイプと比べてデメリットとなる点です。朱肉が液体の場合、液漏れのリスクも考慮する必要があります。
重要度の高い文書ではシャチハタタイプの訂正印は推奨されない
シャチハタタイプの印鑑は大量に量産されています。そのため、特定の個人や団体に一意に関連付けることが難しいです。これに対し、たとえばオーダーによる朱肉の印鑑の場合は個別に製作され、その形状やデザインは個々の印鑑により独特であるため識別しやすいと言えます。
そのため、法的な重要性を持つ契約書や公的文書などで使われる印鑑は、その所有者を明確に識別できることが求められます。つまり、シャチハタタイプではなく、朱肉の印鑑が法的な文書ではよく用いられます。シャチハタタイプの訂正印は重要な文書では推奨されないことを覚えておきましょう。
失敗しない訂正印の押し方
印鑑の押し方は一見簡単に思えますが、実際にはさまざまな要素が関係しており、それらを適切にコントロールすることが求められます。訂正印で失敗しないために、以下のポイントを意識しましょう。
朱肉の付け方
朱肉は印鑑の全面に均一につけることが重要です。全体に均等に朱肉がつかないと、印影が不鮮明になり認識できない可能性があります。朱肉をつけるときは、印鑑を軽く押しながら転がすようにして全体に均一に朱肉をつけるとよいです。
印鑑の持ち方
印鑑を持つ手の位置は、安定感を確保するために重要です。印鑑を押すときは、手のひらでしっかりとハンコを支え、指先で正確に位置を決めるようにしましょう。また、押す力は均一に、垂直に加えることがポイントです。
安定した場所で押す
印鑑を押す場所は、なるべく平らで安定した場所を選びましょう。不安定な場所で印鑑を押すと、ずれや歪みが生じやすくなります。
注意深く位置を決める
印鑑は、書類上の指定された位置に正確に押すことが必要です。場所を間違えると、書類全体を作り直す必要が出てきます。紙に触れる前に手元を確認し、指定された位置に正確に押すように心がけましょう。
印鑑の保管
使用後は印鑑をきれいに拭き、保管場所も湿度や直射日光を避けるなど適切に管理しましょう。こうすることで朱肉が乾燥するのを防ぎ、次回の使用時にもクリアな印影を得られます。
訂正印の重要性を正しく理解し正しく使用すること
訂正印は、文書修正のために必要不可欠です。正しい使用法によって、誤字脱字や誤った情報を適切に修正し、文書の信頼性を高めることができます。訂正印の適切なサイズ、形状、刻印内容の選択に加え、訂正箇所の明確な記載や正確な押し方も重要です。
契約書や公的文書などの重要な文書作成において、訂正印の使用法を正しく理解し、適切に活用しましょう。