交通事故などのニュースではよく「過失」という言葉を耳にするかもしれません。なんとなく理解はしているものの、厳密な意味については知らないという人も少なくないようです。そもそも過失とはどんな状態を指すのでしょうか。

故意と過失の違い

過失を正しく理解するためには、「故意」という語の意味もきちんと理解しておく必要があります。

故意という言葉は、どうなるのか結果がわかっていながら行為に及ぶことを指しています。端的にいえば意図的にある行動をすることを意味します。

一方、過失とは、ある程度の結果がわかっていつつも、注意することを怠ったゆえに損害が発生してしまうことを指します。

つまり故意は、結果をしっかりと認識したうえで、意図的に行為に及ぶことを意味するのに対し、過失は結果をある程度認識したうえで、注意を怠ったために起きてしまった出来事といえます。

たとえば、赤信号の交差点で人を轢いてしまったケースで故意と過失にどんな違いがあるのかを考えてみましょう。

交差点にいた人物に、以前から殺意を抱いていたおり、スピードを上げて衝突すれば間違いなくその人は大けがを負うか命を失う、ということがわかっていたとします。そのような状態でアクセルを踏み込み、実際にその人を撥ねた場合には故意に起こした事故だといえます。こうした事故の場合、殺人罪や故意の不法行為にあたるため損害賠償が生じます。

一方、仕事による疲れが原因でついつい眠くなり、赤信号に気づかずに人を撥ねてしまったとします。この場合、赤信号なのに交差点に進入するとどういう事故が起こり得るか予測できたものの、不注意によって引き起こされた事故になるため過失事故ということができます。

過失の程度

過失は大きく重過失と過失（軽過失）の二種類に分けることができます。過失は注意を怠ったことが主な原因となる事故などを指しますが、注意を怠った程度によって過失の度合いを重過失と過失に分類するわけです。

重過失

使われている漢字からも想像がつくと思いますが、注意を怠った程度がより大きい過失を重過失と呼びます。重過失は、少しでも注意をしていれば十分に防ぐことができたであろう事故を起こした時に適用されます。裁判では重過失は過失ではあるものの、ほとんど故意に近い扱いとなることが多いです。

一例として、砂糖の海上運送の委託に関する損害賠償裁判では、船の乗組員の重過失が認定されています。

東京地裁昭和５７年２月１０日・判例時報１０７４号９４頁

【事案】キューバから日本まで砂糖の海上運送を委託したところ，航海中に荒天に遭遇し，通風筒から海水が浸入して砂糖が濡損した。船荷証券の最終所持人に保険金を支払った保険会社が代位して，砂糖に係る損害のほか，特別荷役費用の賠償を請求したのに対し，船舶所有者は，損害賠償の額は砂糖の減価額によって定まると主張し，これに対し，保険会社は，船舶所有者には重大な過失（平成４年改正前の国際海上物品運送法第２０条第２項において準用する商法第５８１条）があるから，一切の損害を賠償する義務を負うと主張した。

【判旨】重過失を認定した。本船の乗組員は，通風筒が水密性を備えておらず，通風弁が「開」の状態
にあるにもかかわらず，荒天に備えて帆布カバーを十分に固縛せず，これによって積荷である砂糖の濡損が生じたのであるから，船舶所有者の履行補助者である乗組員に重大な過失があったというほかない。

引用元：重過失に関する裁判例｜法務省

過失（軽過失）

一方、過失（軽過失）は重過失と比べて程度が低い場合に用いられます。しかし、重過失でないからといって、損害賠償が発生しないわけではありません。また、同じような事故であっても、誰が起こした事故なのか、その人の職業や立場によっても過失の程度は変わってきます。

たとえば、医療事故が発生した場合に、それが医師によるものなのか介護士によるものかによって、過失の程度は変わってきます。また、交通事故を起こした場合に、それがプロのドライバーが起こした事故なのかそれとも運転歴の浅い一般人が起こした事故なのかによっても、過失や損害賠償の程度は変わります。

損害賠償が発生する主なケース

過失や故意により損害賠償が発生することが多い事例に、債務不履行と不法行為が存在します。

債務不履行

債務不履行とは、かんたんにいえば契約違反のことです。

契約によって発生する義務を守らない場合には、債権者は債務者に対して契約どおり債務を履行すること、もしくは契約の解除を請求できます。さらに契約不履行により損害が発生した場合には、損害賠償を請求することもできます。

債務不履行で責任を追及する際には、債務者に帰責事由（落ち度）があることが求められます。この帰責事由は、債務不履行が故意によるものなのか過失によるものなのかを判断する重要な要素となります。

借金などの契約を例に挙げると、お金を借りた人（債務者）が期限を守らず、お金を返さない場合には債務不履行となります。次にお金を借りた人の帰責事由を確認しますが、期限を過ぎても返済しない理由が「お金がないから」というものであれば帰責事由は故意であると判断されることでしょう。一方、期限内に返済できなかった理由が、お金は準備していたものの返済期限を間違って覚えていたという場合であれば、帰責事由は過失によるものだと判断される場合が多くなります。当然のことながら、帰責事由が何であれ、お金を貸した人は借りた人に対して、お金を返すよう求めることができます。

不法行為

では、不法行為とは何を指すのでしょうか。

不法行為とは、他人の持つ権利や得られる利益を違法な形で侵害することです。

不法行為もまた故意によるものなのか過失によるものなのかに従って、損害賠償の程度が変わってきます。

不法行為に相当するものとして、交通事故や不倫、誹謗中傷などがあります。交通事故の場合、交通法規を守り、安全に配慮して車を運転していたにも関わらず、突然道路に飛び出して来た人をひいてしまったような場合には過失による不法行為となります。一方、交通規則を守っていない、たとえば速度制限を無視して猛スピードで走行していたことなどが理由で事故を起こしてしまった場合には重過失による不法行為となります。このような場合には、過失による不法行為よりも重い賠償責任を負うこととなるでしょう。

犯罪は基本的に故意に行われる不法行為のことを指します。過失と故意の違いでも説明したように、故意に起こした交通事故の場合であれば、犯罪として扱われることが十分にあり得ます。故意に行われる不法行為、すなわち犯罪は当然賠償責任も過失による不法行為より重いものとなります。

まとめ

過失とは、ある程度の結果を予測したうえで、注意することを怠ったゆえに損害が発生してしまうことを指します。

これは結果がどうなるのかをある程度は認識できたにもかかわらず注意を怠った、という意味です。結果がはっきりと予測できていても、あえて行為に及ぶ故意とは明確な違いがあります。

債務不履行と不法行為は、故意や過失によって損害賠償が発生しうる事例です。

原則として、犯罪となるのは故意による場合です。しかし、たとえ過失であったとしても、賠償責任が生じることがあります。さらに過失は、その程度が深刻な場合であれば重過失となり、程度の重さに比例して賠償責任も大きくなります。